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Other Worlds  作者: ゴマみそパスタ
0章 極上の火打石
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1話 いずれ堕天使へ、の企て

この話は幕間・0話の後に読んだ方が分かりやすいです。

魂なんてものがなければどんなに良かっただろう。

人の体に寄生して、人生を狂わせる。


電気に対する耐性と超反射、代償の醜い体。

吸血衝動と、思いのままに軍勢を従える力。

震災を起こす程、過剰な力。

不平等に与え、不平等に奪う。

こちらは何一つ望んでいないのに。


響きからして遺族にとっての一縷の希望程度にはなりそうなものだ。

だからこそ忌々しい。

実際はほとんど肉体の記憶なんて受け継がない。

魂に宿る人格なんて、本人とは全く似ても似つかない紛い物なのだ。

死者との再会なんて叶わない。

それが、望んでもいない力を与えて人の人生を弄ぶ免罪符になるわけがない。

だから…

「いずれ、私が…」




_「以上を持ちまして、入寮式を終了させていただきます。後ろの列の方から順に解散してください。」


その言葉が響くと、ホールに集められていた人たちは統率を取りつつホールから出ていく。

神崎悠馬もその1人だった。


(結構あっさり終わったな…オリエンテーションの準備まで急いで終わらせる必要なかったか?)


だが、先に準備していたからスムーズに次の場所まで移動できる。

移動すると、もう既に担当者はいた。

少し茶色が混じった黒い髪をオールバックにしている。

顔つきからしてそこそこ歳を取っているが、無駄の削ぎ落とされた肉体をしていて強そうだ。

まだ時間がある。

悠馬は時間が来るまで仕事のマニュアルを見て暇を潰すことにした。


(硬化の練習…はしくると怪我するからなあ…)


悠馬の他にも2人、男と女が来た。

恐らく同じ担当者なのだろう。


(そろそろか…)


担当者の方に顔を向ける。

それから少しして担当者は声をあげた。


「時間になりました。全員が揃っているか、点呼を取りたいと思いまーす。ではまず、〔ウォーク〕さーん。」

「はい。」


悠馬が答える。


「〔セトラ〕さーん。」

「…」

「〔セトラ〕さーん?いませんかー?」

「そう淵源たる地獄の門より現界への天災を逃れるがごとく、我が器の名を呼ぶな。火急の用ではないであろう?これより永遠に(カルマ)を同じくする守護者どもの波動を、我が(ソウル)にて刻印させる刹那だった。ちょうd」

「はい、いますねー。次」


担当者は〔セトラ〕を無視して進めた。


(なんだ、あの痛い人…)


清潔感のある茶色のショートカットヘアーと黒ローブと黒手袋という(あまり制服らしくはないが)歴としたこの組織の制服をしっかり身に纏った姿からは想像し難い厨二病だった。

悠馬も一時期あんなものだったので、著しく共感性羞恥を覚える。

それにしても、あそこまで酷くなかったとは思うが。


(社会人になってあのレベルのアレは流石にやばいな…)


なんとなく「急がなくていい。仕事仲間を見ていた。」というニュアンスが分かってしまうのがなんとも恥ずかしい。


「〔スズメ〕さん。」

「はい。」


返事をしたのは金髪の男の人だった。

恐らく染めているというわけではなく、地毛だろう。

眼鏡をかけていて、整った顔立ちをしている。

体つきはそこそこガッシリしていて、やはりそれなりに戦えそうだ。


「では、これからオリエンテーションを始めまーす。この班はウラヌス11。霊体組織犯罪の際の、対人戦闘を専門とする自由戦力チーム、ウラヌスの一つです。そして僕はこの班の班長となります。〔ツツジ〕でーす。」


