第51話 忘れられた来客
後は逢の家族を迎えるだけ。
掃除を終えた逢と朱理は外出しようとするが。
先に二人のもとを訪れたのはヴェルデだった。
午後八時過ぎ。
逢の自宅である一軒家では。
彼女と朱理が掃除を終え。
冷房で涼みながらリビングでくつろいでいた。
「ふう、なんとかキレイになったね、朱理ちゃん」
「これでいつでも逢ちゃんの家族を迎えられるね」
「家の近くに自販機あるし買いに行かない」
「ここ来る途中に見たアレか」
伸びをする朱理に逢は外出を提案する。
気分転換に冷たい飲み物でリフレッシュ。
夜に外に出るのは危ないながらも。
家の近くと聞けば不安よりも安心が勝つ。
朱理へと逢はもう一押しする。
「あそこなら歩いて三分くらいだし誰にも見つからないよ」
「だったら行こうか」
二人はリビングを後にし。
玄関の扉を開け。
さあ出発だ、と思っていた矢先だった。
「今晩は」
扉の先にはヴェルデが。
柄にもなくにこやかに笑顔で二人を迎えていた。
「ヴェルデさん」
「この人が先輩の友達かもしれないっていう」
驚く二人を他所に。
ヴェルデは鞄から手のひらサイズの道具を取り出した。
それは小学生が携行する防犯ブザーのようなものだった。
手のひら大で中央に赤いボタンがあり。
ボタンの上にはライトが下にはスピーカーがついた楕円形の装置だった。
この装置の赤いボタンを。
逢と朱理が気づく前に。
なんの躊躇もなくヴェルデは押した。
「ごめんなさい。これも仕事なもので」
ビーっ。
装置からは強烈なブザー音と共にフラッシュが発せられた。
「「うわっ」」
強いショックに逢と朱理は襲われるも。
一瞬の出来事。
数回瞬きをすれば。
すぐに何事もなくなった。
「あれ、朱理ちゃん何でここにいるんだっけ」
「たしか、あれ。逢ちゃん憶えている」
どうして自分達がここにいるのか。
二人は忘れてしまい。
お互い尋ね合うも。
答えは出ない。
奇妙な感覚に戸惑うくらいなら、と。
朱理は逢に一つ提案をした。
「今から外出るとか危ないし家の中でゆっくりしない」
「そうだね。あっ、朱理ちゃんのために紅茶淹れるよ」
「えっ、いいの。逢ちゃんの淹れる紅茶飲みたい飲みたい」
外出をやめて二人は台所へと向かっていた。
逢の自宅から少し離れた田舎道。
田園が広がるその歩道に。
ヴェルデはいた。
道行く彼女の先には。
歩いて数分程の距離にコンビニがあった。
黙々とヴェルデは歩く。
透明ではないのに。
道行く車や飛ぶ鳥に翔ぶ虫たちは。
ヴェルデを無視して先を急ぐ。
そのおかげか何の障害もなく。
七、八分ほどで。
目的地であるコンビニへと彼女は辿り着いた。
駐車場には何台か車が停まっていたが。
端にひっそりと停車していた白い乗用車に近寄ると。
彼女はその車の助手席を開け。
車内へと入っていった。
「おつかれヴェルデ」
「お疲れさまです。司令官」
運転席には黒髪の五十代ほどの屈強な男が座っていた。
ホルスターのついたジャケットにズボンと。
工事現場の作業員にも見える格好だ。
缶コーヒーを飲みながら。
ヴェルデから司令官と呼ばれた男は。
つまり彼女の上司は。
ヴェルデが乗車するのと同時に。
車のエンジンをかけた。
「それじゃあ行こうか」
「ええ、まずはあの家の持ち主に会いに行く必要がありますね」
ヴェルデが助手席に座りシートベルトを着用すると。
司令官の男は車を発進させコンビニを後にした。
遠く先まで見渡せる田舎の車道を走り出した。
車のライトのビームは。
ずっとずっと先まで照らしている。
司令官の男とヴェルデを乗せた車は進む。
超常の存在と現象を処理する二人は知らないが。
途中で逢の母親たちを乗せた車ともすれ違っている。
その頃にはもう時計の針も九時を大きく過ぎており。
逢の自宅に到着したのも十時を過ぎていた。
「ただいま、逢。それに朱理ちゃんも良く来てくれたね」
「おかえりなさいお母さんにカナタに慎太」
「姉ちゃんただいま」
「姉やんただいま」
旅行から帰って来た逢の母親と弟たちを。
逢と朱理はキレイに掃除した玄関で出迎えた。
姉だけならまだしも。
カナタと慎太は初対面の朱理に戸惑ってしまう。
「初めましてカナタくんに慎太くん」
「誰?姉ちゃんの友達」
「だれ?」
「お姉ちゃんの友達の朱理だよ、カナタくんに慎太くん」
挨拶もほどほどに。
朱理はこの家の住人と打ち解けて。
夜の十時過ぎにも関わらず賑やかした。
逢とカナタや慎太と一緒にゲームをしての夜更かし。
旅行から帰って来たばかりとは思えない。
子供達のわんぱくさに振り回されつつも。
楽しい一晩を朱理は過ごしたのだった。
その反動か朱理が翌日目を覚ましたのは。
昼の十二時だった。
「ねえ、朱理ちゃんお昼食べていかない?」
「いいんですか。じゃあ、いただきます」
逢の母親の厚意から。
ここで逢達と一緒に昼食をとった後に。
別れの挨拶をして朱理は帰宅した。
帰り道の少女の記憶には。
もうヴェルデの存在はない。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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皆さんが楽しく過ごせるのを願っております。
次回の更新は5/3の17:00を予定しております。




