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エピローグ3:群青の出迎え

※エピローグは青年になった来人の一人称視点で物語が進みます。

 予めご配慮いただければありがたいです。


アズゥにまた会えるかもしれない。

なんだか変な期待をして公園に来た自分が。

急に女々しく感じて嫌になりそうで。

気分も変えたかったから。

もう一つの目当てである。

公園の最寄りにあるカフェへと向かってみた。

オレを迎えてくれたその店のマスターは。

すごく強そうな感じの人だった。

バス停からすぐの横断歩道の前で。


汗を流しながらオレは信号待ちをしていた。


うん。


クーラーの効いた部屋で。


冷たい物が飲みたいな。


もう一つの目的地のカフェは。


公園から道路を挟んだ位置にある。


信号待ちは億劫おっくうだけど。


それでも。


振り返って公園を見ようなんて気にはならなかった。


もうあそこには。


思い残すことなんて何もなかったからだ。


だから、青信号になったら。


足早に横断歩道を渡った。


それに。


目当ての店は。


向こう岸に渡れば目と鼻の先だ。


汗を手で拭いながら。


オレは店の敷地内へと入っていった。


木造のオシャレなカフェだ。


店の中に入る前に看板でも見てみるか。


木製の看板には藍色で店名が書かれていたんだが。


『アズライト』


おいおい。


事前にネットで調べたとはいえ。


なんだか自分やアズゥをネタにされているみたいで。


変な気分だ。


オーナーやマスターとかの名前までは出てこなかったけど。


ヴェルデがやっている店じゃないよな。


駐車場には。


白い軽トラックが奥の方に一台停まっているだけ。


ここの店の人のものかな。


まあ、いいや。


暑いし早く店に入ろう。


チリン、チリン。


ドアを開けたらベルの音が出迎えてくれた。


風鈴の代わりと思えば涼しさもある。


もちろん出迎えてくれたのはベルだけじゃない。


木の香りがして窓から自然の緑や青が覗ける店内で。


朗らかなおじさんの声もオレを出迎えてくれた。


「いらっしゃい」


六十は過ぎてるだろうな。


一人、とてもガタイのいいおじさんが。


カウンターでコーヒーミルを使って豆を挽いていた。


失礼だけど。


おじさんは頭のてっぺんの髪が少し薄いけども。


それ以外の部分は白い髪がちょっと長く垂れていて。


健康的に小麦色に焼けた肌や。


太くて大きな両腕が。

 

白シャツと黒いジーンズに青いエプロンという格好と。


ミスマッチな気がして。


格闘技やスポーツの元プロなんじゃないかと。


オレは勘ぐってしまった。


ただ、きっとこの人が店のマスターなんだろうな。


入り口の前でオレが立ち止まっていると。


マスターと思しきおじさんは。


もう一回朗らかにオレへと声をかけてきてくれた。


「暑かったでしょ外。冷房も効いているし一休みしなさいな」


「ありがとうございます」


戸惑っていたら。


気ぃ遣われるよな。


マスターに勧められて。


オレは席を探した。


駐車場の様子を察して。


やはりと言うべきか。


店内には客はオレ以外にはおらず。


コーヒーの香ばしい香りや。


木製の椅子や机の手触りを。


独り占めできた。


今自分が座っている店のインテリアなんかも。


オーダーメイドなのかな。


なんて考えつつ。


カウンター席の一つにオレは座った。


「メニューです。どうぞ」


「ありがとうございます」


席に座ったオレにマスターは。


わざわざメニューを手渡してくれた。


少し手を伸ばせばとれる位置にもメニューはあるんだけど。


せっかくだし、ご厚意に甘えよう。


どれにしようか。


ネットだとオリジナルブレンドがおススメだったけど。


暑い今日だと別の物が飲みたい。


よし、決めた。


「すいません。紅茶ラテのアイスをいいですか」


「はい。かしこまりました」


豪快さがありつつも。


紳士さも併せ持ったマスターの態度が。


まるで漫画やゲームに出てくる強キャラみたいで。


これも失礼だけど。


マスターの動きを見るのが面白かった。


そうやってマスターの仕事ぶりを楽しみつつ。


オレは紅茶ラテが来るのを待っていた。


「お待たせしました。紅茶ラテでございます」


「ありがとうございます。じゃっ、いただきます」


ミルクとクリームの白が。


紅茶をクッキーみたいなブラウン系の。


お菓子みたいな色合いにしつつも。


グラスの中の氷が涼しさをかもし出していて。

 

