表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

※汚グロな描写あります。ご注意ください。

※専門的な知識に基づくものではありません。架空の話です。


  

  

「ほんまにそんなもんで、ええもんできんのか?」

 深くて硬い皺を顔に刻んだ老母マツが姉さんかぶりをした手拭いの下から常夫を()め上げた。

「そこまでまだわからんけどな、役場の坂本はんにいっぺん使(つこ)てみてくれんか、て頼まれたんや。世話になったセンパイやで断りもできんやろ。しかもタダや。おかんタダ好きやん」

 常夫は坂本からもらった化学肥料の青いビニール袋を無造作に開け、まず素手に取って中の粉末を確かめた。粒子の細かいクリーム色の粉は親指と人差し指で擦るとしっとりと指紋を浮かび上がらせた。

 何が配合されているのかわからないが、坂本がくれるのはいつも最新の試供品なので、自分を優遇してくれることに常夫は感謝していた。

 スコップで(すく)った粉末を株の根元に丁寧に撒いていく。

 20キロ入りを30袋ももらったので、全部の野菜に施肥することができ、今回の肥料代が節約できると喜んだ。

 よく肥えた黒い土に載った粉を見て、常夫は好物の粉糖をまぶしたチョコケーキを思い出した。

 まだ幼かった頃に初めて食べて感動してから大好物になった。

 そういや最近食ってへんな。ナミちゃん(さそ)て隣町の喫茶店でも行こかな。

 施肥しながら、にやにや笑顔が浮かぶ。

 四十も過ぎて常夫にはまだ妻子がおらず、恋人と呼べる女性もいなかった。

 無骨で不細工な自分を構ってくれるのは、この田舎に一軒だけある『ケイコ』というスナックのホステス、ナミだけだ。

 だがそれは常夫が店に金を落とす貴重な客だからだとわかっている。わかってはいるが、やはりどこかで期待する自分がいる。

「しょうもないことに金使(つこ)てもったいない」

 と、そのことでマツによく苦言されるが、常夫は聞く耳を持たなかった。「もう行くな」と言われても、いつも適当に誤魔化し返事した。

 この肥料がいい作物をたくさん実らせて、こんなしがない農家にも明るい未来が見えたら、もしかしてナミは本気で自分との結婚を考えてくれるかもしれない。

 可能性はほぼゼロだが、常夫は希望に胸を膨らませ肥料を撒き続けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