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Other Worlds  作者: ゴマみそパスタ
0章 極上の火打石
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14話 罪を負う者

「…は?」


悠馬は〔スカイ〕の言葉を正しく理解できているのか。

唐突な内容で自らの聞き間違いを疑う。


(今…引っ越しって言ったか?この人)

「急な話で申し訳ないですが、10月8日までには本部のある松本冥土市の方の寮に移って欲しいです。あ、勿論引っ越し業者の魂の方が荷物を運びますよ。」


今日は10月1日。

つまり、悠馬はあと1週間もここにはいられないということだ。


「なんで…引っ越すなんて話に…?」


悠馬は狼狽えながら尋ねる。


「原則として、災害級になった職員は刑事部事務局局長会と司法部最高管理所管理員総員との共同管理となるためです。すみませんが、ご了承ください。」

(司法部も絡んでくるのか…)


だいぶ厳しい管理体制だ。

それだけ大それたものに登録されてしまったということらしい。


「ここから…出て行かなきゃいけないんですか…」

最後がこんな風にくるとは予想していなかった。

「ひょっとして…何かやり残したことでもあるんですか?」

「…!」


優馬は心を読まれたような気分になる。

このままここを出れば恐らく悠馬は一生後悔する。

あの人から学んだ技を使う度に。


「当たりですか?事情は存じ上げませんが、残り1週間弱、後悔のないようにお過ごしください。それでは」


そう言って〔スカイ〕は玄関まで歩き、扉を開く。


「ああ…〔ウォーク〕さん。加えて申しますが」


扉を開いたまま〔スカイ〕が言う。


「仲間のことはしっかり理解してあげてください。彼らもそれを望んでいると思います。」


あまりにも唐突だった。

しかし、その言葉を聞いた瞬間確かに感じた。

頭の中を電撃が走るような感覚を。


(そうだ…分かった気になってたけど、俺はまだ〔スズメ〕さんのことをそんなに知らない)


なぜあそこまでよそよそしくなってしまったのか。

きっと理由はあるはずなのだ。


(しっかり理解して…仲直りしないと…)






_「失われ、揺らぎの真奥に存ずるカルマ…貴様も潜るべきであろう?」


悠馬は不機嫌そうな〔セトラ〕に正論を言われて3分ほど硬直する。

悠馬は〔スカイ〕が帰った後、とりあえず夜になるまで待って、〔セトラ〕の部屋を訪ねた。

そうして、〔セトラ〕に〔スズメ〕がよそよそしくなった理由を聞いたのだが。


(やるべきことをしっかり見ろ…か、ぐうの音も出ないなあ…)


やはり、〔スズメ〕本人に聞くべきだというのは悠馬にも分かっている。


(それでも…)


犯罪者や同情の余地もない人間ならズカズカと土足で部屋に上がり込むところだが、他でもない大恩人の〔スズメ〕だ。

悠馬が顔を見せて不快な気分になって欲しくない。


「問いは我がソウルより生じ、〔スズメ〕に響く…紡がれる詩だ。〔スズメ〕が罪を見る言の葉は奴より響いた…」


地味に分かりにくい。

そんなことはどうでもよくなるほど驚くべき情報だった。

〔セトラ〕は〔スズメ〕に、悠馬に対してよそよそしくなった理由を尋ねたらしい。


(〔スズメ〕さんは…自分が悪いって言ったのか?)

「それ…本当?そもそも…お前の質問、〔スズメ〕さんは理解できてるの?」

「我は真奥に在らず。森羅万象の言葉が喋るくらい無論のこととして我は…」

「無理すんな!なんか文法おかしいぞ!」


標準語への切り替えが上手くいってない。


(普通に心配なんだが…)


〔セトラ〕は本当にまともな標準語を喋れるのか。

質問が正しく〔スズメ〕に伝わっているのか微妙ではある。


(とはいえ…信じても信じなくてもやるべきことは一つか…)

「〔セトラ〕。ありがとう。覚悟決まったよ。」

「うむ。恒久の刻で信頼しろよ」

「標準語に合わせようとしなくていいぞ。」


普通に癖が抜け切っていない。

語順が普通でも語彙が変わってないからあまり大差ない。


(よし…行くか)




_(流石に夜中に押しかけるわけにもいかなかったしな…)


悠馬は〔セトラ〕の部屋に押しかけた後、〔ツツジ〕にチャットで〔スズメ〕の非番の日を聞いた。

今日は10月7日。

悠馬は明日には本部の寮に移る必要がある。


(こんなギリギリになるなんて…)


もっと早く話したかったが、〔スズメ〕側の迷惑を考えるとそうもいかない。

〔セトラ〕も部屋に押しかけたとき、夜遅くだったので、だいぶ不機嫌そうだった。


(よし…鳴らすか)


悠馬はインターホンのボタンに人差し指を乗せて、力を込める。


“ピンポーン”

「…」


しばらくの間悠馬はドアの前で立っていた。

心臓の鼓動が信じられないほど速い。

悠馬が凝視していたドアが開き、〔スズメ〕の姿が見える。


「…」


〔スズメ〕は悠馬の姿を捉えると気まずそうに目を逸らした。


「……っ、あの!」


悠馬の声が予想以上に大きかったのか〔スズメ〕はビクッと肩をすくめる。


「聞きたいことが…あって…」


〔スズメ〕はしばらく黙っていたが、悠馬の方を向いて、ようやく声を出した。


「…あがってもらえますか」


〔スズメ〕が部屋の方を手で示す。


「…っ、はい!」


悠馬は〔スズメ〕に続いて部屋に入った。




_「…それで、聞きたいこと…って、なんですか…?」


テーブルを跨いで悠馬は〔スズメ〕と向かい合う。


「なんで、俺に対してそんなによそよそしくなったのか聞きたいんです。」


〔スズメ〕は一瞬目を見開く。

そのまま〔スズメ〕は下を向いた。


「俺が何か悪いことをしたのであれば言ってください。恥ずかしいけど自分では分からなかったんです。教えてくれたら直せるように…」

「違います。あなたは何も悪くない。」


〔スズメ〕が言い切る。

今までの澱んだ口調と違って、はっきりと。


「全部僕が悪いんです…全部」


〔スズメ〕が何か悪いことをしただろうか。

少なくとも悠馬には思い出せない。


「〔スズメ〕さんは何も悪いことしてないじゃないですか。」

「ああ…そうか。まあ、そうなりますよね…」


悠馬の言葉に対して〔スズメ〕が呟く。


「…少し、昔の話をします。」


〔スズメ〕が真剣な表情で言う。


「僕の昔の話です。」

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