3-1
※汚グロな描写あります。ご注意ください。
※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。
なんやろ、このできもんは――
常夫は洗面所に立って鏡を覗き込んだ。
顔中にいくつも出来たできものは痛くもかゆくもなかったが、もともと歪な不細工顔をさらに歪ます。
農作物がそろそろ収穫時期を迎えていた。今年の野菜は大きさも量も、見た目の良さも、今までにない最高レベルに育っている。早々に試食したマツが味も保証した。あの出来にうるさいマツがである。
ようよう自分にも運気上がって来たか――
あの肥料が出回れば、この先の未来は明るい。コストは高いかもしれないが、坂本に少しでも安く売ってもらえるよう交渉しようと考えていた。
そんな感じで、ここ最近気持ちが浮かれ、
「そや、ナミになんど好きなもんでも買うちゃろ」
忙しさを縫って『ケイコ』に行く算段をつけていた矢先のことだった。
「なんか、ひどなってへんか?」
常夫は眉を顰めて独り言ちた。
始まりは手の痒みだった。
薄赤い発疹という兆候は肥料を使った農作業の後からあったが、ただの虫刺されだと思って放置していた。
発疹は次第に赤黒く濃くなり、無数に広がった。
手から腕、肩、首筋から頬に達し、そして顔にまで広がってきた。苦瓜の表面のような大小さまざまな疣状のものが密集し、さらにそれは黄色い膿を内包する膿疱へと変化していく。
原因はわからないが、虫刺されでないのなら、今年初めて触れたあの化学肥料しか思い当たるものがない。
病院嫌いの常夫には診療を受けるという選択肢はなく、いずれ治まるだろうと軽く考えていたが、いくら何でもこれは異常だ。
いっぺん坂本センパイに問うてみよか――
そう考えていると、
「お前、あの女に変な病気もろたんやろ」
背後から母の声がした。
振り向くと洗面所の入り口にマツが立っている。
「ナミちゃんとなんもしてへんのに、病気もへったくれもあるかっ」
半ば自嘲気味に吐き捨てる。
「ま、そんな顔やし、もうどこにも行けやんなぁ、家でおとなししとけ言うことや」
マツの嘲笑いに常夫は舌打ちした。
腹立つことばっかり言いくさって。
今まで心の底に沈めて来た不満がふつふつ煮えたぎり、怒りが湧き上がって頭を熱くする。
ぶしゅっとこめかみの膿疱が破裂し、黄色い膿が飛んだ。
「うわっ汚いなぁ、どないなってんや。はよ医者行って見てもらえ」
眉をしかめるマツだが、その皺顔のあちこちにも少しずつ発疹が広がっていた。
それに気づいた常夫だったが、自分たちに何が起きているのか詳しいことは何もわからない。
「言われんでも明日行くわ」
まるで行く気はなかったが、そう返事して常夫は自室に戻った。
「メシは?」
「いらん」
「せっかくこさえたのに。そんなやけ嫁の来てもないんや」
ぶちぶちと愚痴を吐きながらマツも台所へと戻っていった。