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Other Worlds  作者: ゴマみそパスタ
1章 花火は誰を燃やすのか
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第1話 槍玉

「すいません。肝心なときに居なくて…」

「あなたを動かしたのは私です。責任の所在は私にありますよ。」


不実体対策委員会本部。

襲撃を受けた後なだけあって、PCの半導体部品や資料が散乱する惨状だった。


「誰がこんなことをしたんですか?こんな…」


職員は普段と比べてほとんど見えない。

おそらく、病院か医務室に怪我をして運び込まれたのだろう。

死人も出たと聞いた。

それに加え、監獄も同じ者たちからの襲撃を受けているらしい。


(許さない…)


悠馬がいない隙を狙ってこんなに多くの人を傷つけるとは。

肝心なときに居なかった。

だからこそ、この事態を引き起こした者を絶対に捕らえる。


「あまり軽はずみな断定はできません。」

「軽はずみな断定なんて部長はしないです!大丈夫ですよ!」

「そういうことじゃありません。〔雷神〕さん。」


悠馬のコードネームは、災害級になってから変わった。

災害級には名に神を混ぜてコードネームをつけるのが決まりであるらしい。

〔ウォーク〕に比べて厨二病染みていて、正直呼ばれる度恥ずかしい。


「そういうことじゃないって…どういうことですか?」


軽はずみな発言をしないなら問題ないのではないだろうか。


「私は不実体対策委員会刑事部の部長という立場があります。発言一つ一つに責任が伴う以上、多人数での確認をしたわけではない私の主観でしかない事象を、さも真実であるように語るということはできません。」

「…なんか、凄い真面目で窮屈そうですね」


自分から言論の自由を縛らなければいけないというのは、なかなか大変だろう。

悠馬だったら果たして耐えられるだろうか。


「別に、俺はそれを命令として取るわけじゃないので良いと思いますよ?」

「…仮に命令として受け取ることはないとしても…あなたは勝手に動きかねないでしょう…」

(げっ…)


流石にそんなことない。

そう言いたいが、そういう風には言い切れない。

現場待機を言い渡されていても、情報を渡されただけで勝手に動き出したこともある悠馬だ。

信用されなくても無理はない。


「まあ、一旦待ってください。確認が取れたら、高確率であなたに回る案件なので」

「…それなら、まあ、分かりました。」


あまり納得はしていない。

部長が口でああ言っていても、実際悠馬に回ってくるかは分からない。

ただ、こういう時の部長は回ってこなかったら回ってこなかったでしっかり教えてくれる。

だから悠馬が何も知らされないという心配はしていなかった。






_「今回の案件は件の襲撃絡みです。」


結局、悠馬に回ってくることになった。


「襲撃者と脱獄者は確認できる限り全員、吸血鬼の眷属でした。」

「吸血鬼?」


御伽話ではあるまい。

そんな存在、実在するのだろうか。


「吸血鬼はあなたたちと同じ実体干渉系の変異種の器です。変異能力の命名については、ドラキュラ、ヴァンパイア、吸血鬼などと呼ばれる存在に近い変異が起こっていたためですが、吸血鬼の器がドラキュラの話のモデルとなったという説もあるので、どちらが先かはまだハッキリと分かっていません。」


つまり、ほぼ創作の吸血鬼と同じものと見ていいのだろうか。


「コウモリに変身したりする人間なんているんですか?にわかには信じがたい話ですけど」


流石に肉体の構造が変わっただけで複数体のコウモリに変身できるというのはあり得ない。


「それは噂の尾ひれと言っていい部分です。実際の吸血鬼の器は血を吸う、肌が青白い、再生能力が高い、身体能力も高い、血を与えて眷属を作る、眷属を操る、といった感じです。」


眷属を操る部分も納得できたものではない。

先程までなんの繋がりもない赤の他人だった者に血を入れただけで操れるようになるものだろうか。


「これが吸血鬼の特徴です。ただ、あなたを吸血鬼と戦わせるというのは、あまり本意ではないです。」

「え?なんでですか?」


犯罪者を捕らえるのだから、戦闘は必至だろうに。


「…状況から推察してほぼ黒でも、別に確定ではないということを覚えておいてください。現在の吸血鬼、藤原琴音は、不実体対策委員会公認の非政府組織、【特異な体質に悩む人々を守る会】に属しています。対立した場合、彼等は亜人対策委員会に匹敵する脅威です。現状、藤原琴音は襲撃の件以外で問えそうな罪状も確認できていませんから。」


なるほど。

つまり、今回は平和的解決が求められるらしい。

ただ、〔スカイ〕は一つ気になることを言った。


「亜人対策委員会に匹敵するって…どういうことですか?」


亜人対策委員会について、悠馬が分かっていることと言えば、手練の暗殺者〔リンゴ〕と、災害級の〔リボルバー〕が所属しており、悠馬のように、身体が変化している実体干渉系の変異種を狙っている組織ということ。

両方とも脅威ではあったが、引き合いに出されるレベルだったとは知らなかった。


「…彼等は3名の震災型災害級を保有しています。」

(…ん?)


