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第54話 桜色の始まり

高校生活に胸躍らせ。

来人は学校の制服に袖を通す。

そして、家を出る前に自分の宝物に目を向けた。

大切な友達を想うために。

夏休みが終わり中学生活も半年しかない。


それでも残された時間を大事にしようと。


ささやかで。


独り善がりながらも。


人と人とのつながりを来人は大切にした。


そう決めた来人のスマホには。


フリマアプリの『トレードイン』はもうなかった。


これをきっかけにして来人は。


残された期間をよりよくしようと行動に出た。


具体的には。


積極的に掃除や授業の後片付け。


教師からの頼まれごとで資料などを運んだりと。


これまでの来人からは考えられない行動だ。


学校では目立たない存在だからこそ。


来人の変化は周囲からは好印象さよりも。


好奇な目で見られがちだった。


夏休み明けというタイミングもあり。


「あいつ何があったんだ」


「悪いことしているわけじゃないけど裏がありそう」


「なんかパケモンカードを大量に買ってたらしいけど怪しくない」


「言ってあと半年だし、無理して仲良くなる必要もないだろ」


クラスメイトとの交流はあまりなく。


結局のところ卒業までに。


同い年の友達は来人にはできなかった。


その代わりに学年は違うが。


一人だけ来人に大切なつながりができた。


「わたしは知っていますよ、来人さんのいいところ」


夏休みの大事な思い出は失っていたけれども。


とても大切なつながりだからこそ。


彼女と新しい思い出をつくろう、と。


これまでの想いは胸に秘めつつ。


これからの想いを瞳に宿して。


少年の中学生活は幕を閉じた。


そして……。


春の休みを挟んで。


来人の高校生活が幕を開ける。


入学式の日の慌ただしい朝。


自分の部屋の鏡台で来人は身だしなみを整えていた。


制服のブレザーに袖を通すと。


新しい始まりを来人は感じていた。


「これから慣らしていけばいいか」


もう一度自分の姿を確認すると来人は朝食をとりに向かった。


「おはよう兄ちゃん」


今日から始まる新しい自分の格好で来人は食卓に着く。


そこには先客がいた。


中学の制服姿で一足早くトーストを食べる朱理だ。


朱理は朝食をとりつつ高校の制服姿の兄を見る。


「今日から兄ちゃんも高校生か」


「まあな。これからどんなことが待っているか楽しみだぜ」


「兄ちゃん、逢ちゃんって彼女がいるのに浮気しちゃダメだよ」


寝惚ねぼけていたかと思いきや。


兄を相手に朱理は目をぎらつかせた。


「分かっているって。朱理、野暮なこと言うなよ」


「それもそうだね。なんか兄ちゃん去年の夏くらいから感じ変わったしね」


「色々あったからな」


苦笑いしつつ来人はテレビを点けた。


画面には取り壊される空き家が映し出されている。


「あの空き家昨日壊されたちゃったね」


「去年の秋から立ち入り禁止だったよな」


「私としてはもうどうでもいいけどね」


「あそこの宝物が欲しいって言ってたくせに」


「今となっちゃあれも陳腐にしか見えないよ」


怒りも文句もなかったが。


昨日、菓子箱の中に入った豆電球が。


半年以上前に必死になって手に入れたお宝の一つが。


自分が変わるきっかけの一つが。


ゴミ箱に捨ててあったのを見て。


やるせなさが来人の中から込み上げてきた。


「あれが原因で変な奴にも告られたしね。振ってやったけど」


「お前らしいな」


時計を見れば時間も迫ってきている。


朝食を来人は速やかに済ませた。


「お父さんとお母さんなら先に学校の方で待ってるって」


「分かった。朱理も遅刻するなよ」


通学鞄を取りに来人は自室へと急ぐ。


鞄を取る際に来人の目は大切な宝物プラネタリウムにとまった。


「アズゥ」


もう時間がないのは分かっているが。


それでも自分を変えてくれた友達アズゥを想い。


来人はプラネタリウムの電源を入れた。


これからの期待とあの夏の切なさで来人の目が潤う。


「ありがとうアズゥ」


一人呟き来人はプラネタリウムを点けたまま家を出た。


球体が映し出す星々は。


微かだが朝でも部屋の天井ちいさなそらで輝き。


来人の新たな始まりを祝福していた。


アズゥに代わって。

2017の来人の物語にお付き合いいただきありがとうございました。

次は2024の来人の物語でお会いしましょう。

活動報告にもありますがエピローグまで間がありますが、

どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

次回、エピローグ1:アオイキカンの投稿予定は5/17になります。

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