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※汚グロな描写あります。ご注意ください。
※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。
かっとなると膿疱が破裂し、心の制御がきかなくなる。その頻度が高くなり、怒りで我を失うことが多くなっていることに常夫は気づいていた。
そやけどこれは我を忘れたわけやない。しっかり自分の意志でやったことや。
笑みを浮かべて、玄関先の廊下に転がるマツの遺体を足先で小突いた。
それにしてもゆっくりしか動けやんおかんがえらい勢いで飛び掛かってくるやなんて――やっぱり俺らの身体に異常が起こってるんや。
ランチュウの頭部のような膿疱に埋もれたマツの顔は、親しい者が見てももう本人だと気づかないだろう。開いたままの白く濁った瞳が宙を見つめている。もうそこに何も映っていないことがわかっていても薄気味悪く、常夫は足を使って母親の首を反対方向に向けた。
顔面のみならず手足に散らばる膿疱の潰れた痕は皮膚の肉が溶かされ抉れていた。同じ症状なので衣服に隠れた身体全体にも広がっているだろう。
死にたてやのにまるで腐乱死体や。ちゅうか、生きてるうちからゾンビみたいやった――って、まさかほんまに生き返ってけえへんやろな。
警戒しながら足先で何度も小突いたが、突いた反動で揺れ動くだけで、マツ自身が動くことはなかった。
生きてる屍者――生屍者か? ゾンビと違て、死んだら終わりやな。命は大事にせんと。
常夫は深い息とともに「ああ、せいせいした」と吐き出し、緊張を解いた。