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『異形国家4』

 

 精神的にへとへとになりながら、ビルを出ると地平線の向こうに動く影が見えた。


 30体以上の獣人が浮遊する兵器とともにやって来た。まっすぐにこちらへ向かって来ている。奴ら思った以上に技術に秀でている。さっきの謎の装置もだし、この音もなく浮遊するドローンのビーム兵器。もしかしたら同胞が殺されると直ぐに情報が共有されるのかも知れなかった。生存信号だか何かが途絶えたとかで⋯⋯


 彼ららしい本能と、そして手に入れた高度に発展した技術の間で生きている存在なのだと改めて感じた。最初に獣人に襲われて、返り討ちにした、その時から自分が追われている理由が分かった気がした。


 獣人はショーンを見て警戒レベルを引き上げた様子だった。互いに合図を送り合うように頷いて、服を脱ぐようにその毛皮を脱いだ。

 それは、人形のように客が吊るされていた映画館で見たトカゲ人に似ていた。爬虫類に両生類のような特徴が混ざった人型の生き物だった。


「──ファッキンヘル。まさか、トカゲが獣の着ぐるみを着ていたなんて⋯⋯」


 冗談も大概にしろ、小さな声が漏れていた。


 トカゲ人は洗練されたSF映画で見るような光線銃のようなものを持っていた。向けられただけで、突然なにもない場所から極小の真っ黒な藪蚊のようなものが自分の首元から出現して上半身を覆った。肌が無数に傷つけられる、表面だけでなく頭蓋骨を飛び越して脳まで藪蚊の極小の攻撃が通ってきそうだった。走りながら鼻と口を手で覆い息を止めてジグザグに追い払うように動く、マリオネットを振り回して一匹の獣人を無闇やたらに他の獣人にぶつけるように動かした。


 その隙をついて逃げようとしたが、衝撃波のようなものが飛んできてショーンに強烈なボディブローを浴びせると、すぐに意識が飛んで倒れた。




 *




「⋯⋯う、うう」


 喉からはうめき声しか出てこない。干からびたミイラのように口はカラカラだった。


「⋯⋯はぁ、はぁ、一瞬意識が飛んで、また、戻ったのか」


 そう思ったショーンの眼の前にはトカゲ人の屍の山が出来ていた。超人が数人いて、爽やかな笑みで互いを褒め称えるようなジェスチャーをしていた。


「おい、おい、なんだこれは⋯⋯」


 マリオネットとオレンジを握り込んでいて、その両方に返り血がついていた。今しがた殺戮を実行した超人が優しげな笑みで近づいてきて、ショーンを軽く抱擁した。背中をぽんぽんと叩かれて安心しろ、と言っているようだった。

 ありがとう、という言葉が出そうになって、出る前にそれを引っ込めた。ショーンは関係ないはずなのだから。それに超人の笑みは感謝を躊躇するほどに、暖かさがなく薄気味悪さだけが底にあった。




 @@@




 ガラスの丸テーブルの上にMacbookに向かって執筆をしていた。


 眠たいのに、眠れない。何を書いていたのかも忘れてしまったが、核となる部分は既に書き終わっている。記憶はないが、眼の前の原稿には映画のシナリオが書かれていた。

 大した話じゃない。着ぐるみを着た爬虫類人が科学力でまさる人類に成敗されるだけの話。たしかスパイが二人いて、一人は女で、もう一人は置物のフリをしている。それに巻き込まれた第三世界の男が居て⋯⋯ こいつが、なんだっけな。コードネームは羊飼いだったと思う。


 羊飼いというのは、どれかの勢力からそう呼ばれてる。男は世界を超える特殊な体質を持っていて⋯⋯、世界の境界を挟んで行き来出来なかった2つの世界を、それを結ぶ道具として利用されたらしい。


 羊飼いは利用されているだけで何一つ気づいてないが、一つだけ気づいていることがあって⋯⋯


 原稿を呼んでいると、背後から足音が聞こえた。


 振り返ると、背の高い女が同じ部屋のなか灯りに照らされていない棚の横からすっと顔を出して、こちらを伺っていた。まだ年齢は30を超えていないように見えるが、その目つきは信頼ならない家政婦がヘビのような目つきで事細かに家の事情を探ろうとしているような目だった。


 目があうと、女は瞳孔がヘビのように収縮した。

 近づいてきた女にテーブルにあった。マリオネットを使用しようとすると、手首を掴まれて取り上げられた。生物とは思えないほどに力が強い。


「⋯⋯ぐ」


 痛みに声を漏らすと、解放された。


「誰だ、お前は⋯⋯」


「落ち着いて⋯⋯ あなたの家族よ、帰りましょ。家のほうが落ち着くでしょうから⋯」


「お前とは帰らない⋯⋯ 俺は一人で帰る」 


「がっかりさせないで、⋯⋯ね? 別に夢に失敗したっていいじゃない。家で休んで再起すればいいわ⋯⋯」


 女は目を見開いて、瞬きせずに棒読みで言った。キッチンにまで後退りして、ナイフをとってオレンジの皮を剥く。


「何をやっても無駄よ⋯⋯ あなたが心の中で超人? そう呼んでいる人たちは敵じゃないわ。安心して、落ち着いて⋯⋯ あなたは世界で迷子になっていたの。保護しようとしてくれているのよ」