そう、悠馬も含めてここにいる面々は普通じゃない。

一般には秘匿されているが、この世には魂という生物が存在する。

通常は実体のある物質と互いに不干渉だが、生物の神経系に寄生して生きる。

一般的な幽霊のイメージに近い存在。

もっとも、普通の人間には認識することもできないので、明かしたところでオカルト扱いされて終わるのがオチだろう。

悠馬たちのような中途覚醒者を除いて。


「皆さんはまあ、基本的に、中途覚醒者や魂によって構成された犯罪組織と戦うことが主な仕事って感じですかね」


この界隈での中途覚醒というのは、魂が生物の神経系に寄生したままの状態で休眠から目覚めることを指す。

これが起こった魂の宿主は、中途覚醒者と呼ばれ、自分の魂との感覚共有や魂の制御が、ある程度可能になる。

人間が魂を知覚できるようになる唯一の手段と言っていいだろう。

そうして得た超常の力を使って、治安維持をするのが悠馬たち自由戦力の役割だ。


「皆さんが担当するのは基本的に荒事の部分でーす。必要な力は戦闘能力と協調性が主となるので、その二つを伸ばすように普段から意識しましょうかー。今日はまず、戦闘における自分の得意なことを紹介していただきますねー。」


話によると治安維持の中でも、この班は戦闘が主な役割らしい。

能力の共有が必須と言っていいだろう。

〔ツツジ〕が口を開く。


「では僕からいきます。僕は硬化によって、傷口の縫合ができまーす」

(え?何それ…)


全くやり方がイメージできない。

そんなことができる人を悠馬は見たことがない。

悠馬は硬化を実戦で使うと自爆して怪我するレベルなので、本当に眉唾物だ。

硬化で傷口の縫合なんて可能なのだろうか。


「貴様の能よりいでし波紋…其れが我が(ソウル)に響いた刻より、永遠が過ぎ去っている。」

(はあ!?)


悠馬は目を見開いた。

普通の人は〔セトラ〕の発言に対して、戸惑いこそすれ、驚きはしないだろう。

意味が理解できる悠馬からしてみれば、話が違うが。

訳すると〔セトラ〕はどうやら〔ツツジ〕が硬化による縫合が可能だとずっと前から知っていたらしい。


(なんで知ってんだよそんなこと…)

「この場の長は波紋を起こした…次は我が波紋を貴様らのソウルに響かせるときだ。」

訳)班長の自己紹介が終わったので次は私の自己紹介に入ります。


そう言って〔セトラ〕は話し始める。


「我が器は(ソウル)を淵源とす神力により、深淵を断つ雷速の領域に至る!我が(ソウル)の化身を御することで我が器は化身に耐え得る。化身は我が器の盾となり、深淵を防ぐだろう…」


元厨二病の悠馬以外は恐らく理解できていないが、〔セトラ〕本人曰く、彼女は魂による影響で肉体が変化しているらしい。

悠馬と同じ例だ。

そして、その変化の結果、肉体の中でも脚が強化されており、速く移動できる、といったところだろう。

そして、硬化は、扱いを間違えて自爆しない程度には扱えるらしい。

口調を聞いてるだけで恥ずかしくて、悠馬の顔が赤く染まる。

もう〔セトラ〕に喋って欲しくない。

これだと、普通に会話してるだけで学生時代を悔やむことになりそうだ。


「じゃあ、次は俺が…」

「〔ウォーク〕。貴様より出る波紋は十分…」

「え?」


〔セトラ〕に止められた。


(なんだこいつ…)


悠馬はまだ何も言っていないのに紹介する必要がないというのはどういうことなのか。

他人の自己紹介を邪魔するのは流石におかしい。


「なんでそんなこと言うんですか?」


悠馬が尋ねると〔セトラ〕から全く予想していなかった答えが返ってきた。


「貴様の能と功、名が、永遠のままに大災の如く世を揺れ動かした。貴様の(ソウル)にその余波が響く刹那は存せぬか?」

「…は?」


とうとう訳せない厨二病言語が飛んできた。

どう考えても間違っているであろう意味にしか繋げられない。


「俺…そんなに有名だったっけ?」

「深淵の波紋すら貴様に響かぬ永遠の昔、神の怒りが如く破魔が貴様より深淵へ生じた。其の波紋は空を伝わり、世に広まったのだ。」

(ああ、そういやそんなことあったっけ…)


