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第46話 権利と選択と配慮

第46話 権利と選択と配慮

真実を見せたいと言っていたにも関わらず、

空き家の前でヴェルデは来人にここから先に進むかどうかを尋ねる。

それは来人の持つ権利と選択を配慮したからだと彼女は語り出す。

ペガサスが空き家の敷地内に着陸すると。


人の手が施されておらず。


雑草生い茂る地へと。


来訪者である来人とヴェルデは降り立った。


二人と一匹はまだ透明のままで。


「この欠片(かけら)の役目もこれで終わりですね」


透過しているヴェルデは。


彼女と同じく透けているペガサスのシールを剥した。


魔法が解けたように。


上半身からペガサスが光とともにその姿を現した。


同じくヴェルデも自身のシールを剥して透過を解除する。


剥がれたシールを彼女は持っている鞄の上に置くと。


次の作業に移る前に愛馬へと寄った。


「ありがとう」


「ブフゥ」


軽く鼻を鳴らすペガサスへと。


ヴェルデはにこやかに手を伸ばして。


愛馬の頭を触れて撫でだした。


ねぎらいと感謝を彼女なりに込めながら。


この光景を目にした来人は思った。


この人もこんな顔するんだ、と。


いい意味で。


ようやくヴェルデの人間らしい顔を見られた来人は。


怪奇現象や超常現象以上に。


不思議な気持ちでいっぱいだった。


「人の目や気配もないですしあなたの石の回収を先に行います」


「ペガサスを石に戻すのですか、水はどうするんです」


「水は要りません。こちらのやり方でいきます」


「こちらのやり方って、超能力ですか」


「まあ、そんなところです。触れるだけでいいので」


「便利ですね。てか、オレの声シールなしでも聞こえているんですね」


シールを貼っていると声や音は消えるのでは、と。


例のシールの矛盾点を来人は指摘してみた。


それに対してヴェルデは澄まして答える。


「ワタシ絡みは例外ということで納得してください」


「はい。なんかすいません」


さっきから親切だし、これはこれでちょっと不気味だ。


初対面の時の一方的な提案。


本日出会ってすぐの自分への強引な対応など。


高圧的なヴェルデがここにきて。


不自然なほどに。


自分に気を遣っているようでいて。


来人はヴェルデが増々分からなくなってきた。


「ヒヒン」


頭の中に疑問疑念が膨らむ来人のそばで。


ペガサスは自らの役割を終えたため。


姿形を生物から鉱物へと変えていっていた。


(あるじ)であるヴェルデが触れた部分から。


この現象もきっと彼女による影響だろう。


深緑のペガサスは形を崩していく。


紳士的な立ち振る舞いの天馬だったが。


石化の際にはドラゴンやケルベロスたちと同じく。


()ねだした粘土細工のようにグネグネと変形していった。


(たくま)しいボディや。


美しい両翼に。


上空で雄々しく(なび)いていた(たてがみ)も。


神秘的なデザインはもう既になく。


空を駆けていたペガサスだった存在は。


不細工に変形しながら縮んでいき。


色合いも深い緑から青へと移ろいだ。


しばらくするとペガサスであったものは。


掌に収まるサイズの青い石へともどっていた。


「さてと、仕舞っておきましょうかね」


地面に落ちず石は宙に固定されている。


恐らく来人の家で起こしたのと同じく。


ヴェルデのサイコキネシスだろう。


石が月の光を全体に満遍まんべんなく浴びるよりも前に。


素早くヴェルデはファスナー口の開いた小銭入れを前にかざしていた。


それはペガサスが変形している最中に。


自前の鞄から取り出して彼女が準備していたものだ。


「何やっているんですか」


「大人しくしていないとあなたも吸い込まれてしまいますよ」


目の前の光景に来人は我が目を疑った。


小銭入れの口から強力な風が渦巻き。


渦は月光を浴びるよりも早く石を財布の中へと引きずり込んだ。


吸い込み終えると。


ファスナーの口を閉めてヴェルデは財布に封をした。


「これにて回収完了」


「アニメや映画を見ているみたいだ」


まるで小さなブラックホールを見たかのように。


たった今起きた現象に来人は驚きを隠せなかった。


対照的に。


こういった事象に普段から慣れているのか。


目標を無事に回収したヴェルデはというと。


ペガサス分のシールと封をした小銭入れ。


この二つを手早く鞄に仕舞っていた。


「行きましょうか」


鞄の上に置いていた自分用のシールを。


自身へとヴェルデは貼り直した。


再び透明になった彼女は進んでいく。


アズゥのいる空き家の中へと。


「こちらに来ないのは体調でも悪いのですか」


「いいえ。ヴェルデさん」


もう既にヴェルデは玄関を通り抜けており。


来人からだとドア越しの彼女の声しか聞こえない。


覚悟を決めたのに、どこか怖い。


扉の前の来人の足はすくんでいた。


足を踏み入れようとしていたなのに。


少年の歩みは止まっていた。


それは上手く言葉にできないアズゥへの不安と。


ヴェルデがこれまで見せてきた超能力などが原因だ。


ひょっとして空き家の中で自分は殺されるのでは、と。


大きな不安が来人に湧いてきた。


ペガサスとの夢見心地な空の散歩が終わり。


ロマンから異常な現実への反動は少年の心を苦しめた。


「明かりが必要ですね」


きっと来人を待っているのだろう。


ドア越しにヴェルデは来人に呼びかける。


声量や通り具合からして。


彼女は玄関のドアの前付近で待っているに違いない。


「どうして、ワタシがあなたに突然優しくしていたか教えましょう」


「えっ」


理由あったのか。


