夏のかけら2
夏の夕暮れって、どうしてこんなに懐かしいのだろう。
蝉の声、夕日に照らされた境内、風鈴の音。全部、胸の奥のどこかをやさしくくすぐってくる。
「ここ、なんだか懐かしい気がするんだ」
そう言ったとき、彼は少し驚いた顔をしていた。
でも、私にはわかっていた。
ここで、誰かを待っていたこと。
その「誰か」は、目の前にいる彼だったこと。
胸元のペンダントをそっと握る。
中にある小さな写真。誰にも見せたことのない、私の宝物。
そこに写っている男の子の顔が、ずっと気になっていた。思い出せないのに、恋しくてしかたなかった。
――そして、今日。思い出してしまった。
「……きみが、会いに来てくれるって言ったんだよ」
口にした瞬間、涙が出そうになった。
「私、あのとき、病気で……先にいっちゃったんだよね」
きみのことを待って、ずっと待って、神様にお願いしたんだ。
「また生まれ変わって、もう一度だけ会わせてください」って。
叶ったんだよ、ようやく。
こうして、またきみに出会えた。でも――
胸の奥で、何かがほどけていく。
まるで、役目を終えた風船のように、身体が軽くなっていくのがわかる。
「ごめんね。もう少しだけ、一緒にいたかったなって、今でも思うの」
そう言って笑った瞬間、私は世界から、そっと溶けていった。
最後に見えたのは、彼の泣きそうな横顔。
――きみに出会えてよかった。ありがとう。
もしも次があるなら、
今度は最後まで、ずっと隣にいたい。
たとえ、季節が変わっても。
たとえ、記憶がなくなっても。
――きみと、また、夏のかけらの中で。