13話 世にも奇妙な
_悠馬は寮の自室に居た。
今日は本来なら非番ではない。
ウラヌス11の一員として仕事があるはずだった。
「はあ…なんで…」
腹部の怪我はすぐに治った。
すぐといっても2週間ほどかかったのだが、前回に比べれば早い。
それなのに、怪我が治って3日経っても現場に出れていないのだ。
(俺の…何がいけなかったのかな…)
_「〔ウォーク〕さん。あなたは怪我が治ったらしばらく停職です。」
「は?」
見舞いに来た〔ツツジ〕の予想外の発言に声が漏れてしまった。
「え…?なんでですか?」
「色々理由はありますが…今のあなたをウラヌス11の班員として任務に参加させるのは危険だと、僕が判断しました。」
なぜそのような判断を下されたのか。
悠馬には全く理解できなかった。
それが表情に出ていたのだろう。
〔ツツジ〕が判断の理由を説明する。
「今回の任務…あなたは手柄だけ見れば讃えられるべきでしたよ?ただ、それ以上にやり過ぎだ。確保した犯人…まあ、リボルバーには逃げられましたが、2人とも死んでいてもおかしくなかった。」
(だからなんだって言うんだ…)
別にあのゴミ2人が死んだところで社会に悪影響はないはずだ。
むしろ殺した方が良いだろう。
「裁判所の判決に則らずに、行きすぎた罰を加えるのはよして欲しいんですよ。リボルバーの方は仕方ないにしても、もう動けない相手に本気で殺そうとして殴り続けたのは大問題です。」
(班長も〔スズメ〕さんも優し過ぎだ…)
あの子供はどうせまた同じことをする。
下手に情けをかけるべきではない。
「確実に死刑でしょうし…問題ないと思いますけど」
「そういうことじゃないんですよ…僕はね、領分を守れと言っているんです。別に一切合財全て指示に従えとか言ってる訳じゃない。僕は現場での臨機応変な判断も必要だと思ってますし、実際できた方が良いです。ただ…根底にある理念に反することはしちゃいけない。」
〔ツツジ〕が続ける。
「僕ら不実委員の自由戦力は立ち位置としては警察です。犯罪者に刑罰を与えることも一側面ではあるかもしれませんが、本当に警察の本質ですか?」
(…違うのかな?)
社会に対して害を及ぼす存在を刑罰によって取り除くのは警察の存在意義だろう。
「まあ、怪我しているのにこんな説教聞かせて、申し訳なくもありますが…任務に出ていない間、よく考えておいてください。」
「……」
そう言って〔ツツジ〕は病室を出る。
残った2人の内〔セトラ〕が悠馬に向かって言う。
「過ちは恣意に呑まれ、我等のソウルに巣食うもの…永遠なる罰が貴様を好むことはない」
(気にしなくていい…か。何を間違えたのか俺がまるで分かってないのは結構問題だと思うんだけど…)
本当に何を間違えたのだろうか。
いくら考えても結論に全く近づけない気がする。
「〔スズメ〕さん…俺は今回どうすれば良かったんでしょうか…」
悠馬は〔スズメ〕に尋ねる。
「…!?」
〔スズメ〕は話を振られるのが予想外だったのか、目を一瞬見開く。
「…僕には…そんなこと…」
(…俺、何かしたのかな…)
〔スズメ〕が全く目を合わせてくれない。
その上、質問の答えにも詰まっている。
悠馬が嫌われるようなことをしたのだろうか。
悠馬と〔スズメ〕の間に気まずい沈黙ができる。
「…地獄の取り憑く刹那を超えて、真奥の水が如くなれ」
〔セトラ〕が沈黙に見兼ねて助け舟を出した。
(それ…〔スズメ〕さんは絶対なんて言ってるのか理解できてないだろ…)
この状況ではよくて泥舟にしかならない。
悠馬が自力でなんとかするしかないか。
「あの…ありがとございました。お見舞いに来てくれて。もう大丈夫です。」
「……お大事に」
「天誅…其れは貴様をただ一瞥するのみ…森羅万象に呑まれよ」
そう言って2人も病室を出た。
_「はあ…」
懲戒処分を食らったこともそうだが、何より〔スズメ〕の態度の方が、悠馬の心を大きく抉った。
あれはどう考えても悠馬が何か良くないことをしてしまったからだろう。
「俺…マジでどうすれば良いんだろう?」
寮は今まで通り使えるから住む場所には困らないが、停職がいつまでなのか明かされていないので食いっぱぐれる可能性がある。
(班長に謝りに行くか?でも、何が悪いのか分からないと反省もできないし…〔スズメ〕さんに聞いても今は答えてもらえる気がしないし…)
復職しても〔スズメ〕があのままなのは何かと辛い。
ウラヌス11で一番親しくしていた相手なのだ。
「あーっ!分からない!俺は何をやらかしたんだ!?」
叫びながら布団や放置している洗濯物の上をゴロゴロと転がる。
(もう…〔セトラ〕に聞くしかないか…)
今の状況で悠馬の非を教えてくれて、尚且つ気まずくならない相手は消去法で〔セトラ〕しかいない。
悠馬は散乱している洗濯物の上で起き上がり、寝室を出て玄関へ向かう。
そのときだった。
“ピンポーン”
鳴り響くインターホンの音。
来客だ。
(…誰だ?班長が停職解きに来たのかな?)
