エピローグ:18 再会の芽吹き
七年前のオレに言うのも変だが。
まだまだ子供だな、オレって。
もう特に用件もないし。
この店を後にしないと。
それこそ群青竹さんにもお礼を言いに行かないと。
「たくさんヴェルデとお話してたみたいだけど疲れていないかい」
「大丈夫です」
ヴェルデと一連の話を終えて。
少しぐったりしたオレは。
用を済ますがてら顔を洗いに。
トイレへと向かっていた。
そこに行く途中。
カウンター越しに。
群青竹さんから心配気味に声をかけられた。
そんなにオレの顔が。
疲れているように見えたのかな。
「ときどき大きな声で妹さんの名前やキミの今の生活とか聞こえてきたけど、ヴェルデから困るような質問をされたんだろう」
「ま、まあ」
群青竹さんにはそう聞こえていたのか。
SEVENだっけ、あのスマートウォッチを作ったところ。
ヴェルデの所属している組織ってのはガチですごいな。
だからこそ、残念なのは。
ジェムロイドについて群青竹さんに。
伝えられないから。
ヴェルデ自身についてもだが。
アズゥの暴走を詳しく教えてあげられないのが。
心残りだ。
優しく微笑む群青竹さんにオレは。
軽くお辞儀した。
モヤっとはしつつも。
トイレに行って用を済ませると。
洗面台で顔を洗った。
ここでこうするのも本日二回目だ。
群青竹さんにヴェルデ。
二人とも話の内容は違うけれども。
失礼だけど話を聞くだけでも。
体力と気力を使うのは変わらなかった。
気分転換に水でも浴びて。
頭を冷やしたい。
やっぱり、オレ疲れているな。
冷たい水で顔を洗って。
ペーパータオルで水分を拭いきると。
オレはヴェルデが待つテーブルへと戻った。
今オレはどんな顔しているんだろう。
「お待たせしました」
「構いませんよ。それに話すべきことは話したので後は約束してくれるだけです」
ぶっきらぼうにヴェルデは。
もどって来たオレに席に着くように促すと。
オレがいない間にポケットから取り出したであろう。
宇宙船の入っている透明なキューブ。
アクセ代わりに小さくした緑の操縦桿がついたスマホを。
見せびらかすようにテーブルに置いていた。
席にオレが着くと真剣な面持ちで彼女は。
こちらを見つめ呼びかけてきた。
「錆山来人さん」
「はい」
「命令気味で恐縮ですが、今日ここでの会話は他者に口外しないと約束してくれますか」
伝い終えると。
表情は徐々に柔らかくなっていき。
キャラ作りでなく。
感情表現が苦手なのはそのままに。
ぎこちないながらも笑顔で。
ヴェルデはオレにここでのやり取りを漏らさないよう求めてきた。
答えは決まっている。
「誰にも言いませんよ。当然じゃないですか」
「ありがとうございます」
ニヤリと小さく笑い不器用に喜ぶヴェルデに。
いい意味でオレは我慢できなかった。
「キャラ作るよりもオレはヴェルデさんのそっちの笑顔が好きだな」
「ふふ、ありがとう」
褒められるのが予想外だったのか。
一瞬鳩が豆鉄砲くらったような顔をした後に。
ヴェルデは素でお礼を言ってくれた、気がした。
この店が行きつけになるなら。
彼女とも顔を合わせる機会もあると思うし。
今のうちに本音を言っておいた方が。
オレとしては気が楽だ。
うん。
改めて。
もう、今日ここには。
これ以上いてもしょうがないな。
「色々と話をしてくれてありがとうヴェルデさん、オレはもうここを出るよ」
「分かりました。ちなみに今日この後ご予定は?」
「特にないかな」
「では、ワタシとあなたが初めて会ったあのショッピングモールの喫茶店に行ってみてください」
「なんで?」
「行ってみてのお楽しみです」
「もったいつけて、まあいいけど。ところでヴェルデさんはまだここにいますか」
「はい。ワタシの上司が迎えに来てくれますので」
「じゃあ、今日はここまでか。またな、ヴェルデさん」
「ええ、また会う日までお元気で」
『EBオフ』
ヴェルデのスマートウォッチから音声が鳴った。
ここから先は会話の内容も周りに聞かれてしまう。
もう話題もないが。
仮にお喋りするにしても。
聞かれても問題ない。
他愛ない話しかしないだろう。
にしても。
喫茶店をハシゴか。
まあ。
そんな日があってもいいかな。
オレは席を立ち。
座っているヴェルデに。
笑顔で「また次の機会に」と再会の言葉を送ってから。
