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「もしもしW郡瀧神村役場農業振興課――あっ、はいぃ、坂本ですぅ。いつもお世話に――はいっ、はいっ。
あっ、あれはですね、何軒か知り合いに試してもらってま――えっ? 中止? では回収されるんですか――え? こっちで廃棄を?
はい、はいっ、わかりました。残っている肥料は――えぇっ? 使用した苗や作物もですか? あぁ、はい――全部回収して――こちらで焼却すればよろしいんですね。はいわかりました。
試作はまたの機会にってことで――はい。これからもよろしくお願いしますぅ」
受話器を戻した坂本は溜息をついた。
先日預かった化学肥料の試作品に不都合があって、こちらで廃棄しろという指示が来たのだ。マージンを独占しようと、役場ではなく坂本個人が勝手に引き受け、農業を営む友人や後輩たちにすべて配布した後だった。
「使てもらう時は擦り寄ってくんのに、いらん後始末は全部こっちに丸投げや。めんどくさいのぉ」
独り言ちた坂本は煙草を持って立ち上がり、役場の外に設けられた喫煙場所に向かった。
吸い殻入れの前で煙草に火を点け、深く吸い込んだ煙を長く吐く。
残ってる肥料回収言うてもなぁ――みなもう畑で全部使てしもた言うてるで――苗も順調に育ってる言うて、常夫らも喜んでたし――どないしたらええんや――回収や焼却や言うたら、なんぼ後輩でも種苗代、弁償せなあかんやろしなぁ――それも俺一人でひっかぶらなあかん。あっちこっち回って? 集めて? 焼却処分までして?
たいしたマージンも貰うてないのに、これ以上一銭にもならんことやってられるか。
坂本は最後の煙を吐くと、苛立ちを吐き出すように煙草を力強く揉み消し、自分の部署へと戻った。