学生時代の悠馬も、人手不足の現在では当然現場に何回か出ることとなった。

そのときに一回、悠馬は監督者の指示を聞いていなくて道に迷った結果、たまたま犯罪組織と出会してその場にいた構成員全員を意識不明まで追い込んだことがある。

後で監督者や教員に怒られて7日間補習を追加された。

現場を舐めて痛い目を見たのだ。


(あのときは本当最悪だったな…)


でもそれはそんなに広まっているのだろうか。

班長の硬化の腕前を、この場で〔セトラ〕だけが知っていた。

〔セトラ〕が異様に情報通なだけの可能性もある。

というかそうであってほしい。

〔セトラ〕の言葉はどうせ他の人からしたら分からないのだ。


「僕は一応〔ウォーク〕さんの名前は知ってましたねー、勿論、ここの班長に抜擢される前の話ですよ」

(終わった…)


問題起こして7日補習を追加されたというエピソードが出回っているのは最悪でしかない。


「まあ、それはそれとして得意なことは教えてほしいですねー、学生時代と比べて成長してるところもあるでしょうし」


悠馬の気分は下がっているが、文句も言っていられない。

流石にここで怒ったりするのは人としておかしい。


「〔ウォーク〕です…硬化は3回に1回くらい失敗して怪我します…魂の影響で肉体が変異してて普通の人より反応速度が速いのと、電気に耐性があります…あと、身体能力はそこそこ高い方だと思います…」

「学生時代と同じくらいなら、身体能力はだいぶ高いですねー、胸張っていいと思いますよ」


他の人よりはあるだろうから「そこそこ高い」と言っている。

別に身体能力に自信がないわけではないのだ。

今の悠馬が自信がないように見えてしまうのは、学生時代の黒歴史が出回っていることを知ったからだろう。


「では〔スズメ〕さんも、お願いしまーす」

「…はい。」


〔スズメ〕は困惑したような表情をしていたが、表情を消して、自己紹介を始めた。


「〔スズメ〕です。硬化は外皮を硬くすることまではできます。対人戦闘での相手との動きの読み合いは得意だと思っています。よろしくお願いします。」


4人中3人。

硬化ができる人が多い。

悠馬はたまに失敗するのに。


(おかしくないか?この人たち)


ただ、仲間が強いというのは良いことなのであまり気にする必要もないかもしれない。





_「はーい、最後はここ。監獄、ですねー」


あの後、悠馬たちはこれから住むことになるこの街を案内されることとなった。

おそらく事件が起きたときに迅速に対応できるようにする意味もあるのだろう。

施設を順番に回って、とうとう最後の場所になった。


「この監獄は勿論、ただの監獄じゃあありませーん。ここには宿主を持たない魂などの、地上の監獄に入れづらい犯罪者を入れてまーす。あと、単純に地上の警察の権限を使わないで、僕らみたいな自由戦力が捕らえたやつも、ここに入りますかねー。ていうか、そっちのが多い例ですねー」


つまり地上の警察として動けない件に関係する犯罪者を収監する場所らしい。


「この町みたいな冥土町自体、結構少ないんでー、脱獄とか起きたら皆さんいち早く報告して対処にあたらないと、それなりにやばいですよー。監獄の母数が少ない分、1監獄に囚われてる犯罪者どもは多いですからねー。まあ、滅多にそんなこと起こりませんけどねー」

(フラグみたいな言い方するな…まあ、実際そんなにないんだろうけど…)


そんなことを考えていると、監獄の方に何かが見えた。

どうやら、数人の人たちがこちらに向かって走ってきているらしい。

全員服が白黒縞模様。

常人の感性ならあまり進んでやろうとは思わない格好だろう。


「あー…」


班長が端末を取り出して電話をかけ始める。


「フラグって、本当にあるんですねー」

「えっ…ちょ、それって」


服と言い、〔ツツジ〕の発言と言い、嫌な予感しかしない。


「初仕事ですね。皆さん」


〔ツツジ〕が先程までとは違う、覇気の籠った声で言う。


「脱獄囚を制圧しましょう。」


なんで主人公になったのか分からない悠馬さんの物語開幕です。

早く主人公降りて欲しいです。

ちなみに補足ですが、悠馬たちの住む冥土町は地下にある魂たちの住む町です。

人間も住んでます。

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