エピローグ:4 前置き
マスターの群青竹さんが淹れてくれた紅茶ラテはすごくおいしかったけど。
前置きを聞けば聞くほどに。
七年前の出来事も今日の群青竹さんとの出会いも。
仕組まれているんじゃないかって。
勘ぐってしまう。
なにもかも疑っているような心持ちで。
オレはあの家の過去について。
きちんと聞けるだろうか。
差し出された紅茶ラテはおいしかった。
下手くそながら。
自分の心の中で食レポするとこうだ。
まず、芳醇さといっても。
ミルクに合う。
しっかりしていて。
ストレートで飲んだら。
また味わいが違うんだろうな。
群青竹さんはこれを飲みながら話を聞いて欲しいって。
言っていたけど。
気分を落ち着かせるのと。
紅茶ラテのおいしさもあって。
事実を群青竹さんに告げられてから。
ほんの少しの間で。
グラスの中身を全部飲み乾してしまった。
どうしよう。
別になにもなくても話をしてくれるとは思うけど。
なんて子供染みた心配をしていたら。
スっと群青竹さんは次の一杯をオレに差し出してくれた。
小さなカップには温かいコーヒーが淹れたてで。
ローストされた豆の香ばしい匂いが鼻をくすぐってくる。
ああ、いい匂いだ。
でも、差し出されたってことは。
お金を後でちゃんと払わないと。
「二つ目のサービスだよ。お代は勿論いらないからね」
心を読まれた、と。
思い込んでしまうくらいに。
群青竹さんは気が利くんだけど。
商売もあるだろうし。
流石にこれにはきっちりお金を出さなきゃ。
せっかくだけど。
この群青竹さんの気遣いはタダでは受け取れないな。
「いや、そんな流石に。これにはお金だしますから」
「じゃあ、こうしよう。そのコーヒーはまだ熱いから。私の話を聞いている内に冷めてしまったらお代はいらない」
「冷たいのを今飲みましたし、タダで熱々の一杯をもらうのも気が引けるというか、なんというか」
ええと何言っているんだろう、オレは。
とにかく。
今はどうしよう。
ああ、めっちゃ良い笑顔で群青竹さんが。
オレを見つめてくる。
断れるわけがない。
……うん。
やっぱり群青竹さんのご厚意を受け取ろう。
「ありがとうございます。大切に飲みます」
「ハハハ。まあそんなに堅くなりなさんな」
屈託なく群青竹さんが喜んでいるからこそ。
どうしてもこの人の裏を読んでしまう。
オレなりの雑な推測だが。
周りくどく言われたけど。
要はコーヒーが冷めるぐらい長い昔話を。
これからするから。
ちゃんと集中して聞いてもらいたい。
たぶん、きっとそうなんだろうな。
さっきは紅茶ラテを飲みながらでいいって言ってくれて。
おいしいラテを奢ってくれたけど。
オレがアズゥやヴェルデの件でビビったり不安になって。
この店から出ていくのを防ぐためだったかな。
いや、邪推しすぎか。
とにかく。
無理に差し出された熱々の一杯には口をつけずに。
真実を。
群青竹さんが過去を語ってくれるのを。
静かにオレは待った。
むこうもオレが心の準備に出来たことに気づいて。
仕事の手を止め。
カウンターの店員サイドにある椅子に座って。
一息ついてから群青竹さんは。
前置きを伝えてきた。
「七年前私のもとにヴェルデがやってきてキミについて色々話してくれたよ」
「あなたのもとにもヴェルデが」
「多分、口止めの件で心配しているんだろうけどそこは大丈夫だよ」
目を瞑って群青竹さんは微笑んだ。
こうなることを予め予期していたと言わんばかりに。
オレの不安をこの人は先回りして潰してくれた
なんというか。
群青竹さんには敵わないな。
「ヴェルデはこう言った。何事もなく最低でも五年経過して、もしキミと私が出会ったら――」
「出会ったら……」
お茶目にもったいぶってけるど。
変な怖さがある。
失礼のオンパレードだが。
この人自身にも得体の知れなさがあるから。
なんならこのカフェだって。
オレをおびき寄せるために建てたんじゃないかって。
考えるくらいに。
余計に七年前の出来事が。
目の前の群青竹さん含む。
色々な人の思惑で。
仕組まれていたような気がして。
少し不気味だった。
クーラーが効いているのに。
冷や汗をオレがかこうとする直前で。
群青竹さんは留めていた口を開いてくれた。
「両者間だけでアズゥ絡みについて話し合っていいって許可してくれたよ」
誰かに操られるとかじゃなさそうだよな。
多分。
洗脳とかされていたら。
オレにここまで親切してくれるか。
いや、逆も考えられるぞ。
親切なのはオレを油断させるためだとか。
ちょっと前までは。
悪意とか敵意とか感じないから。
安心って感じていたのに。
むしろ今は返って不安になってきた。
それこそ。
超常現象とかを隠蔽する組織も絡んでいるし。
こっちもさ、もったいぶっているわけじゃないけど。
オレもそんなこと聞かされたら。
間あけて本音が出るよ。
「今日の出会いもなんか仕組まれている気さえしてきました」
「だとしても、私は今日この出会いで色々と話せて楽になれそうだけどね」
「お言葉ですが、群青竹さんもアズゥやあの家に後ろめたい思いがあるのでしょうか」
「……その通りだ。ただ、次からは言葉をもう少し選んでくれると助かる」
「すいません、無礼で」
「構わんよ。これからその過去について話すんだ。さて、随分回りくどくなってしまったね」
「いいえ」
事前にヴェルデも許可していた。
お互い話せる準備も整った。
あとは話に耳を傾けるだけ。
とても長くなりそうで。
コーヒーは確実に冷めるだろうな。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
菖蒲の青から紫陽花の青へと移ろう時期になりましたね。
読者の皆様は雨に濡れる花々を見て何を思いますか。
さて、次回更新は6/8の17:00を予定しています。
可能ならまとめて連投したいエピソード群なのでご理解いただければありがたいです。
再び間をあけてしまい申し訳ございません。
それでは次回、エピローグ:5 空白になる前の家:前編にて、
読者の皆様との再会を楽しみにしております。




