0話 始まり、その行末
あの眼が怖い。
僕を見るあの眼が。
あんな眼をするくらいなら眼を閉じて何も見ないでほしい。
それが叶わないというなら…僕なんて、誰の眼にも映らなくなればいい。
_佐藤命謝は真っ暗な倉庫の中で寝っ転がっていた。
現役の中学生としては学校へ行く必要があるのかもしれないが、はっきり言って行きたくない。
なんなら行かなくても許される、くらいの感覚にはなっている。
いや、流石に言い過ぎか。
(やっぱり行かないのは悪いことだから、行ったほうがいいんだろうけど…)
今になって音を上げるのは許されるんだろうか。
(なんで、僕の身体には、こんな…)
_物心ついたころには、既に命謝の背中には緑の斑点があった。
それは段々と苔のように広がり、小学校3年生にもなると首筋が真緑になっていた。
医師曰く他に類を見ない症例なのでなんとも言えない。
実害が出ていないし、調べても特に問題はないだろうと結論が出たので様子見となった。
治したい、というのは命謝の我儘でしかないのだろうか。
最初はまだ、友達だっていた。
特に、水戸友孝は親友と言って差し支えなかったと思う。
ただただ、一緒に校庭で走っているときの、あの笑顔が今でも脳裏に焼きついている。
ただ、斑点が広がるほど、クラスではだんだん避けられるようになった。
水戸友孝もクラスが変わると、全く話しかけてこなくなった。
母も命謝に自ら進んで話しかけることはなくなり、話し相手は父さんだけだった。
それでもそんな環境はまだまだ生易しいものだったと中学生になって分かった。
中学校に入ると右頬にまで緑が広がっており、首にマフラーを巻くだけでは覆いきれなくなった。
「お前、すっげーきもいな。」
当然、入学して間もなく命謝は目をつけられた。
別の小学校出身の一部の人たちに物を隠されるようになったのだ。
最初は鉛筆が一本消えた。
その次は筆箱から鉛筆が全て抜かれた。
さらにその次には筆箱ごと消えたり、机の上に緑のチョークの粉をばら撒かれたりした。
1番きつかったのは嘘のラブレターを貰ったことだ。
自分に対して好意を持ってくれている人がいるかもしれないというのは希望になった。
実際、そんな人はいなかったけど。
校舎裏に呼び出されて3人がかりで殴られた。
「お前みたいなキモい奴のこと好きな奴が本当にいるって思ってた?」
「お前、迷惑なんだよ。気持ち悪い」
「土食ったぞこいつ!動かないし、植物か?」
腕を掴まれて、土を握った手が口の中に入ってくる。
あのときの感覚は今でも覚えている。
担任の先生に相談しても
「…なんていうか、まぁ…勘違いなんじゃないか?別に相手に悪気があるとは限らないだろ。先生が付き合ってやるから仲直りしろよ」
と言われるだけだった。
先生はなんで勘違いだというんだろう。
確かに僕はいじめられているはずだ。
他の先生にも相談した。
数学の発展コースの先生にも、
国語の先生にも、
社会の先生にも、
理科の先生にも…
誰も彼も当たり障りのないことしか言わなかった。
唯一他と違う対応を見せたのが保健室の藤原先生だった。
「っ……ごめん…!ごめんね…!私…何もできなくて…」
僕と2人きりになって放った言葉だった。
強い諦めが感じられる声音だった。
力になれないと言いつつも、藤原先生は他の人がいないときは僕と話してくれるようになった。
味方ができた。
そのはずなのに。
どうして…こんなにも胸が苦しいんだろう。
先生たちに相談している間も命謝に対するクラスメイトの行動はエスカレートし、とうとう先生のいないところでは教室内だろうが暴力を振るうようになった。
周りの人は誰も助けてくれなかった。
きっと誰もが命謝に対する扱いは妥当なものだと思っていたのだろう。
酷いことに一部の教師の間でも命謝はよく思われていなかったらしく、命謝は生徒指導と称されて罵詈雑言を言われたり、暴力を喰らうようになった。
命謝は痣だらけで帰る日々を繰り返した。
そしてつい先日。
「…」
父は常に暗い表情をしていた。
