エピローグ:14 無機質な緑との邂逅
群青竹さんもまたヴェルデに会っていたなんて。
しかも、アズゥやオレの知らない所で色々と取り決めをしたりと。
仕方ないとはいえ。
この点に関しては当時も現在もオレは群青竹さんに対して。
なに一つ言えない。
『突然ですがこれを見てもらえませんか』
「緑一色の格好をした、ロボットみたいな感情のない喋り方で、ヴェルデは私のペースなぞ無視して自分のスマホをこちらに見せつけてきた」
アパートの前でヴェルデに待ち伏せされていたって。
考えてみても。
怖すぎる。
ヴェルデが待っていること自体もだが。
彼女の所属する組織が。
にしても、スマホには何が映っていたんだろう。
「ヴェルデのスマホにはフリマアプリの、確か『トレードイン』だったかな、その出品物の画面が映し出されていたんだ」
『暗い所で青くキレイに光ります。あと、ドラゴンに変身します。出品者はゲームのやりすぎかな』
「ってなコメントがついた石ころがヴェルデのスマホに映っていたんだ」
「うっ」
すごく、恥ずかしい。
なんとも言えない羞恥心が。
湧き上がってきて、オレは。
体をプルプルと情けなく震えだした。
「すいません。謝らなくていいかも知れませんけど、なんかすいません」
「キミが出品したのはもう過ぎたことだし、不必要にそんな謝らなくていいよ」
「なんか、こう、自己満でも謝らないと気が済まないというか、なんというか」
「自分でもよく分かっていない感情を無理に言葉にしない方がいいよ。疲れるだけだから」
「ありがとうございます、そう言われるとなんだか安心してきました」
「よかった。じゃあ、話を続けるよ」
軽く伸びをしてから。
群青竹さんは上を向いて。
ヴェルデの来訪について語り出した。
『あなたの所有する物件で過去に起きたことやあなたのお知り合いの正体について知っています。よければ少しお話ししませんか』
「そう言ってくるヴェルデは無言の圧力をかけてアパートの私の自室まで押し入ってきた。そこで色々と教えてくれたが、内容はしっかり記憶したのだが、あまりに荒唐無稽で聞いているだけで疲れていったよ」
群青竹さんが教えてもらった内容はというと。
最初にヴェルデ自身について。
次にジェムロイドについて。
三番目にアズゥについて。
最後は今後について。
つまりはヴェルデがアズゥを処理する件についてだ。
『ワタシが所属する組織の高性能AIがこの近辺をさ迷っていた彼女を捕捉してくれたのでわざわざここまで足を運びに来たんですよ』
「アズゥは大切な家族だが、アズゥ自身はもう生きるのに疲れ切っていた。だから、邪悪な人間たちに捕まってしまうよりも彼女に引導を渡してあげるのが救いだと判断したんだ」
「アズゥのいない所で決めたんですか、アズゥの運命を」
失言だったかも知れない。
ただ、群青竹さんは。
厳かに答えた。
「久しぶりに会ったアズゥと話してみて思ったんだ。彼女は正吾と同じ場所に行きたがっている、とね」
「アズゥを……楽にさせてあげたかったんですね」
オレが踏み込んでいい領域じゃない。
群青竹さんとアズゥと。
そして、正吾さんの、三人の関係性だ。
優しさとしてはズレているかもしれない。
だが、群青竹さんなりの優しさとして。
独りよがりだとしても。
アズゥの想いをこの人は汲み取ってあげたんだ。
自分の無力さを。
群青竹さんは過去の出来事で痛感しているから、尚更だ。
本当に失礼極まりない考えしかしていないな、オレ。
こんな考えが一通りまとまるまでの間。
ずっと無言だった群青竹さんが。
溜めに溜めて、ようやく口を開いてれた。
「――そうだ。アズゥの最期を見届けたキミなら分かるだろう」
「それは……」
ヴェルデを死神さんと呼んで。
痛みに耐えながら。
引導を渡しに来たヴェルデにも。
友達のオレにも。
感謝していたアズゥの最期を思い出したら。
本人がいないところで。
ヴェルデとその件で取り決めをしていた群青竹さんを。
否定なんてオレにはできやしない。
「多分、アズゥもああなることを、望んでいたと思います」
「だったら、私たちは彼女の意思を尊重するだけだ」
「はい。ところで一ついいですか」
「なんだい」
アズゥの最期が本人の知らないところで。
やり取りされたのはもう割り切れた。
ただ、不可解な点が話をしていて気付いた。
「どうして群青竹さんがアズゥの最期にオレが立ち会っていたと知っているんですか」
