第4話 企てるなら多災の中に
「〔雷神〕さん!彼が2人目、優先度1の震災型災害級、竹田努です!」
ヘッドセットから〔スカイ〕の声が聞こえる。
「第2の災害級!?」
藤原琴音の妹は災害級じゃなかったということか。
妹もこれが終わればどうせ登録されるだろうが。
(実質災害級4人保有って、そんなのありか!?)
「今すぐ逃げてください!吸血鬼たちは人数を使えばなんとかなります!」
おそらく〔スカイ〕から見ても、今の悠馬では竹田努には勝てない。
だから悠馬に逃げろと言っている。
(ただ…)
「…っ!?」
竹田努が一瞬で悠馬に肉薄する。
悠馬は反射で後ろに跳びそうになった。
(…いやダメだ!)
悠馬は硬化でブレーキをかけて、竹田努に頭突きを決める。
竹田努は予想外だったのか、若干よろめいた。
悠馬はそのまま蹴りを決めて、竹田努をぶっ飛ばそうとした。
(は?)
蹴った右脚を片手で掴まれた。
木刀がフリー。
脚を落とされる。
それがこの場で充分な致命傷になることを悠馬も理解していた。
「がああっ…!」
咄嗟に全身から鉱石を生やして竹田努を押し除ける。
悠馬の硬化の最大射程まで目一杯鉱石を生成してぶっ飛ばす。
悠馬は同時に鉱石で地面を押し、後ろに跳んでから全ての硬化を解除した。
とにかく全力で後ろに疾走する。
「…っ!」
後ろから一閃。
竹田努の木刀。
咄嗟に屈んで避けたが、悠馬自身なぜ避けられたのかまるで分からない。
もう一回やれと言われたらおそらく無理だ。
それほどまでに、竹田努の速度は異常だった。
(これ絶対背を向けたらやられる…)
もう硬化のための粘液があまりない。
半端な効果をしたところで貫通されて致命傷を負うだろう。
避け続けなければ死ぬ。
「…」
竹田努は悠馬を睨み、再び地面を蹴る。
悠馬は返り討ちにしようと自分からも距離を詰めた。
木刀を振らせないように、間合いを詰める。
そのために敢えて自ら接近した。
「…え?」
竹田努が急停止した。
肉薄できていない。
悠馬のみが動かされたことによってできた中近距離の間合いは完全に木刀の射程。
(え…これって)
首に迫るべく、振られる木刀。
確実に骨まで裂き、首を飛ばす威力だった。
(死…なねえ!)
咄嗟に右足の真下に鉱石を生成して転ぶ。
悠馬が横に倒れ込んだことで木刀が空を切った。
それでもただ、一撃凌いだだけ。
転んでいる悠馬なんて竹田努からすれば的でしかなかった。
「やめて。竹田さん」
藤原琴音の言葉がなければ、悠馬はおそらく殺されていた。
(え…?なんで俺を…)
竹田努が悠馬の身体を取り押さえる。
「何故に候ふや。この者、汝らを誅せんと企てしなれば、斬り捨つるも道理、異見あるべからず。」
(…なんで古文の言葉使ってんだよこいつは!)
和装だし、銃刀法に引っかからないように侍ごっこでもしたいのだろうか。
「…すみません。なんて言ってるんですか?」
藤原琴音が尋ねる。
(仲間内で通じてないのかよそれで!)
「………」
誰も口を開かない。
「おーい!」
気まずい沈黙を破るかのように女性を背負った1人の青年が走ってきた。
背負われているのは白衣を纏った女性。
白銀玉だ。
「大丈夫ですか?琴音さん」
男が声をかける。
「…いや、助かったけど、竹田さんがなんで言ってんのか私には分かんないから会話ができなくて…」
「…努。口語分かんないわけじゃないんだから、時と場合によって使い分けな?」
「…それ、成し難きことと見ゆる。」
「…まあ、いいよ。そのための俺だしな」
(ああ…頭痛くなりそう…)
悠馬は古文が嫌いだったため、古文の追試を何回も受けさせられたのが若干トラウマになっている。
悠馬からしてみれば当たり前のように文語で話す人間とはなるべく近づきたくない。
「彼はこの者を討つべからずと仰せられるが、いかにしてそうすべからぬか、拙者にはさだかに分からぬ。」
「ああ…琴音さん。なんでこの人を殺しちゃいけないのか疑問らしいです」
呆れたように青年が言う。
それは悠馬も疑問である。
なぜ藤原琴音がそのようなことを言ったのか。
「…そいつは崖から落ちて頭打って死ねばいいと思ってる。けど、竹田さんが殺しちゃったら、竹田さんは犯罪者になっちゃうし、そうなると、この組織に竹田さんは居られないから。」
(…辛辣すぎるだろ。というか腕切り落とした時点で結局犯罪者にはなる気が…)
「御心遣い、深く感謝申し上げ奉る。かかる由あらば、討つことは控えさせ奉りとう存じ候。」
悠馬の頭が痛くなる台詞を竹田努が口に出す。
ギリギリ意味が分かりそうな気もする。
(ひょっとして…見逃されたってことでいいのか?)