父は命謝に近づかなくなり、命謝はその日父と話さなかった。
_だから命謝は学校をサボることにした。
半ばヤケクソになっていたのだ。
(別に…僕はサボってない。勉強だって運動だって自分からやるつもりだし。だから、これは…別に悪いことじゃ、ないんだ。)
そう思いたかった。
(でも、倉庫だと暗くて勉強とかできないし…)
昨日の夜中に倉庫に勉強道具を持ち出したはいいものの勉強できる環境じゃないし、そもそも眠い。
それならきっと寝てしまったほうがいい。
そう思って命謝は眠りについた。
_「ふわぁ…」
命謝が倉庫の中で目覚める。
倉庫の扉を開けるともう太陽はすっかり沈んでいる。
「…ただいま。」
家の中に入ると母さんがいる。
「、っ………」
母は気まずそうに下に目を逸らしてから言う。
「夕飯は、できた……っ、から…」
それ以上言葉が続かない。
それを見ていて命謝も苦しくなってしまう。
「もういいよ。」
早く終わらせよう。
「もういい…ありがと。母さん」
そう言ってリビングのテーブルに手を洗って座る。
父さんは風呂に入っているらしくシャワーの音が響いている。
「いただきます。」
冷めてはいたものの、夕飯は美味しかった。
風呂に入るとき、父さんが丁度出るタイミングだった。
「命謝……」
母と同じく言葉が続かない。
父の怯えた眼に重い気分になりつつも命謝は風呂に入る。
(僕って生きてる価値、あるのかな)
風呂から出ると2人はもう寝ているらしくリビングにいなかった。
歯磨きを済ませて時計を見るともう11時を過ぎている。
ずっと寝ていたせいでそこまで眠くないが、仕事が忙しくなければ寝ていて当然の時間ではある。
(僕、帰ってきたのは2時間くらい前だったかな…随分遅く帰ってきたな。)
倉庫で寝ていたこととか普通にバレているかもしれない。
(…倉庫?)
そういえば勉強道具を倉庫に忘れていた。
正直勉強をやる気なんて起きない。
でも、勉強や運動も頑張れないようなら本当に何の価値もないやつだ。
(取りに行かなくちゃ…でも取りに行くなら先にランニングを終わらせた方がいい…か)
また風呂に入ることになるが運動はしておきたい。
せめて、それくらいはできなくちゃいけないから。
そう思って命謝は家の敷地の外に出ようとした。
瞬間、目の前を女が横切る。
「…?」
一瞬だったが、女と目が合った。
まるで、何かから逃げているような、かなり焦った表情だった。
(なんだったんだろ…まあいいや)
そう思って命謝は道路に出た。
それとほぼ同時だった。
「待て!」
急に大きな声が聞こえて命謝は目を見開く。
男が走ってきて、命謝にぶつかりそうになって止まる。
「うおっ…すみません!って、ん?子供?」
男の格好はなんというか…かなり怪しい。
ハロウィンでもないのに黒ローブに黒フードという死神のような格好をしている。
よく見ると手も黒手袋だ。
それに加えてヘッドセットをしている。
創作物以外でヘッドセットを外で付けている人を見たことがない。
「子供がこんな時間に外を歩くなんて…危ないよ。」
不審者みたいな格好の人から至極まともな言葉をもらう。
(どうしよう…とにかく逃げなきゃ。言ってることはともかく格好が完全に怪しいし。)
そう思って命謝は駆け出した。
その先の曲がり角で人とぶつかる。
「いっ…すみません。」
「いっ…!危険だから餓鬼は帰れ!」
かなり早口で男が謝る。
するとさっきの黒服が走ってくる。
いや、走るなんて表現は適切じゃない。
ミサイルの如くぶっ飛んでくるという方が正確だろう。
「ぅえっ!?」
思わず変な声が漏れる。
(追ってきた!?やっぱ犯罪者じゃんあの人!)
命謝がそう思っていると後ろに向かって身体が引き寄せられる。
それと同時に黒服の動きが止まる。
「ぁっ…!」
痛い。
首筋が針で刺されたように痛い。
見るとさっきぶつかった人に命謝は首を絞められている。
「お前が動けばこの子供の命はないと思え。分かったか?」
(何これ…どういう状況?)
