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※汚グロな描写あります。ご注意ください。
※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。
「遅なってごめん、ママ。隣の部屋で揉め事あってな――」
薄手のジャケットを脱ぎ、裏口に繋がる物置兼休憩室の壁に掛けるとナミはすぐカウンターに立った。
「今日はなんかヒマやし、まあええよ。そやけど隣の部屋の揉め事て、あんた関係ないやん。なに? 痴話喧嘩に巻き込まれたん?」
隣の住人が同棲中のカップルだと知っていたママが煙草を吹かしながら笑う。
毎夜の激しいイチャイチャが筒抜けでしんどいと、いつもナミが愚痴を吐いているからだ。
「それがな、ものすっごい喧嘩してて。こりゃ女刺されたなぐらいの悲鳴してな――怖いんで110番通報したんよ。電話の最中も叫び声がすごて、で、それ電話越しに聞こえて、パトカー行くまで家出んといてください言われて、それで遅なってん――」
ナミは冷蔵庫から自分用のミネラル水のペットボトルを出し、ラッパ飲みした。
「ほいで、隣どやったん?」
「わからん。パトカー来てすぐ、仕事や言うて出て来たから。もしかして後でなんか訊かれるかも……」
「そらめんどくさいなぁ」
灰皿で煙草を揉み消しているママが気の毒そうに眉を下げる。
「ほんまに――あれ? いやママ、これおいしそうやな」
ナミはカウンターに置かれた大皿の煮物に気づいた。
「酒の肴にと思て作ったんや。その野菜な、常ちゃんが持ってきてん」
ママがカウンター内の隅に置いてある野菜の入った背負い籠を指さす。
「あ~」
「あんたにも分けて言うてたで――ちゅうか、あんたに持って来たん、うちも分けて言うてもろたんよ」
「ふうん。何なら全部使てくれてええよ。持って帰んのめんどくさいし」
「そう? ほなもらうわ。けど、常ちゃんに会うたらお礼言うといてな。うちが全部取り込んだ思て恨まれんのいややし」
ママが笑いながら言うので、「わかってるよ」とナミも笑った。