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第48話 青い約束に誓って

ヴェルデと取引し来人はアズゥに最後の別れを告げに行く。

ありがとう、さようなら。

この二言のために。

ランタンに照らされた地下室で。


来人はアズゥと最後の別れの言葉を交わすために。


ギリギリまで彼女に近づいた。


いつもの活発さとは真逆で。


これから狩人に止めをさされる獣のように。


壁に抑えつけられたアズゥは弱り切っていた。


ヴェルデのサイコキネシス、念力により。


アズゥは体の自由を奪われているにも関わらず。


自分を仕留めようとする相手に呼びかける。


「私の、死神さんは、緑色か。変かも、しれないけど、お礼、言わせて。ありがとう」


か細くアズゥは声を発した。


ヴェルデは直接彼女に反応を示さず。


代わりに来人へアズゥとの別れを促す。


「来人さん、このままだと彼女を苦しませるだけです」


「はい」


崩れていくアズゥの体を目の当たりにすれば。


時間がないのは来人も分かっていた。


青い両翼や両腕は先端からゲル化し。


靴からも同じゲル状の物質があふれだし。


それら青い物質は床に滴り落ちれば。


たちまち石化し。


取引の発端となった青い鉱石へと化していた。


しかしながら、直にヴェルデがアズゥに触れていないせいなのか。


崩壊の進行は当初よりも。


止まっているように遅くなっており。


床に転がっている青い石も。


恐らくはヴェルデがアズゥに触れていた時に。


変化していた分だろう。


「なにか、言いたそうね、来人」


自身の体が崩れかけていく中で。


できるだけいつもと変わらない調子でアズゥは。


笑顔で来人に声をかけた


最後まで気を遣ってくれている彼女に。


これ以上無理をさせる訳にはいかない。


涙が流れるのはしょうがないにしても。


アズゥと同じように来人もまた。


できるだけいつも通り笑って。


自分の気持ちを言葉にした。


「ありがとう、さようなら。アズゥ」


もっと色々話したかったな。


最後の言葉をちゃんと伝えると。


来人はアズゥに軽く頭を下げた。


率直な少年の心の声に。


青い彼女は優しく微笑み返す。


「私、もよ、ら、い、と」


「ア、ズゥ」


少年の想いとは裏腹に。


彼女の微笑みに亀裂きれつが生じる。


再びアズゥの表情が苦しみに変わっていく。


この彼女の表情の移ろいには。


ヴェルデも動かざるを得なかった。


そばに置いていた自前の鞄から。


自身に貼っているものと同じシールを取り出し。


苦しみだすアズゥへとヴェルデはそれを貼りつけた。


「申し訳ございませんが来人さん。ここまでです」


手を伸ばして来人はアズゥに触れようとするも。


瞬時に体の自由をヴェルデの念力で奪われ。


少年は無力にも。


人形のようにその場に固定されてしまった。


「アズゥ……」


「あなたって本当に優し――」


アズゥの最後の言葉は途中までしか来人へと伝わらなかった。


騎士の一閃キャバリアストレートが付与されれば。


所有者のヴェルデか。


これと同じシールを貼った者同士でなければ。


姿も声も感触すら分からなくなってしまい。


透明にされてしまう。


さっきまでそこにいたのに。


アズゥの姿はなくなり。


彼女の苦痛の叫びさえ消えてしまう。


位置が分かっていても透過も付与されているため。


救いの手さえ届かない。


存在しなかった扱いにされてしまう。


「ここから先はワタシの任務になりますのでご了承ください」


半分ほど剥していたシールを完全に貼り直し。


再びヴェルデは透明になった。


見えざるターゲットに止めをさすために。


「ううう」


固定された来人は手を伸ばした姿勢のまま。


自身の情けなさもあって。


涙も嘆きも我慢できなかった。


「忘れないから、アズゥを忘れないから」


約束は必ず守るよ。


ヴェルデとの取引で金を失ってでも。


時間を手に入れた。


そのおかげで別れの挨拶ができたからこそ。


もうアズゥとの会話は。


無理だ、と。


涙ながらに来人は割り切った。


アズゥとヴェルデの二人が。


透明となってから間もなくして。


元々アズゥのいた場所から。


地下室の床に青い雫が滴り落ちてきた。


落ちた雫はいずれも石化し。


青い石となって部屋に転がっていった。


雫の量は次第に増えていき。


青い豪雨となって。


暗い地下の底で。


どしゃ降りとなった。


滴り落ち床についた雫は石化していき。


雨粒の数だけ青い石が部屋に転がっていく。


三十秒ほどで石の夕立ゆうだちは止んだが。


地下室には数え切れない量の青い石が広がっていた。


これが元々アズゥだった、と。


思えば思えば思うほどに。


来人は下に広がる多くの青い石を見て。


以前彼女と交わした約束に。


胸が締め付けられていた。


『お願いだから私を忘れないで』


純粋なアズゥの願いを受け止めるには。


今の自分はあまりにも弱すぎると。


身動きできないまま来人は後悔し続けていた。


「来人さん。よろしいでしょうか」


今や部屋の面積の半分ほどを。


小さな青い石が埋めつくしている中で。


ようやくヴェルデは姿を現した。


来人の要求を聞いた時と違い。


今回はシールを完全に剝がしている。


「ターゲットを処理しました。これより残骸の回収に移ります」


「っとっと、っててて」


固定化が解除され体に自由が戻るも。


またもや来人はバランスを崩し転びそうになってしまう。


しかし、そんな来人にヴェルデが素早く駆け寄り。


彼女は自身の両腕の中で少年を受け止めた。


「部屋の入口までもどりましょうか」


「はい」


「サイコキネシスであなたを運んだ方がよろしいでしょうか」


「いや、自分の足で歩きたい」


足下に転がる青い石に注意しつつ。


ゆっくりと来人はヴェルデに支えてもらいながら。


地下室の入口へと戻っていった。


そこには。


二人を迎える様に無傷のプラネタリウムが。


アズゥからの贈り物が。


来人達を待っていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

桜もほとんど散ってしまい、新年度が日常になっていく時期になりましたね。

次回の更新は4/25の17:00を予定しておりますので是非ともよろしくお願いします。

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