「全部終わった後にもう一度私のもとへヴェルデが来たんだ」
「ええ」
「隠すつもりはなかったんけど、ヴェルデとは七年前に二回会っているんだ。」
「そうだったんだ」
「さて、どうしてヴェルデとの出会いが私があの家を取り壊す決心につながるか、もう気づいたかな」
「それは……あの家がもう、必要性がないというか。現在は公園にもなっているし」
なんとなく。
感じて察せはするんだが。
うまく言語化できない。
かなり失礼な。
デリケートな部分を言葉にしなきゃいけない気がして。
言葉に詰まるオレを見て。
優しく群青竹さんは答えを教えてくれた。
「その様子だと分かってはいるみたいだね。そう、アズゥがこの世から旅立っていくからさ」
「ごめんなさい。うまく言葉にできなくて」
「気にしなくていい。私は彼女のためにあの家を残す必要がないと割り切れるようになったんだ」
「群青竹さん」
やるせなさそうに群青竹さんは。
壁に架けてあったクッキー缶の蓋を撫でてから。
その後にオレへと向き直った。
「話題を変えようか。アズゥがいなくなる前にキミの前評判を聞いたが、七年経ってみてキミ本人から改めて聞いておきたい」
「ちなみに七年前の情報源は先ほど話に出てきた友人の息子さんからですよね」
「うん。キミは当時パケモンカードなんかを売ったりしているなんて噂があったけど今もしているのかい?」
「まさか。とっくに卒業していますよ」
「ほう、理由を教えてくれるかい」
理由か。
そう尋ねられたら答えはこれしかない。
「アズゥとの出会いで思い出を売るような真似をもうしたくないって強く思ったんです」
「ふむふむ」
「だから、その延長で七年前の時点でそういった手段の小遣い稼ぎはやめました」
セコイ真似ばかりしても。
思い出は残らない。
それが七年前の出来事を通して辿り着いたオレの考えの一つだ。
群青竹さんは穏やかにオレの答えを。
自分なりに解釈して伝えてくれた。
「アズゥとの出会いがキミの人生を良い方向に指し示したみたいだな」
「オレ自身そう思います」
「ふふ、面白い子だ。そうだ、二回目のヴェルデの来訪はほぼ事後報告ぐらいだったよ。他はもうさっき話をした通りかな」
「二回目の邂逅の際にオレに打ち明かす際の取り決めをしたんですね」
「まあね。てことで、私からの話は以上かな。長くなってごめんね」
三十年以上前の悲劇と七年前の出来事の裏側。
両方を話し終えて。
責務から解き放たれたように。
群青竹さんは大きく背伸びをした。
あまりに衝撃的な内容ばかりだったが。
それでもオレは聞いて良かったと思う。
ずっとずっと胸の内に秘めたままだった群青竹さんの為にも。
だから、お礼をちゃんと言葉にしなくちゃ。
「とんでもない。こちらこそお話ありがとうございます」
「いやいや、それよりもトイレ大丈夫。コーヒー結構飲んでるし」
「そう言われたら、恥ずかしながら。トイレはどこですか」
「トイレならあっちの奥、標識があるからすぐに分かると思うよ」
「ありがとうございます」
群青竹さんの指さす方へ向かい。
男子トイレに行き、オレはそこで用を済ませると。
手を洗ってから洗面台で顔まで洗った。
群青竹さん本人も言っていたが。
あの人が語った過去と事実は長く辛い部分もあった。
中学生で。
友達のいないオレにとっては。
知る由もない。
事実ばかりで。
困惑もしたけど。
よりアズゥについて。
今はもういない友達の気持ちを。
詳しく知れて。
とても有意義だったのは確かだ。
だからこそ、今日ここでの用件はもう済んだも同じ。
帰ろう。
お代も先払いしているし。
トイレから出たら。
群青竹さんに一言告げて店を後にしよう。
そう思いながらトイレから出てきたときだ。
チリン、チリン。
「もしや、あなたは来人さん。七年ぶりかな。いやあ、お久しぶりですね」
「ヴェルデ」
店に入って来たのはヴェルデだった。
緑一色なのは変わらずだが。
服装は動きやすい黄緑のシャツに。
濃ゆい緑のズボンで。
なにより雰囲気が随分と明るくなっていた。
七年前はこんなんじゃなかった、よな。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
外がジメジメしているからといって。
今度は冷房を効かせすぎると風邪の恐れがあるので。
読者の皆様の健康面でなにもなければと願うばかりです。
次回更新も連投で6/30の17:00の予定です。




