9話 峠の戦い
→→→→→兄ターン
ソラル峠の渡り場は4キロ程度。間の緊急避難用の野営地は2箇所だ。
魔除けのガッチリ利いたロバでも騾馬でもないゴツい馬が牽く馬車でそこを渡る。
頑丈な柵の内側に幌を張った中に俺達瀧川兄妹以外の客は、ボルッカ、行商、用があるらしいモーフラルの住人2人、だった。
ただの布だが留め具を外すと窓になる造りだったから、外を見ると、いるな。
『グレイハウンド』の群れが向かって右側の岩場をウロつきながら遠巻きについてきてる。
グレイハウンドは首から下は灰色の狼って感じだが、頭部が不定形の毛玉みたいな形状で目が3つある。スライムより断然厄介だ。
「こっちのミスやトラブルを待ってんだよ」
ボルッカが童顔で皮肉っぽく言う。
「気味悪いね」
カズネも不安そうだった。
それでも魔除けは利いて、馬車は無事、最初の野営地を素通りした。
「休憩しないんだ」
俺はドワーフとノームのハーフの御者に一応聞いた。通常休まないとは資料では読んではいたが、結構急いで通過した気がしたから。
「グレイハウンドどもが妙に近付いてきてますんで、馬が怖がってるんですよ。こんな時は下手に休憩するとそこに留まろうとしたりするんで」
「なるほど···」
馬の気持ちもわかる。
不穏なまま馬車は追われるように進んだが、
「なんか変な感じするかも?」
「オイラもだ。これはグレイハウンドより強いモンスターだぞ?」
突然、カズネとボルッカが言い出し、途端。
「バァオゥッッッ!!!」
獣の咆哮! グレイハウンドじゃないっ。コレに馬は仰天して、2箇所目の野営地へと全速で走り出したから御者と幌の中の俺達は大慌てっ!
「なんだ?!」
幌の後ろになんとか移動して、咆哮がした方を見ると、茶色い毛むくじゃらの熊よりデカい猿みたいな一つ目のモンスターがいたっ。
グレイハウンド達も慌てて距離を取ってる。
「やっぱり『ビッグフット』か。こりゃヒデぇことになんぞ?」
ボルッカは冷や汗をかきながら言った。
→→→→→妹ターン
馬は野営地の中心部に駆け込んで乱暴に弧を描くように減速して停まってくれたっ。御者さんが必死でコントロールしてくれたから馬車は横転せずに済んだよ!
馬は震えてもう動かない。私達瀧川兄妹とボルッカは外に出て状況を確認しようとした。んだけどっ。
ゴォン!
うっすら発光する石が飛んできて、野営地の魔除けに激突して強く発光して弾き飛ばされた! ええっ?
「未分化な魔法石の原石だ! ヤツはそれを山のどこかで拾って、『コレ、ぶつけ続けたら野営地ぶっ壊して中の獲物喰える』と学習した個体! オイラは調査に来てたんだ。いきなり遭遇したけどよっ!」
「馬はもう動かないなっ。ボルッカ、俺達だけで倒せるもんか?」
「やるしかねぇよっ。手が足りない、妹ちゃんも援護してくれよ?!」
「や、やってみるけど···」
もう最悪! と思いながら、石バンバン降ってくる中、手筈を相談して、もうしょうがないから私達3人は壊れそうな野営地から飛びだした!
リュックは置いてポーチに聖水と回復薬だけ詰めてる。私は矢筒も背負ってるけど、リュックよりマシ!
まず1人だけ早送りみたいなボルッカが先行して気を引き、当たったら即死な感じの投石を引き受けて回避しまくる! ジャスト回避の達人、て感じっ。
私達は石の流れ弾に気を付けてそれに続く。
「カズネ! 毛皮は硬いからなっ」
「うんっ!」
資料でしか知らない強敵! 私達は間合いを詰め、ある程度接近するとビッグフットはこっちにも投石しようとしたけど、パチンコを構えたボルッカが当たると弾ける『癇癪の実』を連打して牽制してくれるっ。
ヒロ兄が一気に加速した。私は立ち止まりライトボウガンで銅矢を狙い澄ます。
ヒロ兄がポーチから抜いた聖水の瓶を2本投げ付け、ビッグフットの全身を青い炎で炎上させたっ。
「バァウッッ??!!」
今っ! 私はビッグフットの一つ目を撃ち抜いた。
「おりゃーっ!!」
ヒロ兄がショートグレイブで仰け反ったビッグフットの首を落とすっ! 流血っ! グロくて怯んじゃうけど、完勝!!
グレイハウンド達も『コイツらやっべっ』て感じで退散していった。
「やるなヒロシとカズネ!」
「はぁはぁ、まぁ、なんとか···」
「(日本語で)セーブポイント的なとこ攻撃してくるのやめてほしいんだけど···」
クタクタになった私達はとにかく一旦、だいぶ損耗してる感じの野営地に引き返したよ。