聞き間違いだろうか。

「3名」の後をしっかり聞けていたか少し怪しい。


「え…すいません。もう一回お願いします」

「…3名の震災型災害級を保有しているんです。彼等は。」


震災型災害級。

悠馬が会敵したのはリボルバーのみなので、現状、リボルバーが基準と考えるしかない。

リボルバーははっきり言って、偶々勝てただけだ。

悠馬からしてみれば、認めたくはないのだが、攻撃の当たりどころによっては普通に死んでいた。

実際にガトリングガンを見たことがあるわけではないのだが、正直、リボルバーは連射速度で言えば実際のそれと遜色ないであろう、歩く近代兵器だ。

それが3人。


(…いや!でも、俺でも登録されるようなものだし、最低基準は流石にもうちょい低いはず…)


そうだ。

1回目で貧乏くじを引いただけだ。


「まともにやり合うのであれば、何かしらの兵器でアドバンテージを取るしかない。その場合、尋常ならざる死傷者が出ることは覚えておいてください…絶対に。軽率に。手を出すことのないように。」

「…はい。」


冷静に考えてみれば、例え全員最低基準であったとしても、3人は他組織と比べて過剰もいいところだ。

正面から敵対した場合、被害は今回の比にならないかもしれない。


(それに…)


拳を振るわないで、話し合いで解決できるなら、それで良い。

相手の事情を知った上で対処できるなら、それが1番なのだから。








_そして現在。

悠馬は武装集団に囲まれて、なんなら悠馬も武装して、ウラヌス7〜9、ヴィーナス8〜12の班長たちの後ろに控えていた。

吸血鬼や眷属に血を入れられて、こちらが眷属になってしまわないよう、歯が通らない程度の武装で首から下は肌を覆っているのだ。

黒ローブやフードがなければほとんど機動隊にしか見えないだろう。


(多すぎだろ…人)


事前に資料に目を通したが、全員の名前を覚えるのは無理だ。

一つの班に4人から6人の班員がいるので、50人近くの人が居る。

正直班長8人分の名前すら覚えられているか怪しい。


「不実体対策委員会刑事部だ。事前勧告に対する答えを聞きに来た」


ヴィーナス8の班長、〔スイレン〕が告げる。


「え…?す、少し待ってください!」


向こうからしてみれば急な話なのか、会員が慌ててボロ屋の奥へと向かう。


(ボロ屋だけど…スラムにあるにしては、なんか壁とかがしっかりしてるな…)


特異な体質に悩む人々を守る会は房総半島を拠点にしている。

移動が多めの組織ではあるが、安房や上総のスラムは特に、各地に点在する施設の中でも大規模な拠点となっている。

スラムの広範囲に息のかかった建物があるそうだ。

地元の人にしてみれば、その範囲は治安が比較的良いので、安心して住めるらしい。

今居るのはその範囲の建物の一つ。

その入り口で止められている。


(大人しく吸血鬼が出てくれば楽だけど…)


悠馬がそう思っていると、1人の女性が奥から出てきた。

近くに護衛であろう人物が2人付いている。

肌は健康的な色をしていて、白衣に手袋、マスクを着けている。


「こんにちは。不実体対策委員会の皆様。私は特異な体質に悩む人々を守る会、医療班班長の白銀玉と申します。」


白銀玉がお辞儀したときに黒い髪を後ろで団子にして束ねているのが見えた。


「話は聞きました。琴音の身柄を引き渡せと…すみませんが、こちらとしては承知しかねます。お引き取りください。」


白銀がキッパリと告げた。


「…どうしてもですか?」

「生憎、身に覚えのない罪で仲間を引き渡す気はない、というのが我々の総意です。」


どうしても譲る気はないらしい。


「…我々の本部、そして同市内の監獄は吸血鬼の眷属の集団によって襲撃を受けました。脱獄者も全員眷属です。申し訳ありませんが、この状況では吸血鬼である琴音さんの関与が考えられるのが自然です。」

「吸血鬼の眷属ですか…別に眷属には自分の意思がないわけではありません。囚人ということは、全員犯罪者なのですよね?琴音が正当防衛として眷属化させた者は数多くいるので、我々から運良く逃げた者たちが徒党を組んだのでしょう。」

「…なぜ特定の組織というわけでもない者たちが眷属という一点で徒党を組むのか、我々には分かりませんでした。それに、罪がないなら大人しく勾留を受け入れても、裁かれることはありません。安心して、琴音さんを預けてください」


双方一歩も引かない。


(ここまでくると組織ぐるみで何か隠してるんじゃないか…?)


