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エピローグ:7 空白になる前の家:後編

急かしたわけじゃない。

ただ、正吾さんについて聞きたかっただけ。

オレ自身気を遣っていたのもいけないが。

邪推と言ってもいい考察しかしていないが。

群青竹さんはなにかを避けながら話している気がしていた。

だから、失礼を承知で。

避けている、触れようとしない話題を。

現在の正吾さんについて聞かないと。

それがきっと核心のはずだから。

初めてアズゥと会った日の帰りは。


土砂降りの雨に打たれて帰ったっけ。


まあ、そのおかげで追って来たドラゴンから助かったけど。


正吾さん。


オレより先にアズゥと友達だったかもしれない人。


キレイな夏の夜に出会ったらしいけど。


羨ましいな。


ホント。


オレの時は散々だったのに。


なんて嫉妬じみた考えも少しあったが。


群青竹さんの話を聞いていたら。


もうそんな女々しさなんてない。


マグカップのコーヒーを飲んだ群青竹さんは。


一服つき終えて。


オレのために。


ご自身のためにも過去を再び明かし始めた。


「話が前後するが、私がアズゥの石の肌を初めて知ったのは出会ってすぐだ。ボロボロの彼女を介抱しようとした際だ」


「正吾さんがアズゥを見つけた時ですよね」


「ああ。最初は驚いたよ、首から下が全部青い石だったからね」


「……怖くなかったんですか」


オレが目にしたのは。


アズゥの腕や変異した背中から出てきた翼みたいな部位だ。


でも、群青竹さんは彼女の全身を見たんだろう。


この人は。


またオレと違った感想だろうと。


アズゥに不気味さも抱いていたんだろうと懸念していたが。


返ってきたのは真逆の言葉だった。


「びっくりしたけど、不気味さや怖くはなかったよ」


「なぜ」


「正吾がね、漫画やアニメに出てくるような人は現実にいたんだって目を輝せてはしゃいでいてね。こっちとしては戸惑いっぱなしだってのに」


「息子さんに、アズゥは、救われたんですね」


「――だろうね」


その時の状況的には不謹慎なんだろうけど。


当時を振り返って。


語ってくれている群青竹さんは。


嬉しそうに笑っていた。


「怪我人みたいなもんだからね。一旦アズゥを家の中に招き入れて正解だったよ」


「他の人に見られたらマズいですよね。そこからアズゥをかくまったんですよね」


匿った。


なんて耳障りは悪いが。


アズゥがあの家にいる状態を表すには。


ぴったりだろう。


率直過ぎる物言いだったけども。


オレの意見に群青竹さんは頷いてくれた。


「ああ。正吾は興味津々に彼女にあれこれ聞いていたよ。あの地下室でね」


「太陽の光に当たると石化したり月の光を浴びれば怪物に変化するなんて大変の一言じゃ済ませられません、よね」


「太陽か。正吾は一度だけアズゥを昼の世界に連れ出して彼女の意識を朦朧もうろうとさせたりした時もあったな」


「連れ出したんですか昼間に」


「ああ。かなり無理を言ってね。コートや長袖の服で何重に体を覆ったにも関わらず」


「そこまでやっても影響が出たんですね」


「本当に夜しか動けないような感じだったよ、アズゥは」


「もう人並みに生きれないって本人も悲しんでいた記憶があります」


実質的な不老不死を狙われたり。


昼間太陽の下で歩けなかったりで。


誰かから自分の身を脅かされ。


陽の光を浴びれず。


月の光さえも浴びれない。


あまりにもアズゥの人生は不自由すぎる。


彼女の最後を。


沢山の青い宝石に変わってしまったアズゥを


目にしたからこそ。


思い出してしまう。


七年前。


わたしを忘れないでほしい。


オレは切実にアズゥからお願いされた。


あの時を。


一生忘れないであろう。


取引というよりも約束を。


「泣きそうな顔しているけど大丈夫かい。錆山くん」


「大丈夫です。それよりもアズゥの話もっと聞かせてください」


「わかった。ただ、感情を我慢する必要はないからね」


「お気遣いありがとうございます」


涙がもうこぼれているかもしれない。


でも、笑って群青竹さんに応えなきゃ。


ここで話が止まったら。


飾られていたクッキーの缶と青い石について。


いつまでも辿り着かない。


ああ。


群青竹さん。


さっきよりも優しく微笑まないでください。


まるでお孫さんを見るみたいに。


自分が無理しているのバレバレだって。


あなた越しにオレ気付きますよ。


「地下室について話そうか」


「はい」


涙声じゃない、よな。


ちゃんと返事もできたし。


群青竹さんの話聞かなきゃ。


「元々あの地下室はあの家にあったものだ。今で言うところのホームシアターとかのためにね」


「家で映画を見るための空間だったんですね。じゃあ、あのビリヤード台は?」


「正吾とアズゥのためのものさ」


「二人のためのもの」


「クドくなるがアズゥとは屋外での娯楽を共有するのが困難だった。そこであの地下室を正吾と彼女の遊び場にした」