黒服が命謝の命で脅されている。
動くなと。
黒服はそれに従っている。
なぜそんな脅しが通用するのか。
見ると横から走ってくる人が2人いた。
「ちょっ…今どういう状況ですか?」
「この餓鬼の命で、奴に動くなと脅しをかけている。今がチャンスだ。」
そう言って男が2人に命令する。
「やれ。」
「ぐっ…」
2人が黒服を押し倒し、腹や頭を連続で踏みつける。
黒服が付けていたヘッドセットが割れる。
黒服は抵抗しないで攻撃を受け続けている。
「おい、硬化で防御するな。硬化を解かなければこの餓鬼を殺す。」
(…硬化?どういう意味?)
男がそういうと明らかに2人の踏みつける足が先ほどより深く沈むようになった。
「がっ…けほっ、おぇっ…」
しばらくすると黒服の喉の奥から吐瀉物が出てきた。
吐瀉物が喉に詰まって、呼吸が乱れていく。
(このままだと、あの人が死んじゃう!)
僕のせいで。
こんな無価値な僕のせいで人が死ぬ。
(そんな、そんなの…)
駄目に決まってる。
僕なんかのために人が死ぬなんて。
だから…
「うわああぁっ!」
命謝を拘束している男に全力の肘打ちを叩き込む。
「ぐほっ…」
男は少しふらついたがすぐにまた体勢を取り戻す。
その一瞬だった。
「えっ…」
黒服が男の腹を殴ってぶっ飛ばす。
「「がっ…」」
黒服はそのまま残りの2人も道路に向かって叩きつけた。
コンクリートの道路が軽く割れる。
絶対に人に放ったらダメな威力してる。
「君…こうなるから!夜道を子供が1人で歩くもんじゃないんだよ!」
怒られた。
服装とは裏腹にまともなことしか言わない。
「…まあでも、助かったよ。けど、本当に夜道を1人で歩くのやめてね。一応警察に連絡しておくから。」
(えっ…)
冗談じゃない。
警察なんて呼ばれたら夜出歩いてたことが親にバレる。
「やめてください!」
気づいたらそう叫んでいた。
「…何を?」
黒服が尋ねる。
「その…警察に連絡するのはやめてください。なんていうか…親に知られたくないんです。」
「なんで?」
なんで。
なんでなのか。
なんで親に知られちゃいけないのか。
別に親は僕のことを叱りそうでもない。
ならなんで知られちゃいけないのか。
「っ……」
言葉に詰まっていると黒服が言う。
「少し、見てほしいものがあるんだけどいいかな?」
黒服が右手袋を外し、ローブの袖を少しめくる。
そうして見えた黒服の右手には…
「…えっ、おや…ゆび、が…」
ない。
いや、ないわけではない。
常人より大きく膨らんだ手から普通より短い指が出ている。
皮の下に埋もれているだけで親指の先部分は少し見えている。
だが、それにしても黒服の右手は異常だった。
「俺は昔から四肢がこんな感じで膨らんでるんだ。」
黒服が言う。
「そう…だったんですね。」
僕と同じだ。
身体に異常がある。
「そして、これのせいで嫌なこと言われたりされたりもしたんだ。」
僕もだ。
筆箱を盗まれたり、チョークをばら撒かれたりした。
(この人は…僕に似ているのかな)
それならこの世界は…
一縷の希望を持って僕は尋ねる。
「…今は、どうなんですか?」
黒服が答える。
「楽しいよ。毎日。」
笑って答えてくれた。
その笑顔が途轍もなく眩しくて、思わず涙が溢れそうになった。
ああ。
良かった。
この地獄は永遠なんかじゃない。
「どうして…辛くても、ここまで生きて来れたんですか?」
僕の問いにしばらく考えて黒服が答える。
「俺は生きてていいって、俺を肯定してくれる人たちがいたから」
え?
