第5話 共闘
「リボルバー…!」
毒ガス事件の学校で引き分けた後、逃げられたとだけ聞いていた。
「…久しぶりだな、ゴミ野郎」
顔が変わっているのは特殊メイクだろうか。
であれば、先程の発砲は〔リンゴ〕によるものなのだろうか。
「ふはははは!あいつか!お前が負けた相手!」
「黙れ」
隣に立っている男もこちらの隊服を着ているだけで敵なのか。
取り逃すわけにはいかないが、今の悠馬で勝てるのか。
銃弾射出用のユニットが一つ、リボルバーの体をすり抜けて現れる。
今の悠馬にあの銃撃を防ぎ切るほどの鉱石は作れない。
吸血鬼対策のためにつけた武装も、ボコボコに歪んでいる上、そもそも装甲が薄すぎてリボルバーの銃撃に対しては1秒と持たないだろう。
おまけに先程両断されたせいで右腕の武装は剥がれている。
(避け切れるか…?あの弾幕を)
だが避けるしか方法はない。
「じゃあなクソ野郎。景気づけに死…」
リボルバーが撃とうとしたその瞬間だった。
「…は?」
竹田努が悠馬の後ろを素通りするかに見えた。
ただ、それだけなわけがない。
竹田努は悠馬の腹に木刀の裏を押し付け、そのままぶっ飛ばした。
「ぐほえっ…!」
「…は?」
遥か遠くまで吹っ飛んでいく悠馬に、唖然としているリボルバー。
竹田努はその間も動きを止めていなかった。
リボルバーに一瞬で接近し、素通りついでに首を落とそうとする。
しかしそれは叶わなかった。
リボルバーの頭を後ろから誰かが掴んで、そのまま地面に叩きつけた。
「大丈夫ですか?」
「…お…まっ、マジで死ね…」
「はえーな!予想外だ!面白え!」
竹田努にしてみれば、リボルバーとその横の男には気づいていたものの、それ以上はいないと踏んでいたので、予想外だった。
先程までの恐ろしいほどの存在感のなさ。
気配を隠す技術が熟練している。
未知の敵を含め、3対1。
周辺状況を含めた上で、分が悪いのは自分の方だと踏んだ。
そうして一瞬で思考をまとめると、竹田努は藤原琴音の妹と青年を拾って、悠馬をぶっ飛ばした方向へ駆け出した。
「待て。てめえは死ね。」
リボルバーが撃ち損ねた銃弾を大量に放出する。
竹田努は一瞬右に跳びかけて硬化でブレーキをかけ、すぐさま左に跳ぶ。
リボルバーの弾幕が先程まで跳ぼうとしていたところを埋め尽くす。
ただ、一度これを見せてしまうと、後は二者択一に勝ち続ける必要がある。
リボルバーの方も織り込み済みで動いてくるのだから。
「努!眷属たちに紛れろ!」
青年が竹田努に言う。
確かに先程までの戦闘の影響で集まった眷属たちは盾としては弱くても、身を隠すには丁度いい。
竹田努は眷属たちの群れに紛れて、悠馬の方へ向かった。
_「痛っ…て…お前…マジで死ね…」
竹田努が悠馬のところまで来るなり、悠馬はそう言った。
木刀で殴られたことに関しては、直前で硬化を使ったため、ダメージを抑えられた。
ただ、ぶっ飛ばされた後、首から地面に追突したときは、首が折れるかと思わざるを得なかった。
そのせいで、竹田努に今にも殴りかかりそうになるほど、悠馬の怒りが高まっていた。
「…確かに、この人の運び方だけ雑にも程があったよね。努…まあ、あの状況じゃ仕方ないか」
「見捨てるも吝かならぬところ、あえて命を繋いだは、我が情けゆえ。肝に銘じ、感謝せよ。」
(そろそろ普通に喋れよ…)
まともな会話すらできる気がしない。
「努…戦力になると思って残したんだろ?喧嘩ふっかけない方がいいよ。」
そんな気はしていたが、やはり喧嘩を売られていたらしい。
(ふざけやがって…)
「まあ、それは一旦置いといて!場所変えよう。」
そう言って青年は近くの建物に入る。
それに続いて少女を抱えた竹田努、イライラしている悠馬の順番で中に入った。
「確認したいんだけど。」
青年が悠馬に問う。
「あいつらは共通の敵…って認識で問題ないよね?」
あいつら。
リボルバーや〔リンゴ〕のことを指していることは言うまでもない。
そして、竹田努や藤原琴音の属する組織と違って亜人対策委員会は確実に犯罪組織であると言える。
(優先度的にはあっちが上か…?)
