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※汚グロな描写あります。ご注意ください。
※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。
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思うように動かない身体中の力を振り絞り、常夫はいつも軽トラで来る『ケイコ』に数時間かけて徒歩で辿り着いた。この身体での運転は命が危ぶまれると判断したからだ。
収穫野菜を入れた重い背負い籠を背負っていたので、到着までずいぶん時間がかかった。
未だ自我ははっきりと保ってはいる。だが、皮膚だけでなく神経系統もやられていくのか、だんだんと身体のコントロールが利かなくなっていた。
自分の意思ではなく獣のような叫びや唸り声が勝手に出てしまう。こうやって徐々に自我を失って、生屍者になっていくのかもしれないと思うと、早くナミに復讐せねばと焦った。
ここに辿り着くまで何人かの生屍者を見た。みな近隣の農家の人間で友人たちでもあった。膿疱で顔の判別が出来なくなっていたので、たぶん。
きっと同じ肥料を坂本から貰ったのだろう。自分と同じように手の皮膚や鼻の粘膜から吸収した、もしくは収穫した野菜を食べたのかもしれない。
生屍者は何かに激昂し、暴れ、わけのわからない叫び声や唸りを発し、逃げ惑う人々を襲っていた。のろのろした動きをしているのに、人に対峙し、飛び掛かる時は素早く力も強かった。
すでに自我を失くした者たちなのだ。激昂したまま素手で人の肉を引き千切る様はまさしくゾンビだった。
襲われた人々の中には鍬や鎌を手に反撃する人たちもいた。やられた生屍者はマツと同様動くことはない。もちろん殺された人間も動かないが、生屍者に傷を負わされたのみで死ななかった者は、命に別条がなくても、その膿を被ればものの数分で同じ生屍者へと変化する。
常夫は歩きながらその光景を見て、生屍者の状況を把握した。
常夫のように肥料を直に吸収して変化するもの、収穫野菜を口にして変化するもの、そして直接感染されて生屍者に変化するもの――
あの肥料の試供品はもうないだろうから、収穫物か生屍者から感染が拡がっていくこの村はきっと全滅するに違いない。