思考が止まる。
何、これ。
なんでこんなに苦しいんだろう。
こんなはずじゃない。
違う。
納得できずに胸が苦しくなる。
何を認めたくないんだろう
僕は…なんでこんなに荒く息を吐いているんだろう。
どうして…胸が締め付けられるように痛いんだろう。
僕は…
僕は、生きていいって、一度でも…
違う。
誰からも言われてない。
「俺に向かって嫌なことをする奴らが間違ってるって、そう言って俺と一緒に戦ってくれたから。」
誰もいない。
僕と一緒に戦う人なんて誰も。
視界が歪む。
ここがどこなのか、自分はこの世界のどこになら存在していいのか。
分からない。
嫌だ。
認めたくない。
僕は…
僕は、本当にこの世界にいてもいいの?
嫌だ。
けど違う。
ずっと思っていた。
父さんも、藤原先生も、母さんも、たか君も皆優しいって分かってる。
それでも、皆同じ眼をする。
「だから君も大丈夫だよ!」
僕は…
「僕のことなんか、何も…」
「え?」
「僕のことなんか、何もっ…知らないくせにっ!」
僕は、ここにいちゃいけない。
ならどこに行けばいいのか。
分からない。
いや、分かりたくない。
僕の居場所なんて…
「…!っ…うあぁっ…!」
走る。
ぐちゃぐちゃになって走る。
走った先に何があるのか。
分からなくても、走るしかなかった。
随分走った。
普段なら来ない見覚えのない公園まで来た。
いや、ぼやけて見えないだけで、見覚えはあるのかもしれない。
ただ、いずれにせよ僕に関係ない場所だ。
「化け物が…」
声が聞こえる。
見ると後ろには女が立っていた。
さっき、家の前を通った人だ。
命謝のことを憎しみの籠った眼で見ている。
「死ねよ。」
女は僕の襟首を掴んで言う。
「お前らみたいな化け物が…っ、私の…私の弟をっ…」
僕の身体が宙を待って滑り台にぶつかる。
「…死ね、死ねっ、死ねっ!」
女が滑り台にもたれかかる僕を蹴り続ける。
「お前のせいで…っ、あの3人はぁっ!」
ガン、ガンと音が響く。
引っ張られるような感覚が何度も頭を走る。
ああ、そうか。
僕は、安堵しているのか。
もうずっと、人の笑顔を見ていない。
大抵の人は僕と一緒にいるとき、笑顔が消える。
あの苦しそうな顔は僕のせいなんだ。
僕なんてこの世から消えてしまえばいい。
それが叶うんだ。
この世界のどこにも僕の居場所なんてなくて、あの人たちが、正しいんだって。
本当は分かってたよ。
認めたくなかっただけだ。
けど、もう無理だ。
もう自分を誤魔化すことにすら疲れた。
さようなら。
みんな。
「待て。」
急に響く音が消える。
風が吹いて女が横にぶっ飛ぶ。
「きさっ…まぁ…!」
女が体勢を整えるときにはすでに紙一重の位置にまで迫っている。
「八つ当たりはやめろクズ野郎」
黒服はそのまま地面に向かって女を叩きつけた。
辺りに轟音が響く。
公園の地面が割れる。
黒服が僕に向かって駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
分からない。
僕はここで死ぬべきだったのに。
なんで。
なんでこの人は僕を助けたんだろう。
「なんで…」
声が漏れる。
「なんで、なんで…なんでっ…!」
「きみのこと、全然知らなかった。」
黒服が言う。
「それなのに、分かったようなこと言ってごめん。」
「…っ、」
もういいのに。
なんで。
なんでこの人はこんな…
「もう、いいんです。」
「何が?」
何が?それは…
「もう、僕は生きていかなくてもいいんです。もう、僕なんか生きてても…」
「なんで?」
なんで。
理由なんて分かりきってる。
「僕は…っ、生きてちゃいけないんです。僕が生きていることがそもそもの間違いで…」
「どうして…そんな風に思うの?」
僕が生きていることが間違い。
どうして、そんな風に思うのか。
「知ってるん…ですよ。僕は。母さんも父さんも藤原先生も、たか君も、みんな…みんな優しいってこと。」
小さい頃母さんは人一倍僕の身体のことを気にして医師に何回も相談していたそうだ。
父さんから聞いた。