冷たい甘い香りと相まって。


とても美味しそうだ。


早く飲もう、と。


オレがストローに口をつけようとしたときだった。


「失礼ですがお客様とわたくしは以前どこかでお会いしませんでしたか」


「いえ、自分はあなたに会うのは初めてですが」


「そうですか。変な質問をしてすいません」


「いえ、全然気にしてませんよ」


「申し訳ない。では、ごゆっくりと」


「はい」


なんだったんだろう。


こんなインパクトが強い人を。


忘れるわけがないのに、と。


妙な引っかかりを。


マスターからの質問で覚えてしまった。


でも、気にしてもしょうがない。


オレは紅茶ラテを飲んでくつろいだ。


味はミルクの濃厚さもあるが。


それに負けないくらいの紅茶の芳醇ほうじゅんさもあって。


この二つがアイスで楽しめるとくるもんだから。


一口目を飲んだ後には。


イイため息がでてしまった。


そうやって、ちょっとずつ紅茶ラテを味わいながら。


店の作業をするマスターや。


ここの内装にもオレは目をやった。


当然だがカウンターの向こうには。


食べものを盛りつける皿や飲み物を注ぐグラス類が。


たくさん棚に収納されていて。


他にもコーヒーに関する様々な道具も並んでいて。


壁の上の方には小さな絵画なんかもかけられていた。


誰のなんて作品なんだろうな。


何を描いたのかな。


なんて思いながらオレは更に視線を。


端へ端へと移していっていたら。


信じられない物を目の当たりにした。


ところどころへこんでいて。


くたびれた金属のクッキー缶のふたが。


アズゥが青い石を入れていた缶の蓋が。


表向きにして壁に架けられていたのだ。


なにか塗料とかで加工とかでもしたのか。


人が見ても不快に思われないように。


ちゃんと清潔にキレイにしてあるとはいえ。


あの凹み具合や金属のくたびれ具合は。


七年前アズゥがオレに渡したものと一緒だ。


「いかがされましたかな」


オレが缶の蓋に釘付けになっていると。


マスターが優しくこちらに呼びかけてきた。


「あの缶の蓋がお気になりましたか」


「ああ、いえ、その」


ダメだ、アズゥに関して何も言っちゃ。


ヴェルデとの取引がある。


ああ、しかし、どうしよう。


「ゴホンっ」


どうしたんだ、マスター。


わざとらしい咳払いなんかして。


「遅くなったが、自己紹介をしよう。私は群青竹正ぐんじょうだけただし


「群青竹さん……」


その名前にオレは聞き憶えがあった。


七年前、ヴェルデに気絶されられて。


目が覚めた後に朱理が言っていたような。


でも、深くは思い出せない。


空き家が空き家じゃなかったって。


上手く説明できないでいた朱理の姿ぐらいしか。


頭に思い浮かんでこない。


それになんであれ。


七年前のヴェルデとの最後の取引がある。


この人に、群青竹さんに。


アズゥに関してはなにも言っちゃいけない。


ダメだ。


どうしよう。


なんて返せば。


そうだ。


オレも自己紹介しておかないと。


「自分は錆山来人と申します。初めまして」


「……いいや。初めましてじゃないよ」


「えっ」


優しさはまだ残っているが。


どこかおごそかかな雰囲気で群青竹さんは。


落ち着いてオレへと語りかけてきた。


「七年ぶりだね。アズゥの件でキミを家まで送り届けて以来か」


「あなたがオレを」


ちょっとずつだが。


あの時の朱理の説明を思い出してきた。


例の空き家は実は群青竹さんという人のもので。


気絶したオレをその人が自宅まで運んで。


帰り際にクッキー缶を持って帰っていったっていうのを。


となると。


この人が、この店のマスターが群青竹さん。


なんというか、こんな偶然があるなんて。


でも、正直まだうまく頭の整理がつかない。


情けないけど、群青竹さん。


なにか、なにか。


スッキリできるような答えを教えてくれ。


「ヴェルデから口止めされたんだろう。知っているよ」


なんで。


この人がヴェルデについても知っているんだ。


答えが欲しいのに。


疑問が返ってきた気分だ。


もうわけが分からん。


どういうことなんだ。


「私相手ならアズゥについて喋っても構わないよ。むしろ、私がキミに色々と教えなければいけないくらいだからね」


「は、はあ」


よく分からんが。


一応セーフなのか。


なにがセーフかはオレでもまだ分からんが。


ただ、群青竹さんはオレに敵意や悪意とかがあるわけじゃなさそうだし。


でも、なにから喋れば……。


「とりあえず、その紅茶ラテは私のおごりだ。それを飲みながら私の昔話をゆっくり聞いてくれたまえ」


「あ、ありがとうございます」


入店した時と同じ朗らかな調子で。


群青竹さんはオレが落ち着くのを待ってくれた。


カラン、と。


グラスの中の氷が溶けて傾いたので。


ストローでラテを軽くかき混ぜてから。


群青竹さんの奢りの一杯を味わせてもらった。


冷たい甘さは。


パニくっていたオレを。


ちょっとずつ冷静にさせていった。

ここまでお読みいただいてありがとうございます。

読者の皆さんが好きなコーヒーや紅茶はなんですか。

ちなみに私はミルクティーが好きですかね。

次回更新は申し訳ございませんが間がある5/29の17:00を予定しております

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