エピローグ:17 空想と憧れという名のスパイス
ケーキ美味しかったな。
じゃなくて。
ジェムロイドの変身の話だ。
ヴェルデもジェムロイドも。
金属や鉱石ばかりの星から来たって言うが。
それが七年前のドラゴンとかの変身に。
どうつながっているんだ。
「お話を続けてもよろしいでしょうか」
「はい」
空になったケーキーのプレートとコーヒーカップを前にして。
オレはヴェルデの問いかけに首を縦に振った。
群青竹さんのケーキがうますぎて。
今も余韻が残っているが。
待っていてくれたヴェルデのためにも。
ちゃんと話を聞かないと。
「ジェムロイドは単体でも擬態する性質があり、それを応用して宇宙船にしているのです」
「そう聞くと人間が猟犬や馬を狩や移動のために調教しているのと変わらないな」
「その言い方は彼らに失礼ですね。我々とジェムロイドはパートナー関係なのですから」
「すいません。失言をしてしまい」
「お構いなく。知的生命体の発する思考を読み取ること自体が彼らの食事であり、我々の星の人々は彼らにそれを与え共に暮らしている関係性なのです」
「はは、それ聞くとなんか増々すげえや」
「ちなみにこれは人間の持つ創造力や空想力と言いましょうか、絵画や音楽などクリエイティブな活動の際に出る思考に類似しています」
「……正直、現実にそんな生き物がいるなんて、やはり信じ難いです」
不思議とか未知って。
こんなにも自分の日常から。
奇妙なくらいに離れていて。
基本は誰にも知られず存在していると思うと。
実体があって可視化できている分。
ジェムロイドはオレにとって間違いなく。
七年前の思い出の証拠だ。
だからこそ、まだ聞きたい。
ヴェルデやジェムロイドを、彼らを。
独り善がりだとしても。
あの七年前の思い出を補完するためだとしても。
オレは彼らを知りたい。
「ヴェルデさん、あなたの星について教えてくれてもいいですか」
「構いませんよ」
特段なにか不都合があるわけでなく。
これまで通りの無機質な調子で。
ヴェルデは自身に関する事柄をまたオレに解説してくれた。
「ワタシの星、地球風の言葉で言えばスチライト星という金属と鉱石ばかりの星で、ワタシ達スチライト星人と言いましょうか、我々はジェムロイドと共存しています」
本当に映画みたいな話だ。
多分、というか確実に。
オレが生きている間に。
訪れる機会はないだろうから。
この際質問でもしてみるか。
「ちなみに他に生き物はいますか、その、スチライト星には」
「いいえ。スチライト星人とジェムロイドだけです。また、組織の力を借りてあなた達地球人と同じ見た目をしていますが、今のワタシの姿は仮初で本来は別です」
「へえ」
ずっと、ずっと。
七年前に、ヴェルデに関して。
記憶に残っている瞬間があった。
最後の最後で。
あの家でオレが意識を失う時に。
緑色の金属質なのっぺら坊が。
目の前にいたのを。
もしかして、あれが。
彼女の本来の姿なのか。
疑問を考えていたら。
無駄話はここまで、と。
言わんばかりに。
トントンと。
なんの装飾もされていない人差し指で。
真顔でヴェルデはテーブルを軽く叩いた。
「大事なのはここからですがついていけていますか」
「すいません。話にはついていけていますから安心してください」
「ふうん。それでは続けますが、ジェムロイドとはワタシ達スチライト星人はお互いの念波によって意思疎通をしています」
「それじゃ、ジェムロイドが考えていることも分かっちゃいませんか」
「ええ、もちろん。ワタシ達の思考もむこうは丸わかりです」
なんか。
それはそれで。
心が見透かされているようで。
自分の考えを読まれているから。
怖いな。
それに嫌な懸念もある。
「他の人のジェムロイドを通してヴェルデさんの考え事とか他人に筒抜けになりませんか?」
「そのためにこれがあるんですよ」
ヴェルデは再びオレに自分のスマホを。
ズボンのポケットから取り出して。
端末にアクセサリーみたいに付けている。
小さくなった緑色のスティックを見せつけてきた。
「これはその念波を調整させて外部に思考が漏れないようにするための物でもあります」
「ええと。オレらの星でいうプライバシーやセキュリティのための、お守り、の機能もあると」
「はい。その認識で間違いありません。この道具とスチライト星の環境ありきでジェムロイドは生きています」
「つまり、他の星に行ったら……ああ、そのための寄生か」
「なんだ。憶えてくれていましたか」
「確か植物や知能が低い動物に複数にばらけさせて寄生させて暴走のリスクを減らしている、でしたよね」
「よく憶えていましたね。ジェムロイドは単体でも擬態能力を有していますがそれには他の知的生命体の思考や思念が必要になります」
「だいぶ話が見えてきた。あの夜アズゥからもらったジェムロイドはオレの思考を念波で読み取ってドラゴンに変身したっていうのか」
ペガサスに乗せてもらった時に。
どうせだったら。
ドラゴンに乗って飛びたかったな。
とか。
同じ四足のモンスターなら。
ケルベロスの方がカッコいいな。
なんて思っていたけど。
そういうことだったのか。
ただ、当時のオレはそんな子供じみた。
いわば小学生のような妄想なんて。
考えていなかったぞ。
「普通はジェムロイドは近くの知的生命体の表面的な思考しか読み取りませんが、七年前のあの欠片は特殊です」
「元々はアズゥの左手だったもんな」
「後々組織で調べたのですが、あの個体はどうもこの星の人間の意識の奥を読み取るようでした」
「七年前のオレは心の奥でドラゴンやケルベロスに会うのに憧れていたってのか」
「と、なりますね」
「あんだけ性悪で嫌な中学生だったのに」
小遣い稼ぎ、金が一番。
小学生からも指ささるれくらいに。
煙たくて、嫌な奴で。
なのに。
心の底じゃ。
漫画やゲームでしか会えない存在に。
ずっと会えるのを望んていたなんて。
「きっとアズゥの左手に寄生していたのが影響して、同じ地球に生まれたオレの心の奥底を――」
「ジェムロイドが読み取ったんでしょうね」
「まだまだ子供だな」
七年前の自分に言うのもなんだが。
本当にそれに尽きるな。
ずる賢いことばかり考えていたのに。
忘れているだけで、心の底では。
子供の頃の夢をずっと見ていたなんて。
空のままの皿のプレートとコーヒーカップを前にして。
七年前の自分に思いを馳せて。
オレはただ黙って俯いていた。
ちょっと目の前が潤っているな。
なんか目の周りが濡れていて熱いな。
ヴェルデがなにも声をかけてくれないのが。
ありがたいな。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
活動報告でも触れた次の投稿作の件ですが。
大学の部活動に関するものにでもしようかなと考えています。
では、次回更新は7/3の17:00の予定です。




