4話 ネオ山梨の誘惑
→→→→→兄ターン
小さい農具の扱いにもすっかり慣れた。サクッと土に入れる。
一息ついて見上げると、夕暮れの空を手足の無い小さい竜、ワイアーム達が飛んでく。
朝から段階や状態の違う畑を回って作業する感じ。他には出荷やピクルス的なのが多い漬物作りや保存用の乾燥作業も手伝ったりもする。
肥料原料用に畜舎を回ってウ◯チを回収したりもする。
納屋の修理とか排水溝の手入れも。
俺は日が暮れるまでこのリコット村にある農地(居住区に対してめちゃ広っ)の一角の手伝いをして、夜は言語等の座学をするオ〜ガニックでストイ〜〜ックな生活ている。
ここに来てからもう2週間が経っていた。
言葉もそこそこ覚えたが、基礎体力も現役軟式野球部時代並みに戻った感じだ。当時より背は伸びてるからパワーはよりあるかも?
色々ありがたいけど、どうも話したりネオ山梨世界について勉強してみると、この世界には来訪者という異世界からの迷い人がしばしば来るらしい。
特にこの辺りは現代の日本人がたま〜に来るとか。前に見掛けたのは10年くらい前。その時の日本人『シンイチ』は半年くらい滞在して、別の所に旅立ったそうだ。
因みにこの人が『難解及び煩雑語&モンスター名早分かり帳』を書き残していってくれたから、めちゃ助かってる。
例えば農具の『鍬』も種類があって、『春起こし鍬(細い鍬)』『モグラの一撃(普通の鍬)』『巨人女悶え(太い鍬)』とか色々あるが、ようは鍬だ! 巨人女悶えとかどうかと思うけどさ···
モンスター名も今見たワイアームは『尾引き』『蝙蝠蛇』とか呼称がゴチャ付いてるが、纏めるとワイアームだぁっ!
なんにしても異世界パイセンが残してくれた早分かり帳は助かってる。
と、雇い主の農家の小人のオジさんが、
「ヒロシ、1日、仕事、終わり、お前、疲れる、家、行け、かしこ」
カタコトの日本語で、にこやかにもう上がれ、的なことを言ってくれた。
「俺、理解、家、行く、お前、同一、疲れる、素早い、終わり、今日、かしこ」
カタコトのネオ山梨弁で、にこやかに応える。うんうん頷く小人のオジさん。
いい職場だぁ···
俺はカズネと借りてる小屋に帰ることにした。
→→→→→妹ターン
「仕事、感謝、帰る、自分、かしこ〜」
「かしこ〜」
「かしこカズネ〜」
私は働かせてもらってる食堂の裏口から出て、ヒロ兄と借りてる小屋に帰りだす。
残り物、今日も一杯もらっちゃったなぁ、へへ。
牛(厳密にはちょっと違う)の煮込みでしょ、フルーツパイ、パン、野菜のニンニク炒め。
パイとパンはちょっと硬くなってるけど、軽く水分足してオーブンで温めたらOK!
ごっちそうだ〜っっ。
明日はモリミンさん家のお祖母ちゃんの誕生日会の予約が入ってるから、ちょっと忙しいけど、今日中に仕事で使う系の単語と構文の洗い出しとリコット村の近くで出るモンスターの名前と特徴くらいは覚えとかないとね〜。
そろそろ野外の食材調達も手伝いたい···ん?
「はっ! ダメダメっ。馴染み過ぎてる私! このままじゃ『ちょっと他より背が高い第一ネオ山梨県民』になっちゃうよっ!」
言葉覚えたりは必要だけど、『地球のジャパンに帰る』という目的を忘れちゃだめだぞ私!
自分に喝を入れ、顔見知りになったリコット村の小人のみんなに挨拶したりもしながら2人の家に帰った。んだけど、
「カズネ。明日はパルポピーマンの収穫があるから忙しいんだが、今日中に仕事で使う系の単語と構文の洗い出しとリコット村の近くで出るモンスターの名前と特徴くらいは覚えとかないと、とは思ってんだ。あと先に湯浴みしたから、湯桶洗って今、お湯沸かしてるから。それからもらったチャンマーコーンを茹でといた。今夜はごちそうだぜ?」
風呂上がりでサッパリした感じのヒロ兄はジンベエみたいなリコット村の部屋着姿で、植物油のカンテラの灯りを点けたダイニングのテーブルで勉強してる。近くの笊にはピンク色のトウモロコシが茹で上がってた。
「···ヒロ兄」
「ん? なんだ? お湯はもうちょい掛かるぞ? 今、モル式の多段活用確認してんだ。モパ、モパネ、モピヨーポ! モピヨーポで急に変わり過ぎじゃないかコレ??」
「目を覚ませヒロ兄ぃーっ!!」
「えーっ? なにー??」
もらったおかずをテーブルに置いてヒロ兄に飛び掛かってやったわっ。
「ネオ山梨県民化し過ぎ! 私達は地球のジャパン族!!」
「おおお? はっ! そうだ! あっぶねぇ〜···充実し過ぎて帰る目的忘れるところだったぜ」
「ホントだよっ、気を付けてね。かしこ〜」
「悪い。かしこかしこ」
知らず知らずにネオ山梨カルチャーに侵食されちゃうところだったよ。
ビックリしたな〜もう、かしこ!