エピローグ:20 藍どうこう
仕事終わりの逢ちゃんと。
フードコートで他愛ない話をしていただけなのに。
途中から表れた違和感のせいで。
オレは自己満足だとしても。
この子にあの日見た星空をみせたくなった。
たとえ作り物だとしても。
夕陽がでている夏の午後六時過ぎ。
ショッピングモール内のフードコートにある窓際のソファ席で。
仕事が午前始まりの。
逢ちゃんの勤務が終わるのを待っていた。
窓からは開けた景色が。
晴れているおかげで一望できて。
田んぼや遠くにある山に。
所々に模様みたいに点在する住宅地や。
ミニカーみたいに道を走っている車だって。
ジオラマみたいに眺めていられる。
子供みたいにこう思えるのも。
ペガサスに乗せてもらった体験があるからだろうな。
なんて。
かれこれ考えながら。
だいたい十分くらい待っているが。
オレがここで待つよりも前に。
この建物がどう変化したのか。
見ておきたかったので。
意外と時間が過ぎるのが早かった。
なんなら見物を途中で切り上げたくらいだ。
大学生になって何度も帰省したが。
このショッピングモールには。
訪れていないので。
久しぶりのこの中は。
新鮮だった。
世界の工芸品を扱う店や一風変わった雑貨屋はもうなかったけど。
新しくできたアニメショップとか。
もちろん以前からあった店にも寄ったが。
『トレードイン』の件抜きで訪れたここは。
なかなかに楽しめた。
おっ。
あれこれ考えているうちに。
待ち人来るだ。
あっちにいるのは逢ちゃん。
立ち上がってちょっと手を振ろうっと。
おし。
ちょっとお互いに恥ずかしい気もするが。
むこうも気づいてくれたみたいだ。
鞄を肩にかけて逢ちゃんは。
やや小走り気味に。
オレがいる席までやって来た。
「ごめんなさい。お待たせしちゃって」
「ううん。全然。むしろこの中の変わりようが見れて良かったよ」
嘘じゃない。
本音を伝えて逢ちゃんを迎えた。
「仕事終わってすぐだし、何か奢ろうか」
「だいじょうぶですよ。それより早速お話ししましょうよ」
モールの適当なベンチに座って会話するより。
フードコートでソファ席を確保しておいた方が。
お互いに落ち着いて喋れるし。
それにオレはエメラルドールビーで。
お菓子を買ったし。
それを逢ちゃんに分けることもできる。
この場所を選んでおいて正解だと思った。
ただ、人が多くて。
騒がしいのが欠点だが。
逆にこっちの会話が周りに聞かれづらいと考えれば。
理にかなっているってもんだ。
「なんか、色々考えていたでしょ」
「え、まあ」
「もう、来人さんってすぐ何かを考える癖があるじゃないですか」
「ごめん。ごめん」
「でも、そういうところ含めて惹かれたんですけどね」
「嬉しいな……ところで弟くん達は元気にしている」
「もち、元気バリバリです」
「カナタは高校で野球部のエースやっていますし」
「凄いワンパクな子だったからイメージしやすいな」
生意気なカナタくんが野球部でエースとはね。
らしいっちゃ、らしいな。
この子に昔ここで野次られたのが懐かしいな。
「慎太はまだ中学生なのに宇宙や星に関する仕事に就きたいって言ってますよ」
あの子も立派な夢を持っているんだ。
思えば、図書館で慎太くんに会ったのが。
逢ちゃんと出会うきっかけだしな。
となると、次に聞くのは。
「二人とも元気なんだね。ちなみに逢ちゃんは高校卒業後はどうしてたの」
「高卒で入った会社すぐ辞めてバイトを転々としてました」
すごく明るく逢ちゃんは話しているけど。
きっと思い出したくないことも。
あったんだろう。
「来人さんには心配かけたくないから、朱理ちゃんに一個約束してもらったんです」
「自分に関してオレには話さないでほしいってところかな」
「はい。すいません心配おかけして」
「気にしなくていいよ。逢ちゃんが元気ならそれでいいさ」
朱理が逢ちゃんについて。
あまりオレに話したがらなかったのが。
そういう理由なら。
納得してしまう。
本人も色々大変そうで。
気持ち半分で話せる内容じゃないな。
「で、今のエメラルドールビーが一番長続きしていてもう半年近くは勤めています」
「充分に偉いよ、逢ちゃんは」
「こうやって励ましてもらいながら褒められるの空き家の件以来ですね」
もう何年も前なのに。
憶えていてくれるなんて。
我ながらキモイかもしれんが。
泣いている逢ちゃんをオレは。
励ましてから。
二人自転車で並走して帰ったっけ。
「うん。逢ちゃんは人一倍勇気があるから、オレも励ましがいがあるよ」
「なんですか、それ、ふふふ」
「真面目に答えたつもりなんだけどな」
なんだかんだで。
逢ちゃんが笑ってくれるなら。
オレはそれでいいや。
「すいません。あそこ空き家じゃなかった。群青竹さんっていう人の持ち家だったらしいですね」
「朱理からオレも教えてもらったよ。それとあの人カフェ営んでいるらしくてさ、ちょっとオレ行ってきたんだ」
「マジですか。じゃあ、今度二人で行きませんか」
「いいけど、そっちは大丈夫」
「ええと、彼氏とかの心配なら大丈夫です。三か月前に別れましたから。なんで、来人さんは何も気にしなくていいですよ」
大きく両手を振る逢ちゃんに。
別れた彼氏について言及する気はないけども。
あんまりオレに聞かれたくない思い出なんだろうな。
強引に話題を変えるのを示すように。
逢ちゃんは閃いた感じで人差し指を上に向けた。
「そうだ、群青竹さんの家と言えば、あの家の門の前で寝転がって見た星空キレイでしたね」
「え、ああ」
ん。
「服が汚れるのを気にせずに仰向けになって満点の星空を二人だけで独占しちゃいましたね」
「うん」
あれ。
「二人きりで誰にも邪魔されずに、来人さんが星座を教えてくれたりもして」
「よく憶えていたね」
ああ。
そういうことか。
逢ちゃんはヴェルデから。
アズゥに関しての記憶を上書きされているんだっけ。
ヴェルデとの取引もあって。
付き合ってた当時はなるべく話題に出さないようにしていたし。
話がアズゥ絡みにいこうとして。
強引に会話の流れを逸らしても。
確か逢ちゃんはなんの違和感も持っていなかったな。
そうだよ、もう。
オレと逢ちゃんとアズゥの三人で。
あの地下室の小さな夜空で。
作り物だけどキレイな星座を。
三人一緒に見た思い出は。
もう逢ちゃんにはないんだった。
「どうしたんです。俯いちゃって」
「ううん。なんでもない。ところで、オレからも提案があるんだ」
「なんです」
オレは顔を上げると。
逢ちゃんに優しく穏やかに。
自分の提案を教えてあげた。
「またお盆の時期ぐらいに帰省するんだけどさ。そのときに一緒に星座を見ない。作り物だけど」
「作り物?」
一人足りないけど。
もう一度。
自己満足だろうとも。
この子に。
アズゥのプラネタリウムを。
思い出の星座を見せてあげたい。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回が最終話となります。
星空に関するストーリーなので。
個人的に七夕の時期に完結できてよかったです。
今作最後の更新は7/6の17:00を予定しています。
最後までぜひご覧いただければ嬉しい限りです。




