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※汚グロな描写あります。ご注意ください。
※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。
目を覚ましたマツはじくじくと続く腹痛と、全身の怠さに、きょうも起きられそうもないと情けなくなった。
わしももうあかんな――
寄る年波に勝てず、いつかこんなことになる日が来ると覚悟してはいたが、まだまだずっと先のことだと思っていた。それなのに……
こりゃ、常夫と同じ病気や。あいつが売女に貰てきたもんをうつされたんや。そやさけあんなとこ行くな言うたのに。
身体はどんよりだるいのに頭だけはかっかと燃えている。常夫と同様に腕や顔だけではなく体中にできた膿疱が体中のあちこちで破裂するのがわかった。
布団の中から温まった空気に混じる膿の臭いが漏れ出てくる。
「常夫っ、常夫っ」
気持ち悪いので寝間着を着替えさせてもらおうと呼び付けたが、返事はない。
畑に行っとるんやろか。
あんな身体になっていても、常夫は畑に必ず出て野菜を収穫している。
今年は異常気象で木の実や山芋のような山草が育たず、イノシシやシカ、サルが餌を求め、里の作物を食い荒らしに来ているという。毎年被害はあるにはあるが、今年は異常に多いらしい。
せっかく育てた作物を野生動物に食われてしまうことに腹が立つのだろう。
今年のは大きいて、ようさんなった言うとったしな。それに味も上出来やった
マツは自力で汚れた下着と寝間着を交換しようと、開け放したままの箪笥の引き出しをつかんで、それを支えに何とか上半身を起こした。
ただそれだけでゼイゼイと荒く呼吸が乱れ、それがまた腹立たしく、あちこちの膿疱が破裂する。
「全部常夫のせいやっ」
マツの脳裏には常夫と町に出かけた際に見かけたナミの姿が思い浮かんでいた。
露出の多い派手なワンピースを着たナミが常夫に気付いてにこやかに手を振る。鼻の下を伸ばして手を振り返す常夫の顔を思い出すと、ぶしゅっと額の膿疱が破裂した。
わしは騙されんで。あの女、常夫やのうて、わしらの持ってる土地に微笑んどるんや。そやけど今はまだ全部わしのもんやで、あいつらの自由にはさせん。
次々に膿疱が音を立てて潰れ、顔から流れ落ちる膿がさらに寝間着を汚す。
「ただいま」
玄関から、帰宅した常夫の声がする。
あいつぁ――寝込んでるおかん放っといて、あの女の店へ行ってたんやろっ。
スナックの営業にはまだまだ早い時間帯だったが、次々と膿を噴出させているマツに、もうその判断はできなかった。