エピローグ:13 事件性
役場の人達にあの家に凶悪犯が潜伏しているかもしれない。
その噂の出所は群青竹さんだった。
アズゥが出ていく秋まで。
あの家に調査の手がなどのびないようにするための。
時間稼ぎのために。
『あの家に凶悪犯がいたかもしれないって』
「先に職場に遅刻の旨を報告して、朝早く開いてすぐの役場に向かった」
「ちょっと待ってください、さっきはアズゥの逃げ場所としてあの家をそのままにしておこうって言ったじゃないですか」
「あのクレーターを見たり、アズゥと話をして気が変わったんだ。ついでに言うとだ、これから説明するがヴェルデとの出会いも大きな理由になる」
「……怪物などの犠牲者をださないためですよね」
慎重に言葉を選んだけど。
どうだろうか。
群青竹さんは真顔で。
静かにうなずくだけだった。
「――そうだ」
本来ならアズゥを守るはずだったのに。
追い出すような行動に出るなんて。
チグハグな気もするが。
でも、常識的に考えて。
群青竹さんの行動は正しいだろう。
犠牲が出るのを防ぐ意味でも。
「それにこれは先手を打つようなもんだ」
「先手?」
「凶悪犯がいたかもしれない。だが、家の中には何もなかった。もう少し自分だけで調べてみたいと役場の人に予め伝えておいた。行政の人間が立ち入るまでの時間稼ぎのためにね」
「なんというか、強引ですね。警察の人も立ち入ろうとしたんじゃないのですか」
「まあ、そこも後で話そう。あと、友人にはちゃんと後日怒られたよ。名前は出さずに近所に住む友人からクレーターの件で連絡があったって言っただけでも誰か特定されたんだ」
「さっきの水道屋さんの人ですね」
「そうだ。ただ、怒られた日にね、そいつの末っ子が当時キミの妹さんを好きだったらしくて、そこでキミの前評判を聞けたのはデカかったな」
「なんか、世間って狭いですね」
「まあそう言わずに」
あの時の。
野球部の中にいた奴が。
オレの知らない所で。
地味に重要なこと喋っていたのかよ。
眉を顰めるオレをなだめながら。
落ち着いた調子で群青竹さんは。
更に補足してくれた。
「話を戻すが、一旦役場と警察の人間にはあの家の立ち入りを秋ごろにしてもらった。要はアズゥが出て行くタイミングまで先伸ばしたんだ」
「でも、その間でも子供たちが出入りする分には……まさか」
「勘がいいねキミは。凶悪犯の潜伏の噂を流しつつも私は子供が出入りする分だけは大目に見続けた」
「オレがアズゥと会えるように。まさか、夜だけ玄関の扉を開けてもいい、とか合鍵を渡すタイミングで約束しませんでしたか」
「もちろん。それにあそこは地元の大人からすれば近寄りたくないからね」
「……過去に起きた事件が要因ですよね。だから、地元の警察の人も立ち入りに躊躇したのか」
もう何度目か数えていないが。
だいぶ言葉を選んだ、つもりだけど。
どうだろうか。
群青竹さんの顔つきは。
さっきよりもほんの少し険しくなっていた。
「ああ。地元の大人達からしたら正吾の件で不気味がって話題にも出したくないほどだったからな。全く何も知らないくせに」
悪態をつく群青竹さんは。
どこか物悲しそうだった。
でも、それはほんの一時で。
咳払いをすると。
すぐに自分のペースを立て直して説明を再開してくれた。
「不可解な事件が起きた場所でそこに犯罪者が潜り込んでいたかもしれない。あくまで可能性としての話だ。所有者である私が言い聞かせたんだ。役場の人も余計に慎重になって時間も稼げるって寸法さ」
「強引ですが確かに夏の間は無事でしたもんね」
秋になって実際に立ち入りがされたかどうかは。
オレはなにも聞いてないから知る由もないが。
来年の春に取り壊されたのを考慮すれば。
流れとしては秋にあの家に調査の手が入って。
その後に持ち主である群青竹さんが。
取り壊しを役場の人たちと一緒に承諾した。
こう考えれば辻褄もあう。
自分なりに推理していると。
群青竹さんは頭を抱えながら。
己の胸の内を明かし始めた。
「言っていて悲しくなるが、地元の大人たちは『あんな得体の知れない場所』とか陰口叩いて近寄りたくなかったんだ。そのおかげで時間だけは充分に稼げたのが返って悔しくてたまらないんだよ」
ため息をつくと。
群青竹さんはエプロンの下のシャツのポケットから。
タバコを取り出して一服しかけたが。
オレの顔を見るとやめて。
それを元の場所にしまい込んだ。
「すまない。キミがいるってのに」
「気にしませんから。一服いいですよ」
「じゃあ一本だけ」
申し訳なく笑いながら群青竹さんは。
気分転換にタバコで一服した。
オレはタバコ吸わないから。
どこのメーカーとも分からないし。
どんな味なのか。
美味しいのかも分からない。
けど、大人がタバコを吸うのを邪魔するのは。
野暮だなって。
今の群青竹さんを眺めていたら。
よく分かった。
来年から新社会人だってのに。
オレなんかまだまだ子供だな。
「ごめんね。いろいろ話していたらどうしても吸いたくなってきて」
「構いませんよ」
立ち上っていた煙を。
不快には感じなかったし。
これで群青竹さんが話しやすくなれれば。
我慢するまでもない。
なんて、変に気を遣いすぎか。
そうだ。
やっぱりオレも午前中にあそこを訪れたことを伝えておこう。
「ああ、そうだ。自分も騒動が起きた次の日の朝にあの家まで行ったんですが、玄関には鍵もかかっていたし、ドラゴンが衝突してできたクレーターもそのままでしたね」
「なんと、私が去ってすぐにキミもあそこに訪れていたのか」
「昼前でしたから群青竹さんが来てからけっこう時間経った後かも」
「それでも、すれ違いとはあるもんだな」
「すれ違いってほどでは……そうだ、役場の人たちはその日クレーターを見に行ったんですか」
「あ、ああ。役場の人間があれを見たのは地面も乾いたお昼の十二時過ぎくらいかな。私も職場で昼休み中に電話でそれを聞いたよ」
「大変な一日でしたね」
「いや、本当にキツかったのはこの後だ。夜、仕事帰りでくたびれた私を緑一色の彼女はアパートの入り口前で待ち伏せていた」
『群青竹正さんですね。ワタシはヴェルデ。この騒動の関係者、といったところでしょうか』
予め出て来るのは分かっていたのに。
急に話の中に現れたヴェルデの名乗りにゾッとした。
なんとなくだが。
七年前の出来事の裏側も。
いよいよ終わりが近づいているんだろうなぁと。
二人の出会いに思わずにはいられなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
回想からの回想で更に長くなってしまい。
活動報告に完結の延期を書こうか悩んでいる今日この頃です。
次回の更新は今日二度目の連投で本日6/29の21:00の予定です。




