72話 愚兄とオーブと花のお茶
→→→→→兄ターン
正直気まずいな、と思いつつ成り行きで俺達はソーマセノ郷の監獄になってる横長のお堂のような平屋の建物に来ていた。
「お疲れ様です!」
「はい、お世話になってます···」
銛のような武器を持った看守ピクシーに挨拶されてまたまた面目なさそうなミラリカさんに先導されて、ほとんど囚人がいないわりと清潔な監獄の廊下を進んでゆき、奥の牢屋の前で止まった。
常に浮遊しているミラリカさんは、牢屋の細長ベッドで爆睡している似た顔の男性のアクアピープルを顔をしかめて見た。
部屋にはビジネス書的なのが山積みされてるが、『一発逆転』『すぐ儲かる』『倍返し!』といった煽りまくりのタイトルが随分目立つ···
「おほん」
咳払いするミラリカさん。男性のアクアピープルは気付いて身を起こした。
イケメンだなぁ。
「なんだ、我が妹か」
口調の癖強い。
「兄さん、水門のオーブ回収しました。知ってるでしょうが詐欺師と高利貸しもとっちめました」
剛腕。
「ふっ、ミラリカは相変わらず武闘派だね。ところで、僕はこの囚われの暮らしの中で新しいビジネスを思い付いたんだ。知ってるかい? 工学師達の技術に水流で電気を作る技術があってね。まず、セノ川を『工事しまくって』だね···」
ん? 水力発電?
「報告に来ただけです。ユケン一味の件はまた別件として処理します。全て片付いた後は、里の外での暮らしも覚悟して下さい」
去りだすミラリカさん! 俺達も一応軽く会釈くらいはして、続くしかない。
「いやっ、それはいいんだけどね! ミラリカっ、出資してくれないかな?! 僕、家の宝物に手を出せなくなっちゃってねっ。次のビジネスは当たると思うんだーっ。貯水の堰を作る場合は治水効果もね! 僕は皆の為にっ」
「兄さんは隠遁して釣りでもしているのが一番世の為になりますっ!」
荒ぶって去るミラリカさんだった。いやはや···普通に『あたしは宿にいる』とついてこなかったレンテ教官のクレバーさが羨ましい。
テンション落ちたが、取り敢えずミラリカさんの個人的な事情はこれで一区切りかな?
→→→→→妹ターン
話を里長との話まで少し戻して、
「もうミラリカから聞いてはいるだろうが、表向き、氷穴の祠は我らソーマセノの民の聖地でそれ以上の物ではない、ということになっていたが、実際は小規模ながら地下5層あるダンジョンだ! 我々は氷の力が衰える夏に毎年探索を行い、その採集物で郷とこの地域の水の民の暮らしを支えてきた」
ネオ山梨では、生きてるダンジョンはそれ自体がモンスターみたいな物。
宝物や素材を生成し、モンスターも産んだり喚び出したりし続けるから管理できるなら安定ビジネスにはなるみたい。
「門外不出であったのだが、ダンジョン内の行き来に使える水門のオーブの存在が今回の騒動で一部で噂になり、元々怪しんでいたユケン一味が1年程前に祠に乗り込んで占拠してしまったのだ!」
「ほんとに、面目ないです···」
もうずっと面目ないミラリカさん。その手にはギルドから返してもらったオーブがある。強い水の魔力を持っている。
「連中は要領得ない上に、水門オーブを持っていないから攻略に随分苦労していたが、もう3層を攻略し、4層まで手を付け出している。かなりマズい!」
「5層の最下層まで攻略されると荒らされる以上になにかあるんですか?」
祠の詳細までは聞かされてなかった。ダンジョンは『ダンジョン主』がいるタイプと、『ダンジョンの成立理由』があるタイプに分かれるようだけど、穏健に管理してたから後者かな?
