表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夏のかけら2

作者: ごはん

夏の夕暮れって、どうしてこんなに懐かしいのだろう。

蝉の声、夕日に照らされた境内、風鈴の音。全部、胸の奥のどこかをやさしくくすぐってくる。


「ここ、なんだか懐かしい気がするんだ」

そう言ったとき、彼は少し驚いた顔をしていた。


でも、私にはわかっていた。

ここで、誰かを待っていたこと。

その「誰か」は、目の前にいる彼だったこと。


胸元のペンダントをそっと握る。

中にある小さな写真。誰にも見せたことのない、私の宝物。

そこに写っている男の子の顔が、ずっと気になっていた。思い出せないのに、恋しくてしかたなかった。


――そして、今日。思い出してしまった。


「……きみが、会いに来てくれるって言ったんだよ」

口にした瞬間、涙が出そうになった。


「私、あのとき、病気で……先にいっちゃったんだよね」


きみのことを待って、ずっと待って、神様にお願いしたんだ。

「また生まれ変わって、もう一度だけ会わせてください」って。


叶ったんだよ、ようやく。

こうして、またきみに出会えた。でも――


胸の奥で、何かがほどけていく。

まるで、役目を終えた風船のように、身体が軽くなっていくのがわかる。


「ごめんね。もう少しだけ、一緒にいたかったなって、今でも思うの」


そう言って笑った瞬間、私は世界から、そっと溶けていった。


最後に見えたのは、彼の泣きそうな横顔。

――きみに出会えてよかった。ありがとう。


もしも次があるなら、

今度は最後まで、ずっと隣にいたい。


たとえ、季節が変わっても。

たとえ、記憶がなくなっても。


――きみと、また、夏のかけらの中で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