群青竹さんのもとへと向かった。
椅子に座ってグラスを丁寧に磨いている最中みたいだ。
びっくりさせるわけにはいかないから。
まずはそっと一声かけて。
去り際の挨拶をしよう。
「すいません」
オレの小さな呼びかけに。
群青竹さん、マスターは。
手を止めてオレに。
視線を向けてくれた。
仕事の邪魔にもなっていないし。
このままお礼を言っておこう。
「今日はお世話になりました。群青竹さん、いや、マスター。本当にありがとうございました」
「こちらこそ。それに今日はキミ限定のサービスデーだからね。もう少しゆっくりしてもいいんだよ」
冗談まじりに群青竹さんは。
喜んでオレに返事をくれた。
厳かな感じよりも。
やっぱりこの店のマスターであるこの人には。
楽しく豪快に笑ってくれている方が。
似合っている。
「気持ちは嬉しいけど行ってみたい所があるので」
「なら、しょうがないか。お代は先にもらっちゃったし。クドいけど、やっぱりもう行くのかい」
「はい」
「じゃあ、気をつけてね。ああ、そうだ」
「どうしましたか」
さっきまでの大きな笑いでなく。
茶目っ気のある。
クスクスとしたイタズラじみた笑顔で。
群青竹さんはオレへと小さく呟いた。
「本当はアズゥやあの青い石についてヴェルデと喋っていたんだろう」
「そ、それは……」
「分かっているよ。言っちゃいけないんだろう」
「うう」
なにも言い返せないオレに。
ダメ押しの一言を群青竹さんが口にする。
「ヴェルデはわざと私にあの箱とかを見せびらかしたんだよ」
「わざと」
「テーブルの上になにやら物を置き出して彼女がキミを待っているのが見えてね」
まるで手品の種明かしを。
こっそり教えてくれる子供みたいに。
小声で群青竹さんは自らの推測をオレに伝えてきた。
「そこにはアズゥを思わせる青いオブジェが入った透明な箱があってね、ふと思ったんだよ。もしや、青い石が、アズゥの欠片が巡っていって、今はヴェルデのもとにあるんじゃないかと、まあ邪推だがね」
ジェムロイドが入ったキューブだ。
確かにあれは小さくしたスティックと違って。
遠目に見たら。
気になってしまう。
群青竹さんが作業中だったかは分からないが。
彼女のジェムロイドとかの説明も含めれば。
二回もこの場でチラつかせている。
やや間を溜めてから。
自分の意見を群青竹さんは。
オレだけに聞こえるように小さな声で話し出した。
「試しているんじゃないかな。ヴェルデは私を使って。キミが何か秘密を勝手に喋っていないかをね」
「それは――」
思わずオレは。
ヴェルデのいる背後へと振り向いた。
彼女は先ほどのぎこちない笑顔のまま。
見守るように。
遠くからオレを眺めていた。
なんて言えばいいだろう。
いや、嘘とか曖昧でもいいから。
たとえ群青竹さんを怒らせたとしても。
ここはヴェルデとの約束を守らないといけない。
試されているとしたら尚更だ。
決心がついたオレは群青竹さんに向き直った。
「なに言っているんですか、ちょっと思い出話に花を咲かせていただけですよ」
「なんだ。私としたことが変に勘繰りすぎちゃったかな」
「もう、群青竹さんったら。それより、またここに来てもいいですか」
「キミなら大歓迎さ」
「じゃあ、今度こそ失礼しますね」
あえてヴェルデの方は見ずに。
群青竹さんだけに手を振って再会を誓うと。
オレは喫茶店『アズライト』を後にした。
外に出て。
さて、次のバスはいつ来るだろうと。
バス停の時刻表を見てみると。
あと五分くらいで着くみたいだ。
名残り惜しくオレは『アズライト』の看板を。
眺めながらバスを待つことにした。
地味に嬉しいのが。
このバスの路線は次の目的地行きなところだ。
向かうは『ジェムロマンスモール』の中の喫茶店『エメラルドールビー』だ。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
もうすぐこの作品も終わりが見えてまいり。
残り2、3話での完結を予定しておりますので。
旅のように長くお付き合いしていただいた読者の皆様には。
感謝しかございません。
まだ完結していないのにこう言うのも変ですが。
もう少しだけ今作は続きます。
それでは次回の更新は7/4の17:00の予定です。