「…お姉ちゃん…玉さん…っ」
藤原琴音の妹の目から涙が溢れて地面を湿らせる。
「美夏ちゃん…辛いだろうけど、琴音さんの魂まで取られるわけにはいかない。今はあいつらを撃退しないと…」
(そうか…こいつらは…)
リボルバーたちに大切なものを奪われたと言っていい。
「〔雷神〕さん。」
「部長」
ヘッドセットからの指示。
「あなたはまだ動ける。そうですよね?」
少しも疑っていない。
やはり、そこまで長い付き合いではないが、悠馬のことを分かっている。
信じてくれている。
「共闘してください。」
なら悠馬の取れる選択肢は一つだ。
「その認識で間違いない。」
どうせ、ここで共闘を断っても良いことはない。
亜人対策委員会がここに現れた目的くらいは探っておくべきだ。
「それで…あれは本当にリボルバー、なの?」
「変異的にはそうだ。あと、器小さそうな感じで口調も似てたな。」
青年は若干苦笑いして、悠馬に問う。
「…会ったこと、あるんだね」
「あるも何も、あいつを撃退して災害級認定されたから。あのカスと会ってなきゃ今俺はここにいない。」
悠馬がそう口に出した瞬間青年も、竹田努でさえも目を見開いた。
「君…あれを撃退したの?」
「ほぼ万全のときにな。今はそこのエセ侍と藤原琴音たちと戦ったせいで無理。」
竹田努と青年の眉がピクリと動いた。
シンクロし過ぎていて少し怖さすら覚える。
「努のことエセって言うのはやめてね。」
凄みの感じられる表情で青年が言う。
(…なんか、俺地雷踏んだ…?)
頭に血が上っていた悠馬は青年の表情で冷静にさせられる。
「でも、そっかあ…どうやって倒したの?」
「硬化でデカい刃鉱作って盾代わりにして突っ込んで殴りました。でもあのゴミはそこそこ行動読んでくるから裏かかないといけないです。」
「へえー、デカい刃鉱ってどのくらいの厚み?」
「こんぐらい。」
悠馬は肩幅程の大きさを両手で示す。
「…それ作れるの、多分この場で君だけなんだよね」
「は?」
確かに悠馬は触手が長い上に本数が多いから硬化の範囲が広いらしい。
ただ、先程竹田努を押しのけた最大射程の硬化はともかく、別にこのくらいはできるだろうと思っていた。
「…おいクソ侍!お前、俺をボコボコにしたんだからリボルバーもお前でなんとかしろ!いけるだろそれくらい!」
悠馬でもリボルバーを一回は追い詰めた。
最悪、防御力がなくても竹田努に全部避けさせれば済む話だ。
「…うぬは見ざりしやもしれぬが、あの場におりしは、リボルバーただ一人にあらず。」
「は?」
今までよりは分かりやすい。
あの場にいたのは確かにリボルバー1人ではなかった。
だからなんだと言うのだろうか。
そう頭に浮かべるのとほぼ同時だった。
壁が飛び出してくる。
背後を振り向く暇すらなかったので、はっきり見えたとは言い難いが、壁が熱したプラスチックのように歪んでいたのは確かだ。
すぐに変形に耐えかねた壁が崩壊を始める。
駆け出そうとしても遅かった。
隙間から這い出てくる熱と閃光。
出鱈目に膨らむ空気に消し飛ばされそうになる。
周りの景色が歪む。
爆音と共に天地がひっくり返って、悠馬は背中から地面に叩きつけられた。