ドアが目前に迫っていた悠馬は鍵をすぐさま開ける。
そこにいたのは見知らぬ女性だった。
碧色の眼に少し金色が混じった黒髪。
活発そうなポニーテールに黒いスーツを纏っている。
「えっと…誰ですか?」
一瞬あったことがある相手を片っ端から思い出したが、該当者が1人もいなかった。
「突然伺ってすみません。私はこういう者です」
そう言って女性は笑顔で名刺を渡してくる。
悠馬は唐突な訪問で混乱気味だったのもあって片手で名刺を受け取って後悔する。
「…え?」
名刺を見て声が漏れる。
名刺に書かれていた。
不実体対策委員会刑事部部長〔スカイ〕と。
悠馬といえども流石に自らの属する組織の構造くらいは把握している。
不実体対策委員会は担当ごとに複数の部署に分かれている。
悠馬たちウラヌス11はそのうちの刑事部の末端。
そして、不実委員は委員会の名を冠しておきながら委員長や副委員長は存在せず、部長を統括する者はいない。
つまり今悠馬の眼前にいる人物は、悠馬たちの直属の上司で、尚且つこの組織のトップの1人だ。
「クビ…?」
「いや違いますよ?」
無意識的に口から漏れる。
組織のトップが出向いてくるという事実はだいぶ重い。
(クビで済むか…?)
悠馬は〔スカイ〕の言葉が全く耳に入っておらず、しばらく悪い妄想を展開し続けた。
「あの、ちょっと…聞いてますか?」
「はっ…な、何ですか?」
「部屋にあがってもよろしいですか?」
「え…」
寝室は割と散らかっていて人に見せられたものではないが、手前の方は片付けているので大丈夫だろうか。
「じゃあ、どうぞ…?」
部屋に上がるということはそれなりに長い話だろうか。
(懲戒の強化とかじゃないといいな…)
_「それでは、早速用件を申し上げます。あなたを優先度1の震災型災害級複合体及び、対震災型における指定減災職員に登録させていただきました。」
(震災型災害級…登録!?)
悠馬は国家に楯突く反逆者とでも思われているのだろうか。
「震災型災害級って…危険な犯罪者じゃ…?」
「違いますよ。大規模な破壊を可能とするなら、犯罪者でなくても登録されます。」
(…じゃあ、リボルバーが仮に一般人と同じように過ごしてても震災型災害級にはなってたってことか。)
社会人になって自らの知識不足をここまで恥じることになると予想できただろうか。
学校の授業中寝てばかりいた昔の自分を殴りたい。
(…っていうか)
「指定…えっと…職員ってなんですか?」
「指定減災職員は災害級に対して優先的にぶつけるこちら側の戦力です。今の日本だと該当者は〔ウォーク〕さん1人だけです。」
「ええ…」
(俺が登録されるまでいなかったんだ…)
悠馬は結構とんでもないものに登録されたらしい。
「でも…俺はそんな大した者じゃないと思いますけど…」
災害級の方はともかく、指定減災職員の方は悠馬でなくてもいい。
悠馬より強い人は山ほどいる。
「そんなことはありませんよ。〔ウォーク〕さん。類稀な身体能力とアベレージから大きく外れた触手の長さは素質として充分すぎます。〔ツツジ〕班長からの報告だと硬化の扱いも随分上達されたとか…」
「それでも、指定減災職員なんて…俺より強い人は普通にいるじゃないですか。」
「そんな人普通に居ないで欲しいですけど…というか居ませんよ。絶対」
〔スカイ〕は〔スズメ〕については聞いていないのだろうか。
悠馬は〔スズメ〕と手合わせを何回もしてきたが、全て悠馬の負けという結果で終わっている。
(手合わせ…またやりたいな…)
そのためにはわだかまりを解消する必要があるが。
「まあ、あなたがどう思われたとしてもこれは部長会を通った決定事項です。というわけで」
〔スカイ〕は悠馬に対して衝撃の一言をぶつける。
「ご引っ越しの準備をよろしくお願いします。」
児童書って良いですよね。
具体的な本の名前出すと世代がバレそうなので出せないんですが、案外子供向けのものの中にも大人が読んでも楽しいやつが結構あります。
そういうのに比べて戦闘シーンがなんか多すぎる気がするので気をつけたいんですけど、すぐ戦闘に頼ってしまいます。