「そうか。だが心配はいらない」


「──なんで?」


「俺は世界一迷子に慣れているんだ。そして大体最後にはファッキン帰れる。送迎はいらないし、保護も求めていない。襲われていた所を助けてくれたのは感謝するけどな」


「──保護される側が混乱して差し伸べられた手を振り払うことはよくあることだわ。でも安心して、すぐに保護されて良かったと思う様になるわ。あなたも彼らほどではなくとも超人にしてもらえるし、恋人にもセックスにも、他者の人権侵害以外のいかなることも可能にする力をもらえるの。きっと気に入るわ」


「──それはどうかな。あのトカゲたちの人権は?」


「考えていることわかるわ。彼らの人権は無視していると思ったのね。でもね、彼らは人工存在で人権はいらないの。そして私たち、いえ超人たちは、彼らに支配された違う世界線の人類を保護してあげているだけなのよ。力の差が凄すぎるからって善悪に結びつけてはいけないわ。人を襲うクマや、銃をもって暴れているチンパンジーを人界から駆除しているだけなのよ、ねぇ、わかってくれるでしょ?」


「⋯⋯世界線の違う詰んでいる人類の救助だというのか」


「その通りよ、負けた方に無条件に共感するべきでないのはわかるでしょ? 冷静に何が起きているのかを見て⋯⋯」


「お前が言っていることは正しいように感じるが、違和感もつきまとってる」


「⋯⋯正しいのはわかってるんじゃない。だったら⋯⋯」


「──悪いな。信じない」


「⋯⋯なんで?」


 女は心底意味がわからない、という具合に首をかしげた。


「──俺は世界最高の作家なんだ。異論あるやつはいるだろうがね」


「⋯⋯何がいいたいの?」


「だからお前が正しくないことがわかる。おかしなストーリーはわかるんだ。俺は最初から獣人を可哀相だと思っていなかった。それをすり替えてお前は話してる。俺は最初から直感的に超人たちに信用ならない何かを感じて警戒していた。彼らが強いからとか、誰が弱いとかは関係ない、そして俺は直感的に彼らに自分の身を任せないほうがいいと判断したんだ。ストーリーの遍歴と世界の構造や方向の変化は常に俺の頭の中にある。お前の論理は俺を揺らさない」


 背後にあったキッチンのピーラーを説明しながら手に取った。


「⋯⋯私がズレてたわ、そして今から違う話をしても納得しないのでしょうね」


「──ああ」


「⋯⋯でも。そういうことなら、力付くで捕獲してしまうわね。ごめんなさい」


「──ファック。結局そうなるのか!」


 素早くオレンジの皮を剥き、ピールをひねってオレンジの油をふりかけた。


「──きゃっ、OK。オレンジの匂いがこんなに素晴らしいなら仕方ないわね。元の世界に帰せばいいの? それとも他のこと? 何をしてほしいの?」


「⋯⋯本当に効いた。もとの世界への帰し方わかるのか?」


「ううん、しらないの。だってあなたは勝手にやってきたんですもの」


「俺を帰さないようにはしていた?」


「うん、、そうね。だって私二重スパイだからね。あの置物にあなたを渡したら、だめだから」


「あの置物はなんだ」


「超人の世界の裏切り者。私はこっちの世界のね」


 そう言って女が皮をはぐと、人型の両生類のようなものになった。


「裏切ったのか。自分の世界を⋯⋯」


「ええ、だってそれも含めて自然な本能でしょ?」


 女は無感情に首をかしげて、そういった。


 窓の外には雪が積もった庭が見えた。地平線から陽が顔を出そうとしている。


「さぁ、どうだろうな。違う解釈だってあったかもしれない。自然で、かつマシな答えは多いから⋯⋯」


「そうね、でも全てもう遅い。もうすぐ私はアイツラに粛清されるわね。あーあ、裏切り者のアイデンティに振り回されなければよかったなぁ」


「──ああ、そうだな」


 あっけらかんといった異形に手を降ると、女の皮を被り直して手を振りかえしてきた。最後に自分の胸をもんでセクシーにウィンクもして、投げキッスもしてくれた。


「迷惑かけちゃったゲストにサービスよ、ウフン」



 @@@



 ドカン! ガシャァァァ!


 いきなり、身体が巨大なものに投げ飛ばされたように放り投げられ、硬いアスファルトの道路を何回転もしながら転げ回った。標識かなにかにぶつかって、背中を打ち付けて近くのゴミ箱にぶつかって身体は止まった。


「⋯⋯はぁ、はぁ、⋯⋯ここは」


 ラジオの音が聞こえていた。ノイズだらけでどの局にも合ってない。眼の前には交差点の信号機の前で他の車と衝突したタクシーとフロントガラスから半分身体が飛び出している運転手がいた。


「⋯⋯そうだ、あのタクシーに乗ってたんだ。ファック⋯⋯、恐ろしい世界に突然招待されて、ギリギリ助かったのか。死ぬ直前に消えて、今ここに戻ってきたのか」


 全身から力が抜けて、魂まで抜けるような思いだった。


「──とんでもない事の連続だった。終わってる。人生最悪の日にノミネートしたいくらいに、いや、もはや生に感謝しよう⋯⋯、もはや愚痴を言う気もしない」







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