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Other Worlds  作者: ゴマみそパスタ
0章 極上の火打石
16/25

15話 除いた穴

積み重なるゴミの山。

その上で周囲を確認しながら、必死にゴミを漁る少年が居た。


かつての大災により、世界は分断の一途を辿った。

この国も例に漏れず、政府は力を失い、数えきれないほどの勢力に分断された。

それから約100年。

復興拡大と連合を繰り返して政府がおおよそ一つにまとまってなお、未だにスラムは多い。


少年は、そんなスラムに妹と2人で暮らしていた。

両親は数年前、スラムを根城にする反社会勢力、所謂ヤクザによって殺された。

スラムは政府の目が比較的届きにくい場所だ。

反社会勢力は、内部からも、外部からも引き寄せられてくる。

腐っても都会なので、そんなスラムには及ばないが、ゴミ捨て場の治安はそこまで良くない。

都会の人間なら好んで近づこうとは思わないからか、スラム同様、反社会勢力等を警戒する必要がある。


(もうちょっと…いや、そろそろまずいか)


少年の長年のゴミ漁りによって身につけた勘だ。

大体ここのゴミ捨て場に人が来る日と時間は決まっている。

その原則から外れた人の気配、足音は大抵危険信号だ。

関わると碌なことにならないのは目に見える。


(逃げないと…あんな奴らに顔を覚えられでもしたら…)


殺されるか、使い潰されるかだ。

そんなことになるわけにはいかない。

少年は、遠くから近づいてくる微かな足音に呑まれる前に逃げ出した。





_「ただいま」

「あ…お兄ちゃん」


板を組み合わせて、何とか屋根としては機能するようになっている。

そんな場所が少年の家だった。

子供2人で、いつまで住めるか分からない場所に建てるとなると、雨風が凌げれば何でも良い。

広さからしても、まだマシな方だ。


「えっと…ごめんね?手が震えて、火が…まだ、起こせてなくて…」

「いいよ。まだ時間あるし。一応、枝を集めて来て。僕がやるから」

「…ごめんね。お兄ちゃん」


火を起こす作業は、生きていた頃は、主に両親がやっていた。

少年の方はともかく、妹にしてみれば未だ不慣れな作業なので無理もないだろう。

少年は干した草と棒、板に向かい合ってひたすらに棒を回した。

まだ小さかった頃の少年の横に立っている父。

懐かしい光景が思い起こされていた。


(考えるな…もう、会えないんだから…)


あのとき、もし自分一人で走れていたら。

自分が木偶でなかったら。

そんなことが頭をよぎってしまうから。


(もう二度と…あんなことには…)






_「…けほっ、けほっ」

「…?」


誰かが咳き込む声で目が覚める。


「…!?ユキ!ユキ!大丈夫か!?」

「おにい…ちゃん」


急いで妹に近寄ると顔が赤い。


「…っ、熱が…」


両親が死んでから、病気になるのは初めてだった。

少年は自分の分のボロ布も妹に被せ、ペットボトルに溜めた雨水を別のボロ布にかけて、妹の頭に乗せた。


(どうする…?)


こういうとき、両親はどうしていただろうか。

とりあえず、火は起こす必要がある。

食べ物や飲み物も絶やすわけにはいかない。

服も、なるべく洗ったものを着せていたような気がする。


(火は大丈夫。飲み物は…雨水が若干。食べ物…量が不安だ。服…)


火を起こして、水を汲んで、食べ物を漁って、ボロ布を洗濯する。

全てこなす時間なんてあるのか。


「いや、そんなこと問題じゃない…やるしか…」

「…お兄ちゃん」

「…!」


妹が、床に両手を着いて上半身を何とか起こしている。


「別に…こんなの、大したことないよ。だから、そんなに心配しないで」

「……」

「お兄ちゃんが体壊したらどうするの?私は…最悪死んでも私が死ぬだけだよ?でも、お兄ちゃんが体壊したら…多分私も死ぬよ。私…結局一人で何もできない、ダメなやつだから」


