わたしはあなたのルームメイト
朝。アラームの音であなたは目を覚ます。
たいていいつもすぐには起きなくて、何回目かのスヌーズでようやくアラームを止める。
いい加減そろそろアラームを増やした方がいいんじゃないかしら。
いつの間にか止めてしまって寝過ごしたこともあるのだから。
あなたはアラームを止めるとベッドから起き上がる。
時間のないあなたは、慌ただしく着替えて鞄をつかむと急いで部屋を出て行く。
扉が閉まる音を確認して、わたしはいつもの場所から起き上がり、カーテンを開く。
窓から差し込む陽の光の中、ゆっくりと柔軟運動をする。あなたと違ってわたしには、時間がたっぷりあるのだから。
そうしながらも、部屋の外の音には耳をそばだてる。あなたはたまに忘れ物をして部屋に戻ってくることがあるから。
ほら、やっぱり。
慌てた足音が近づいて来るのを聞き、わたしはいつもの場所に戻る。
大きな音を立てて扉が開き、あなたが部屋に入って来る。
あなたは机の上の忘れ物を見つけ、大きく息を吐くと、それを手に取って鞄の中に入れる。
忘れないようにと前日に机の上に置くのはいいのだけれど、最初から鞄の中に入れておいた方がいいと思うの。
机の上に置いたまま忘れて取りに戻って来るの、これで何度目かしら。
あなたはふっと顔を上げ、訝し気に窓を見つめる。
「……カーテン、開けたっけ」
ええ。わたしが開けたの。あなたも朝、カーテンを開けたらどうかしら。
ほら、朝日を浴びると健康にいいって聞くし、目覚めがよくなるかも。
あなたはかぶりを振ると、はっとしたように時間を確認して、窓に背を向けると慌てて部屋を出て行く。
いってらっしゃい。気を付けて。
開いたときよりも静かな音で扉が閉まる。
慌ただしい足音が部屋を遠ざかって行く音を聞き、わたしはいつもの場所から出てきて、柔軟運動の続きをする。
暖かな陽射しが心地よい。今日も穏やかな日になりそうだ。
* * *
夜。あなたは部屋で眠りにつく。
わたしはあなたが眠ったあと、もう少しだけ起きている。
窓の外の光で本を読む。気のすむまで読んだら、あなたの本棚に本を戻す。
あなたが順番を気にせずに戻すからばらばらに棚に並んでいる本を、わたしがいつも順番通りに整えている。
そうしてわたしはいつもの場所に戻る。
おやすみなさい。また明日。
* * *
わたしはあなたのルームメイト。
あなたはそれを知らないけれど。