ただ、任務はもう失敗だろう。
竹田努に勝てる者はいない。
撤退しなければ蹂躙されて終わりだ。
「玉。腕、治せる?拾ってきたんだけど」
「いけますよ。それじゃ、始めますね。」
悠馬の右腕が縫合でくっつく。
(原型残ってたのか…)
戦闘の余波でぐちゃぐちゃになっていてもおかしくはなかった。
ただ、若干違和感はあるので、暫くは動かさない方が良さそうだ。
「〔雷神〕!大丈夫か!?」
遠くから声が聞こえる。
任務という視点で見れば、とっくに手遅れではあるが援軍が駆けつけたらしい。
「今、〔雷神〕さんの命はこちらが握ってますが、確定していない犯人の勾留と、そちらの災害級戦力1人の命。どちらを優先しますか?」
「ぐっ…」
悠馬の命で取引をされている。
(…ん?これ、向こうが俺を見捨てたら俺死ぬんじゃ…)
「〔雷神〕さん。」
ヘッドセットから〔スカイ〕の声が響く。
「任務は失敗。撤退させます。」
「部長…すいません。俺のせいで」
悠馬が竹田努を引きつける体力を残していれば、まだ成功したかもしれないのに。
「問題ありません。吸血鬼が2人いたという情報が手に入っただけで十分ですよ。」
確かに、情報が不足していた。
向こうはなぜ、藤原琴音の妹が吸血鬼であることを秘匿していたのか。
災害級かどうかは不実体対策委員会が議論により決定することで、災害級にあたるだろうという旨の報告は義務ではない。
ただ、変異について報告しておいた方が怪しまれることは減る。
(ひょっとして…襲撃のとき眷属を操っていたのは…)
「…撤退します。〔雷神〕を返してください。」
「はい。勿論です。琴音のことを諦めてくれるなら。」
悠馬の想像に違わなければ、この組織はやはり確実に黒だ。
〔スカイ〕だって同じ結論に至っているだろう。
(ここは撤退するにしても…どうやって竹田努に勝つ?)
ここで相手がしらばっくれているのは、推論を事実とさせないためだろう。
ただ、確率が高いというだけでは割ける戦力に限界がある。
「ほら、努。解放してあげな。この人、全体の意思決定に背くことはないでしょ」
「…命拾いせしは、まこと僥倖。しかれども、次また非道をはたらかば、即刻に誅す。」
竹田努が悠馬への拘束を解く。
内容がまるで理解できない。
「次はない、だってさ。次会った時は是非、互いに仲良くしよう?」
(さっきからフレンドリーだなこの人…)
演技なのか、それともあちらの企てについて知らされていないのか。
どちらにせよ次会っても仲良くはできなそうだ。
「本当に…それができればいいですね…」
悠馬はそう言って歩き出す。
その瞬間だった。
“パァン”
銃声が鳴り響く。
「ぐっ…」
竹田努が咄嗟に青年に向かって倒れ込む。
銃声は三発鳴った。
その1つは青年への攻撃。
では、残り2つの標的は?
「…っ!お姉ちゃん!玉さん!」
少女の叫びが響く。
「…は?」
頭の中が真っ白になる。
なんで?
なんだこれ。
何が起こって…?
「…っ!待て!〔カーム〕!お前、何をやってるんだ!」
ウラヌス8の班長〔カーム〕が集まった援軍を跳び越え、走り出した。
「全員〔カーム〕を追え!」
その声で悠馬は正気を取り戻す。
(あいつが…撃ったのか?)
なんの目的があるのかは分からないが、独断行動で殺人。
しかも銃の携帯は今回許可されていない。
(追わないと…!)
悠馬が駆け出そうとした瞬間音が鳴る。
僅かにシュルシュルと紐が捻られるような音。
その音に対し、悠馬の頭は危険信号を鳴らす。
「全員屈め!」
声に出した次の瞬間、大量の銃弾が降り注ぐ。
多くの悲鳴が着弾の音によってかき消され、地面からは砂煙が舞う。
周りの状況が全く見えなくなった。
(間違いない…あいつだ)
悠馬は銃弾の元を見る。
顔は以前と変わっている上、不実体対策委員会の制服を纏っている。
しかし、見覚えのあるガトリングのようなユニットが2つ浮かんでいた。
「リボルバー…!」
そこに立っているのは間違いなく仇敵、リボルバーだった。




