僅かな休息、偽りの勇者
5人の勇者と、その旅路。行き着く果てに見える景色は希望か絶望か。
5人の勇者がいた。
勇者はそれぞれ、様々な国で魔物を倒し、悪さをする者達に罰を与えていきました。
そんなある日のこと、一人の勇者がポツリとこぼした。
「もうイヤだ。魔物を倒したくない。何故こんなことをしてるんだ。…自由になりたい。」
彼は特殊な能力、技能を持って生まれたが故に、勇者になることを求められ、仕立て上げたられた。
「最初はチヤホヤされた、いい気にもなった。使命みたいなものも感じたよ。…ただ利用されてるだけだってのに。」
最初は世界中の助けを求める声に応えるべく、彼らは奔走した。
どんなに苦しくとも、辛くとも、泣き言を吐かずに耐え、村や町に現れる魔物を倒してきた。
そんな生活が1年経ち、3年経ち、5年が経つと、不思議なことに、それが当たり前となるのです。
皆にいて当然の存在だと思われると、感謝は薄れ、いつの間にか勇者に対する不満すら出てきた。
「また魔物が暴れてる。なんで勇者様達は早く来てくれないのか。贅沢をして、役割を果たしてないのではないか。ふざけるな。」
たった5人で広大な世界の魔物を倒すことなど、できはしないのです。しかし、世界の人々は勇者という肩書きに非常に過度な期待をしてしまう。
同じ人間ではなく万能な道具のように思ってしまう。
そんな日々に辟易とした1人の勇者がポツリとこぼした。
「…今日からもう自由に生きよう。こんなの人の生き方じゃないよ。世界の片隅でひっそりと、穏やかに生きよう。魔物も人間もいない場所で」
勇者の目指した土地。遥か北に位置するその場所は、魔物も人すらも踏み入らない。誰も生きて帰った者は居ないと言われる土地です。
噂が噂を呼び、誰もいない、誰も行かなくなった土地に、勇者は向かいます。
勇者という肩書きを捨て、一人の旅人となった彼は、ただひたすらに北へ向かう。
北へ向かう。
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気がつけば、そこに着いていた。
そこには、辺り一面の森が広がっていた。
道中、数多の魔物に命を狙われつつもたどり着いたその土地は、とても人の住める状態ではなかった。
「…しんどい。やっと来たがとてもじゃないが住めたもんじゃないな。全く開拓もされてないから本当に一からか…。先は長いな。」
この森は好き放題に木々が生い茂っており、人が住めるような家や村なども近くになかった。
自然豊かと言えば聞こえがいいが、一度入ってしまうと出ることのできない迷いの森だ。知性ある魔物達はこの場所に近付こうともしない。
「とりあえず、なにをするにも広い場所が必要だ。この辺の木々を少し、倒させてもらおうか。」
ゆっくりと、腰に携えた手入れの行き渡った剣を鞘から引き抜く。その剣を一振りすると、彼の周りの木々が次々と倒れていった。
「…切れ味、少し落ちてるかもなぁ。また、ちゃんと研がないとな。なんせお前が錆びたら俺が死ぬからな。」
この剣は頑丈さはあるが、道中切った様々な物のせいで定期的に磨く必要が出てくる。
物。そう、物だ。
「とりあえず、暫くはテント暮しだな。家はゆっくり作っていこう。飯は、まぁ前の街で集めた物で凌いで、畑を作るか…。」
1人での今後の生活に思いを馳せながらテントを組み立てていく。何年も共にしたテントは使い古されているようで、味が出ている。
テントを組み終えて、寝床を整える。その頃には既に日が落ち始めていて、オレンジ色の光が木々から零れ落ちていた。
「さて、今日は干し肉でも齧って寝るかな…。本格的に動くのは明日にしよう。…そうしよう。」
ノソノソと手持ちの鞄から干し肉を出し、モソモソと食べ始めた。その片手間に火打石で火を付け焚き火の用意をする。
やがて日がとっぷりと沈み、辺りは闇に包まれ静寂が訪れた。
焚き火の前に座り、これまでの旅を振り返る。
悲しいことばかりではなかったが、思い返すと戦ってばかりで、自分の体を気遣うことがなかったことに気づく。
自分の手には無数の傷が刻まれており、所々黒ずんだ部分や隆起している箇所が見られる。いずれも強い魔物たちと戦ってできた傷だ。
しかし、そんな日々に、既に別れを告げた。
もう誰も自分を支配するものはいない。縛られるものもない。自由に生きることができる、そう思うと、思わず笑みがこぼれる。
そうして、疲労で悲鳴を上げている体をゆっくりと倒し、目を閉じていった。
これから先訪れる壮絶な未来など、本人は知る由がなかった。
はい!初めまして、くろねと申します。
初めての作品なので描写などおかしいなぁと思う所があれば指摘してもらえると嬉しいです!
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