確かに、妹の方は少年に比べれば、出来ることがあまりにも少ない。

それでも。


「そんなこと…ないよ」

「ううん。お兄ちゃんが動けなくなったら、私は死ぬ。だから、お兄ちゃんは…もう少し自分の体を大切にして。お兄ちゃんの命は2人分の命だから」


それでも。


「僕だって…!僕だって!お前がいないと!」

「じゃあ、やっぱりお兄ちゃんは体を大切にして。お兄ちゃんの体が壊れちゃったら…私はその瞬間死ぬと思って」

「……!分かったよ…」


冷静になってみると、確かに一理あることだ。

今まで、子供2人で何とか生活して来たのだ。

少年が体を壊して、生活が成り立つとは思えない。

ただ、今まで通りやっていては、明らかに時間が足りない。


(お金はない…けど、売れるものなんてないし、あんな奴らに借りたらそれこそ終わりだ…)


残された手段は少なかった。





_都会のビル群の中を歩くというのは、少年にとって慣れないことだった。

どうやら都会の人間にとって、少年の方も見慣れない存在であるらしく、少年の纏うボロ布や、ボサボサの髪は、道行く人から注目を集めた。

これから少年がやろうとしていることを考えると、少年にとって望ましくはない状況だった。


少年は駐車場の備え付けられた建物の中を覗く。

食料、飲料水、ペットボトル、全てが棚の中にある。


分かっている。

都会の人間なら、金を使って取引するものだということは。

恐らく、これから少年の取る行動は、都会の常識からは外れている。

ただ、無防備にそこに置いているのだから、盗まれても文句は言えない。

店の中に入った少年は、棚から抱えられるだけ水とおにぎりを掠め取って駆けて行く。


「…っ!?おい待て!クソガキ!」


店の中から金髪の男が転がるように出てくる。


(…速い!?マズイな…)


少年は逃げ足には自信があるが、金髪の男は少年と遜色ないスピードで迫ってくる。


(どこかで撒くしか…)


そのとき、遠くから何かの音が近づいてくるのを感じた。


(っ!?これ、丁度いいかも…)


少年は歯を食い縛って、全力で走る。

体力の温存なんて考えていては、絶好の機会を逃し、むしろ追い詰められる。

少年はそのまま、高いビルの建っている横に目を向けながら、車道へと飛び出した。


確認していた音の主。

巨大なトラックは、やはり眼前に迫っている。

このまま走り去ってしまえば、追手に少しの遅れが生まれるはずだ。

そう、走り去ってしまえば。

一歩前に踏み出して、次の一歩を踏み出して。

そんなスピード、比較にならないほどの速さで、トラックは迫ってくる。


(あれ…これ、僕ひょっとして…)


少年の身体がトラックの軌道から逃れるには、時間が足りない。


(間に合え…間に合え、間に合え!)


遠い。

心がいくら急かしても。

迫ってくる死に比べて、もう一歩はあまりにも遠い。


(なんでっ…なんで僕は!)


動けない。

逃げられない。

あのときも、今も。

本当に、それで良いのだろうか。

このまま、ずっと。


(…っ、僕が欠けたら、ユキだって…)


良いわけがない。

死んでたまるものか。

もう二度と、失うわけにはいかない。

動けないまま、受け入れる木偶にだけはなりたくない。


(動け動け動け動けっ!!)


足を一歩前に出す。

もう一歩。

迫ってくるものから逃げるために。

これからを紡ぐために。


あと一歩。

トラックの軌道の外に、足を出す。

地面を踏み締める。


それが叶うことはなかった。

少年の足裏は浮いたまま、トラックがせり出してくる。


「…!っぁ、はっ…」


少年は横に向かって倒されると、そのまま頭を引き摺り回される。

工事現場のような揺れが、直接頭の中に響く。

顔面がざらざらのコンクリートに押し付けられて、やすりがけのように削られる。

トラックの運転手がかけたブレーキが効く頃には、既に少年の意識はなかった。

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