「5層に『火魔の杯』という呪われた品が封じられている。この杯から生ずる呪われた酒を飲むと不死の火の魔人と化す! 恐ろしい物だ。祠はその呪いの品を封じる為に造られ、我らソーマセノの民はその守り人なのだっ」
やっぱ後者タイプだった。これって、
「また不死かぁ···」
例のアレを収納鞄の中に持ってるヒロ兄。
「絶対ギルド、なんか掴んでてオイラ達を回したよな」
「使わせる前に片付けましょう」
「ややこしわぁ」
「ユケン一味は、不死狙いなんですか?」
「そこまではわからんが、売るだけでも大儲けはできるだろう。この1年で犠牲は相当出してもダンジョンの採集物を独占しているしな。どの道、もう放置できない! ミラリカのオーブ回収が間に合わなければ、決死の覚悟で挑むところだったっ」
結構ギリギリだったんだ。郷の人達はのんびりしてる感じだけど、ミラリカさんも実は腕っぷし強いみたいだし、封印を守る一族。てことだろうしね。
「相手の最新の戦力と、作戦を改めて確認したいよ。こっちもケリつける気で来てるから。にゃにゃっとねっ」
レンテ教官が念押しして、私達はここから話を詰めていったんだ。
→→→→→レンテターン
「···にゃー」
単衣の着物に着替え、宿の広縁で持ちての付いたグラスに淹れられた干し花に蜜を加えた茶を飲んで一息。高価な薬草を使った薬湯も最高だった。
この宿だけが高級ってワケでもない。ソーマセノは住人にその気はなさそうだけど、基本的にリッチな暮らしをしてるね。
立地や種族の力の強さもあるけど、やはり小規模ダンジョンの管理に成功しているところが大きい。チンピラに1年祠に居座られてもすぐに富が枯渇するもんじゃないにゃ。
「いつかいつかと思ってる内に、わからない物ね」
テーブルには資料の束が置かれてる。一番上には、モノクロの動く絵で写実的に書かれた魚人の『人形使い』の初老の男の資料。
ニシキゴイ型魚人ベルメボ、ユケン一味の幹部の1人···
「父さん! 母さん! 兄さん! ペス!」
燃える館で記憶の中の子供のあたしは血まみれで、試作の拙い『自作マリオネットドール』を構えていた。
資料より若いベルメボは嗤って、私の家族とペットの犬の死体を材料にしたマリオネットドール4体を従えていた。
「ザミお嬢様。創作上の見解の相違と申しましょうか? ワタシの感性! とお師匠のっ、お父様のっ、感性が違ってましてね。ワタシの秘密アトリエの『作品』を咎められまして、衛兵だのギルドだのを呼ぶだの突き出すだのなんだの···」
ベルメボは死体のマリオネットドールから噴出させるように武器を展開させた!
「なんかうるせーから家族ごと人形にしてみましたっ! 犬もねっ、アハハハハッッッ」
「旅芸人一座で酷い扱いを受けていたのをお父様が取り立ててあげたのにっ、恩知らずにゃっ!! 悪魔!」
死体のマリオネットドール達は当時のあたしには速過ぎて、その一撃から身を守るのが精一杯で自作マリオネットドールを砕かれ、ふっ飛ばされた。
「恩? 悪魔? 上流ぶってんじゃねーぞっ?! ケダモノ混じりがよぉーっ?! お前も、ワタシの才能も美的センスを『理解できる形』変えてあげますよ。ザミお嬢様」
家族を愚弄するドール達と共に迫ってくるベルメボ。身体に、力が入らない。
遠退く意識の中、部屋に飛び込んできた凄腕らしい冒険者達の姿と、悪態をついて退却するベルメボの姿が見えた···
それから傷とストレス症を癒し、人形殺し職になったあたしはユケン一味に加わっていたベルメボを暗殺しようとしたけど、ここでもまだ未熟なあたしは多勢に無勢で返り討ちにあってセノ川に無様に再度ふっ飛ばされ、1回溺死して奇跡的に下流の漁師に引き上げられて蘇生してる。
それからもう5年だよ。言い訳できない時間が経ってるにゃ。···と、
「レンテ教官!」
「薬湯どうやったぁ?!」
「名物アイスはありましたか?」
「段取り詰めますぜ?」
「ミラリカさんは一旦御実家です」
宿の前庭の辺りにボルッカ達がきた。ダメ兄さんへのご挨拶は済んだんだろうね。今、明らかに斜め下な高等遊民に会うとお門違いにイライラしちゃいそうだから1人だけ宿に直行しちゃってたよ。
「いい湯だったにゃ〜っ!」
土壇場で感情的になって悪い方に後輩達を巻き込まないよう、気を付けないとにゃっ。
あたしは甘い茶を飲みきりながら気合い入れ直したさ!