いくらなんでも、勾留であって懲役ではないのに拒みすぎな気がする。


「この状況が狙いではないですか?琴音に復讐するため、吸血鬼の器に疑いが向けられるようにして…そもそもあなたたちは琴音に見張りをつけていますし、我々もそれを了承したはずです。アリバイは保証されています。」

「ですから、罪がないのであれば大人しく裁判で無罪を勝ち取ればいいはずです…それに、あなたの推理は一理あるとしても、琴音さんへの疑いが晴れるわけではありません。」

「…勾留は了承できませんが、捜査協力は喜んでさせていただこうと思っています。眷属たちを無力化するのは琴音がいれば簡単でしょう。」

「…この件の被疑者とその属する組織を、この件で頼るわけにはいきません。交渉に応じる気がないのであればこちらも武力行使に出ろというのが、上からの命令です。」

「ええ、すみません。お引き取りください。」


白銀の答えを聞いて〔スイレン〕が告げる。


「…全員突撃!ただし〔雷神〕は待機!」

(…まじか!?)


あまりにも性急ではないだろうか。

〔スカイ〕吸血鬼が犯人だと断定することに対して、慎重だったが、不実委員全体で見ると、決定的だと思っている者がほとんどなのだろうか。

全く迷いがない。

こんなことをして、この後の関係悪化を免れるものだろうか。

ただ、悠馬だけ待機だ。

今ここに居る向こうの災害級は2人らしいが、まだ相手が災害級を出していない以上は悠馬は過剰戦力。

ギリギリで踏みとどまっていると言えるだろうか。


「…そうですか。それなら仕方ないです。強制的にご退却願います。」


白銀が言う。

護衛が前に出て、〔スイレン〕たちを食い止めようとしたが、流石に数が多い。

10秒も経たずに突破された。

ただ、白銀はその間に建物の奥へと逃げた。

護衛としての任務は最低限果たしていると言って良いかもしれない。


「琴音!逃げなさい!」


白銀の声が響く。

それから5秒もしなかっただろうか。

〔スイレン〕たちの進軍が止まった。

おそらく、向こうも対抗して、戦闘員を出してきたのだろう。

悠馬には見えないが。


「〔ウラヌス〕!〔ヴィーナス〕11、12!全員窓からの侵入に切り替えろ!」


誰かしらの指示が飛ぶ。

悠馬はこの声をおそらく聞いたことがあるが、どの班長の声かまでは思い出せない。

狭い通路では人数の利を活かせないので妥当な判断だ。

それぞれの班の班長が班を率いて窓からの侵入に切り替える。


(…俺だけ、役に立ててない…)

「吸血鬼が目の前に落ちてきたりすればな…」


吸血鬼を抑えてしまえば一応終わりだ。

戦闘命令が出ていない悠馬にも、そのくらいは出来る。

このままだとなんの役にも立たず終わってしまう。


「ぐわああっ…!」


4人ほど人が降ってきた。

先程窓から突入した班の一つだ。

最初に目に入ったのはそうだった。

すぐに大量の人間が窓から溢れ出す。

軽く数えただけで20人はいるだろう。

あれを4人で全て相手取ろうとしたらタックルされるだけで負けるのも無理はない。


(…って、そんな場合じゃない!)


潰される。

このままだとあの圧倒的質量が悠馬を叩き潰す。

悠馬は地面を蹴り、一瞬でその場を離れた。

“ドッゴオオン”といった感じの、およそ人間から鳴るとは思えない音がして人間の塊が地面に落ちる。


(どれだけ居るんだよ…?)


悠馬は落ちてきた人間の塊に目を向ける。


「…は?」


思考が一瞬止まる。

落ちてきた人間は全て肌が青白く、それでいて血管の赤色はよく見える。

悠馬のウラヌス11時代の事件。

学校で毒ガスを撒いていた少年と同じ肌をしていた。


(これ…吸血鬼の眷属ってことか…?てことはあいつは…)


吸血鬼の眷属だったのだ。

あの事件も、吸血鬼が関わっていた。


(じゃあ…あの学校の惨状も…吸血鬼が…)


人の塊の上から1人の少女が顔を出した。

写真で見たのだ。

写真で見て、まず最初に覚えた。

サイドテールの金髪。

緋の眼。

今回の事件で一番重要な顔を見間違えるはずがない。

悠馬は顔を見るなり地面を蹴った。

接近して思い切り顔をぶん殴る。


「げほっ…」

「お前が…藤原琴音か!」


惨状を招いた黒幕。


(俺が…)


絶対に捕まえる。

地球を満たしている大量の霊体の液体のことを指して霊海って言うらしいですね。私と悠馬さんは知らなかったんですが、同僚のことを勝手に弟だと思ってた人が教えてくれました。

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