「なら、あのビリヤード台は正吾さんの宝物みたいなものだったんですね」


「うん。本人も大切にしていたな。ただ、アズゥはよく台の上に座ってたけど」


「七年前、仕方ないとはいえ間接的に壊してしまって、すいません」


「謝らなくていいよそこは。ヴェルデからも色々きいているし、誰の責任でもないよ」


本当に群青竹さんはいい人だ。


だからこそ、怖いけど聞かなくちゃ。


正吾さんは今どうしているのか。


不自然なくらい現在の正吾さんについては。


まだなんの話題も挙がっていない。


つまりは……。


「話の途中にすいません。とても失礼な質問を一ついいですか」


「なんだね」


ほんの少し群青竹さんが真顔になった。


やはり。


オレが話の違和感を察したのに気づいたか。


でも、聞くならこのタイミングしかない。


「正吾さん、今は何をなさっているんですか」


「……次からは言葉を選んで欲しいって頼んだのに、まあ、いいや」


「すいません」


「謝らなくてもいいよ。説明とはいえだいぶ周りクドかったね」


「いいえ、その」


「取りつくろわなくていい。薄々察しているようだが、もう正吾はこの世にはいない。暴走したアズゥから受けた傷が原因でね」


朗らかさはなく。


淡々と群青竹さんは理由を語り出した。


感情を我慢しなくていいって言ってくれたのに。


とにかく核心を教えてほしい。


あなたにそれを強要させてしまって。


ごめんなさい。


謝りたいけれども。


できない。


せっかくオレのために気遣ってくれた一言を。


揚げ足とるみたいに。


無駄にした挙句。


最も群青竹さんが避けたいであろう事実を。


言わせてしまって。


失礼極まりないよ、オレ。


ただ、俯いたりはしない。


顔を上げて真っ直ぐに。


群青竹さんと目を合わせる。


この人は厳しくも真摯しんしにオレを見ている。


「どうしてそうなったか知りたいんだろう」


「はい」


弱気じゃダメだ。


しっかりとオレは返事をした。


これに応えて。


優しさや甘さといったものは一切なく。


真剣な面持ちで群青竹さんはオレの問いかけに答えてくれた。


「正吾はダーツやビリヤードといった遊びを好んだ」


「外に出なくてもアズゥと一緒に遊べるからですよね」


「その通りだ。だから、学校から帰って宿題を終わらせるといつもアズゥと競っていた」


微笑ましいな。


あまつさえ。


暴走していたとはいえ。


アズゥを鎮めるために。


荒らしてしまったあの場所には。


正吾さんにとってかけがえのない思い出があったなんて。


オレが。


一度も会ってすらいない。


他人の思い出に浸ろうとするなんて。


と、奇妙なノスタルジーにかられかけたときだ。


「あの日、ビリヤードで遊んでいた正吾とアズゥのもとに離婚した妻が現れるまではね」


群青竹さんのその言葉にオレはゾっとした。


一方で群青竹さんは。


マグカップの中にあったコーヒーをちょっとずつ飲んでいた。


ご自身が淹れたものを味わってから。


群青竹さんはしばらくうな垂れていた。


五分程度かな。


それから群青竹さんは。


もう一度オレと向き合ってくれた。


目の前の人がうな垂れている間オレは。


これまた失礼ながら。


邪推をしていた。


アズゥの特殊性以外にも色々な理由があって。


あの地下室を。


正吾さんとアズゥの遊び場にするしかなかったんじゃないかと。


それほどまでに正吾さんにとっても。


群青竹さんにとっても。


アズゥは。


出ていった家族の存在を埋める役割をしていたんじゃないかって。


本当に邪推にしかすぎないが。


群青竹さんが正吾さん自体の話題について。


途中から意図的に避けようとしていたとしたら……。


止めよう、こんな考えをするのは。


本人を前にして無礼すぎる。


うん。


素直に話を聞くほうが大事だ。


オレも優しさをこの人に見せないと。


例え独り善がりだとしても。


「群青竹さん、話すのはご自身のペースで構いませんよ」


「すまない。ちょっと気持ちを整理したくて黙ってしまって」


「大丈夫です。もっと待っていてもいいくらいですから」


「生意気な。でも、嫌いじゃないぞ、そういうの」


「恐縮です」


素直に話を聞こう。


内容がどんなに残酷でも。


オレ以上に辛い想いをしているのは。


群青竹さんなんだから。


オレのために淹れてくれたコーヒーは。


もう冷めきっていて。


香ばしさも無くなっていたが。


むしろこれからの群青竹さんの話に集中するには。


ちょうど良いくらいだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

だいぶ長くなりましたが次で終編になります。

暗く重い展開ばかりですが。

読者の皆様がこのパートを読んで追っていただけるだけでも、

作者の私としては嬉しい限りです。

次回の更新は6/11の17:00予定です。

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