エピローグ:19 バスが揺らしてくれるから
ジェムロマンスモール行きのバスで。
七年前の出来事を振り返っていたら。
あっという間に目的地に着いていた。
ヴェルデと初めて会った時と違って
夏休みで晴れているし平日でも人が多いな。
『発車します。揺れにご注意ください』
バス誰も乗らなかったから。
すぐに出ちまった。
車内にはご年配の方々ばかりで。
席こそ全部隣は空いているものの。
約十人がこのバスの中にいる。
たった今出発したのは。
実家の最寄りのバス停だから。
オレが座っている後ろの窓際席からだと。
遠くで小さめだが。
確かに自宅が見える。
それくらい。
建物なんてないし。
田んぼだらけの場所だ。
ここが、オレの地元で。
ここで、七年前に。
青い石が。
ドラゴンやケルベロスに変身して。
あまつさえペガサスに姿を変えて。
その背中にオレを乗せて。
飛び回っていたなんて誰も思わないよな。
そもそも。
誰かに言ったところで。
『最近読んだ漫画か映画の話』
とか笑われるのがオチだ。
それくらいに。
現実離れした出来事を。
中学生の時に体験したオレは。
高校生になって。
少ないけど友達を作って。
休みの日は友達の誰かの家で。
ダラダラとゲームして過ごしていたけど。
ときには町のイベントに参加したり。
ときには県外の海や山に。
ときには都会まで観光しに行ったから。
地元から離れた場所にある大学に入ってみて。
改めてオレは。
思い出の中にある地元の景色が好きだと。
自分自身気づいたから。
就活で地元にある観光事業の会社を受けてみて。
特に苦労も無く。
内定をその会社から頂いた。
地元が好きで好きでたまらない、って。
アピールしてた隣の人が落ちていたのに。
友達との何気ない思い出や。
いい景色が観れる穴場スポットの紹介や。
変な噂から笑える小話まで。
高校時代を振り返るような会話を。
面接官の人達としただけなのに。
なんでだ。
ともかく。
まだ就活を頑張っている人には。
申し訳ない気もするが。
意外と楽に内定をもらえた。
『図書館前。図書館前』
大学生になっても。
思い出はいっぱい作ったけど。
比較するのも性悪かもしれないが。
濃さ。
思い出の濃さで言えば。
やっぱり地元での体験が勝る。
高校時代も、大学の頃の友達とも。
まだやり取りしているが。
元カノの逢ちゃんに関しては。
妹の朱理の「元気にやっているらしいよ」以外はなにも知らない。
別れてからSNSのトークやつながりも消したし。
こっちから朱理に話を切り出すのも。
未練がましいし。
なにより、下手したらむこうを怖がらせてしまいそうで。
あとは朱理に呆れられてしまいそうで。
特に言及もしていない。
来年から、地元で働くからか。
気になってしまうが。
彼女がどこで何をしているんだろう。
今となっては。
考えてもしょうがない。
それこそ、県外で、都会で楽しくやっているかもしれない。
なんだか。
過去を振り返っている、というよりか。
過去に縛られている感じがする。
アズゥに関しては。
それから解き放たれて。
新しい一歩を踏み出したからか。
尚のこと逢ちゃん絡みで。
後ろめたさを感じているんだろうな。
『終点、ジェムロマンスモール。ジェムロマンスモール』
色々と考えていたら。
バスの揺れも。
増えた乗客の数も。
気づかずに。
目的地に着いていた。
『足元お気をつけください』
ああ、この運転手さんの気遣い。
変わらないな。
ヴェルデとの初対面の時と違って。
空は晴れていて。
暑くて。
陽の光でカチカチのタイルの上を歩いて、
冷房が効いたショッピングモールの中に入ると。
中高生ぐらいの子たちが結構な数いた。
制服、私服問わずみんな楽しそうな顔をしている。
夏休みだし当たり前か。
それにここらで無難に遊ぶとなれば。
ジェムロマンスモールに絞られるだろうしな。
オレも逢ちゃんとは。
よくここに一緒に来たもんだし。
気持ちすごく分かるな。
もう来年から社会人だってのに。
思い出に引っ張られてばかりだな、オレ。
色々考えてばかりだが。
今は何時だろうか。
「もう四時過ぎか」
スマホの待受の画面には時刻が表示されているが。
思ったよりも時間は経過していなかった。
まだまだ外の景色も明るいし。
まさに日の長い。
夏の午後って感じだ。
さて。
七年前、ヴェルデと待ち合わせしたあの店に。
喫茶『エメラルドールビー』に行くか。
流石にもうデラックスパフェは食べきれないから。
テイクアウトにして。
適当にコーヒーとお菓子でも買うか。
注文はアイスコーヒーのSサイズと。
バタークッキーをラッピングで頼もうかな。
「すいません。いいですか」
「どうぞ。あれ?」
オレは注文をしにレジまで行くと。
そこには。
「来人、さん」
「逢、ちゃん」
この店のエプロンを着けた逢ちゃんが受付をしていた。
再会したのが久しぶりだからか。
付き合ってた頃の名残で。
呼び捨てになりそうなのを。
お互い不器用に。
他人行儀に名前を呼び合った。
店には五十代くらいのおじさんと。
高校生だろうか、カップルが一組いたが。
それぞれがそれぞれのことに夢中で。
オレと逢ちゃんとのやり取りなんて。
微塵も気にしてはいない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
残り2話を持って今作完結します。
ちなみに次回のタイトルは『らんどうこう』と読みます。
次回の更新は7/5の17:00の予定です。