父さんも一昨日まで、楽しく話してくれていた。
藤原先生も自分の力不足を嘆き、僕に謝ってくれた。
たか君も、ボールを貸してくれたり、誕生日にメッセージを書いてくれたり、転んだときに絆創膏を貼ってくれたりした。
みんな、悪い人じゃない。
「そんな…人たちが、僕と話す…ときに
っ、怖がって、周りの人たちの眼を、気にしながら話す。僕と話すことは、間違ってるから。僕の味方になることは…僕は、間違ってるから。だから…」
僕と話すときの怯えた眼が怖くて。
ずっと、苦しくて…
「君は、間違ってない。」
誰からも肯定されなかった。
あんなに優しい人たちでさえも、あの怯えた眼を見れば分かった。
ああ、僕が間違っているんだなって、そう思わされてきた。
「…え?今、なんて…」
「君は間違ってないって言ったんだよ。」
黒服の言っていることが信じられなかった。
初めてだった。
誰かに肯定されるなんて。
「なんで…なんでそんなことが言えるんですか。」
「君はただ人と見た目が違うだけで何も悪いことしてないだろ。そんな君にいやなことする方こそクソ野郎だと思うけどな。」
あっけらかんと告げる黒服を見て、僕は自分がなんだかひどく小さいことで悩んでいたんじゃないかとすら思えてきた。
胸のあたりから熱が生まれる。
頬を熱い何かが伝う。
「っ…ふふっ…はははっ…」
「え?どうしたの?急に笑って。」
「はははっ、あはははっ…」
だって笑うしかない。
今までずっと抱えてた苦しみがこんなにも簡単に、消え失せたのだから。
こんな簡単に言ってのける人がいるなんて。
(まだ…生きててもいいのかな…)
この人はきっと、僕とも、さっきみたいな笑顔で話してくれる。
この人の笑顔を、もっと見たい。
「…あの…僕と、約束してくれませんか?」
「え?約束って何?」
僕がこれから辛いことがあっても生きるために
「僕の…友達になってください。」
別にまた会うことが保証されなくていい。
ただ、僕にはこの人がいる。
そう思えるだけでいいんだ。
友達としては年齢が離れすぎな気もするけれど。
「…それくらいならいいよ。まあ、また会えるとは限らないんだけど…というか、多分会えないけど」
「ありがとうございます!僕から会いに行くので大丈夫です!」
別に体格と四肢の形から特定くらい余裕でできるだろうし。
(1人じゃないってこんなに安心するんだ)
夜中に出歩いてよかった。
おかげでこの人と出会えたんだ。
そう思っていると
「ん?」
命謝の眼に変なものが映る。
「あのー…あれ、なんでしょうか。こう、卵に人間の上半身が生えたみたいなものが飛んでるんですが。」
本当に妙な見た目だ。
周りの景色からだいぶ浮いている。
というかどうやって飛んでいるのだろう。
翼とかは見えない。
「はっ?見え…え?あ…」
黒服がだいぶ困惑している。
「あっ、あ…の…」
黒服の手が震えている。
そして…
「あの…社会のゴミどもがあっ…!」
黒服の叫びが夜の街に向かって消えた。
_とにかく神崎悠馬からしてみればこんなことは予想していなかった。
一応命謝の名前は聞いたし、変なものが見えても無視するように言った。
けど、しっかりと保護するまで気が気じゃない。
まさか一般人から中途覚醒者を出してしまうなんて。
(問題にはなるだろうな…さっさと保護の手続きを進めてもらわないと)
十中八九、さっき捕まえた女が中途半端に硬化させた足で命謝を蹴ったせいで魂にまで攻撃が当たり、刺激を受けたことが原因だろう。
そのとき、急にスマホが振動し出す。
(部長か…何の用件だろう。)
「はい。〔雷神〕です。なんの用件でしょうか。」
「〔雷神〕さん。本部に今すぐ戻ってください。」
本部に今すぐ?
なぜだろうか。
捕まえた奴らの護送準備もまだ整っていないのに。
そんなことを悠馬が考えていると部長が内容とは裏腹に平然と告げる。
「本部が襲撃されました。」
初めまして。ゴマみそパスタです。
初投稿なので誤字脱字、これ分かりにくいなって所があったら遠慮なく言ってもらえると嬉しいです。
命謝くんのことはしばらく忘れてください。




