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※汚グロな描写あります。ご注意ください。
※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。
ようやく『ケイコ』に着いたものの、日が傾き始めたばかりで、まだナミの出勤時間でない。
それはわかっていたが、夜まで自分を保っていられないことを懸念して、復讐のために何とかここまでやって来たのだ。
籠にはこの地方特産の夏野菜がたくさん入っている。大きく瑞々しく育った野菜はみな美味そうに煌めいていた。
ぎこちなく指を動かし、店のドアを開ける。
からころ鳴るカウベルの音に、煙草を吹かしながらカウンターで週刊誌を見ていたママが視線を上げ、訝し気な表情を浮かべた。
「――え? 常ちゃん?」
「おう」
ママが惑うのも無理はなかった。
目深に被った帽子の下の常夫の顔は包帯でぐるぐる巻いている。それだけでなく、真冬用のとっくりセーターを着用し、作業ズボンの足元は深めの長靴を履いていた。手には軍手をはめ、肌の露出部分はどこにもない。
だが、もしそうしていなくても、大小さまざまな膿疱に埋もれた常夫の顔は、もう誰も彼だと判別できなかっただろう。
「な、なに? ナミちゃんまだまだ来んで」
「べつにええよ――やさいいっぱいできたで――ナミにくうてもらおおもて――もってきたんや」
常夫はもたつきながら背から籠を下ろし、スツールに置いた。
「あら、大きいし実いっぱいでおいしそうやわ。今年はなかなかのできやね。うちももろてええ?」
「ええよ――ええよ――みせでつこてくれたらええで――そやけどナミにもぜったいわけてやってな」
「わかってるわ。ナミちゃんのために持ってきたんやもんね。
あれ? もう帰るん? 今晩、また来るんやろ?」
「いや、たぶんもう来れん」
常夫の返事にほっとした表情を浮かべたママは、
「畑、忙しんやね」と笑った。
「ほな」
「また来てね」
「おう」
店を出た常夫はさっきよりさらに動き辛くなった脚を引きずりながら家路に向かった。
ナミ、俺の拵えた野菜いっぱい食えよ。
「くくく――」
常夫が笑うと顔の膿疱がぶしゅぶしゅと潰れ、包帯の内側から濁った黄色が染み出してきた。それに呼応するように全身の膿疱も次々潰れると、常夫のぎこちなく歩く歪な姿が、さらに歪んだ。