突然のヴェルデからの暴露に来人は驚いた。


一方で彼女は無機質に説明を続ける。


「ワタシの所属する組織の上司からの命令です」


「組織、上司?」


「この世には超常や未知の存在を隠蔽(いんぺい)する組織があるんですよ」


「ええと、漫画や映画とかに出てくる秘密結社、ですかね」


話が現実離れ過ぎている。


前々からどこか予感していたものの。


改めて直接ヴェルデから『組織』が有るという事実を耳にして。


来人は恐怖と命の危機を感じていた。


金欲しさに。


とんでもない事件に足を突っ込んでしまった、と。


後悔で来人の体は震え出していた。


それを予期していたのか。


少年を説得させるために。


敢えてため息をついてからヴェルデは来人に告げた。


大きな、ドア越しでも聞こえるほど露骨な一息を。


「あなたの命は奪いません」


「信じていいんですか」


「はい。上司からあなたみたいな思春期の少年は丁重に接しろと叱られました」


「いい上司さんですね」


「ええ、三日前の取引について話したら怒られました」


「はは」


なんか気が抜けてきた。


むしろその上司の人が来て欲しかった、と。


これまでの恐怖と緊張から来人は一気に解放された。


「ちなみに、下手な抵抗を防ぐ為にあなたの自宅では高圧的でした」


「だから、オレの家では脅しみたいにデカい態度だったんですね」


「はい。あと、ペガサスに乗っての空からの景色はワタシなりのお詫びです」


「じゃあ、やたら丁寧に説明しだしたのもお詫びですか」


「はい。まだ話せませんが最後の仕上げに関わってきますので」


「なんだか、すいません。色々と気を遣わせちゃって」


最後の仕上げって、なんだよ。


引っ掛かりのある言い回しのヴェルデだが。


悪意を持って接してきてはいなかった点を知れただけでも。


安心できる要素としては来人には充分大きかった。


それだけに彼女が次に告げた言葉は。


ホっとしていた少年の心を揺さぶった。


「これからあなたにお見せする真実は残酷ですからね」


「えっ。真実を見せたいって、ヴェルデさんが言ったじゃないですか」


「これは権利であり選択です」


「権利、選択」


「最後まで見届けるかどうか。来人さんどうしますか」


「失礼ですけど、それもあなたの上司からの指示ですか」


「はい。来人さんへの配慮だそうです」


「本当に素敵な上司さんですね」


マジで上司の人が来て欲しかったな。


無機質なヴェルデの話の中だけでも良い人物であると。


彼女の上司に来人は感心した。


だからこそ、先ほどのヴェルデの説明に。


『あなたの命は奪いません』


その言葉の裏の意味に少年は気が付いてしまった。


「オレは殺されたりはしないんですね」


「もう察しがついてきてましたか」


「アズゥを消すんですよね」


「はい。彼女は隠蔽(いんぺい)対象ですので」


「隠蔽って――ここまできてオレが暴れたら?」


「速効であなたを無力化します」


「……アズゥの最期を見るかどうかここで決めろってのか」


「はい。あなたには選べる権利があります」


「一分だけ時間をくれ、ください」


自分で決めないと。


ここで立ち止まって事が終わるのを待つか。


残酷な結末を目の当たりにするか。


大きな選択を少年は迫られた。


友達の死がこれから起きようとするのに。


自分はただただ無力でしかない。


それでも友達を、アズゥの最後には一緒にいてあげたい。


決断には一分もかからず。


少年は自分の選択をヴェルデに答えた。


透明なまま。


彼女以外には誰にも聞こえない答えを。


「一緒に行きます。友達とちゃんとお別れがしたいです」


「かしこまりました。それでは早く空き家の内へ」


シールの効力で解錠せずとも扉をすり抜けられる。


息を呑んで来人は玄関の扉を通り抜けた。


「お待ちしておりました」


空き家の中、玄関でヴェルデは明かりを持って来人を迎えた。


明かりは彼女が持つ緑のスティックから放たれている光だ。


放たれている光は蛍光グリーンで。


より一層スティックはサイリウムのようだ。


それは誘導灯となり空き家の闇を照らしている。


「行きましょうか」


「はい。ヴェルデさん」


来人は明かりを持つヴェルデの後に続いた。


平然と空き家内を彼女は進む。


妹の頼み事を聞いた際の少年と違い。


探索は一切せずに。


ヴェルデはアズゥのいる地下室へと直行した。


深淵を思わせる地下へと続く階段も臆せず。


着実にそれでいて速く。


一段一段地下へと彼女は下っていった。


もう全然怖くないな。


初めてこの階段を下りた時の思い出と。


今の感覚とを比べながら来人はヴェルデの後を追った。


彼女ほどではないが来人も階段を早く降りられた。


「どうやら、この先にあるみたいですね」


「ヴェルデさん。お願いがあります」


階段の底、地下室の扉の前にて。


姿は透明なままで来人はヴェルデに頭を下げた。


その声に対してヴェルデは明かりの光を少年へと向ける。


「もうシール剥してもいいですか」


「なぜですか。鍵がかかっているかもしれないのに」


「そのときはそのときです」


ダメ元だとしても。


切実に来人はヴェルデに頼み込んだ。


冀望きぼうは、少年の望みは叶うだろうか。


「お願いします」


「……」


無機質さは変わらず。


しばらく、ヴェルデは沈黙した。


次に彼女が口を開いたときは。


要求の了承を事前に知らせてから。


少年に頼み事の理由(ワケ)を尋ねたときだった。


「いいいでしょう。ただ、何故そんな行動をするのか教えてください」


「友達とはいつも通り会いたい、からです」


「分かりました。シールを半分ほど剥してから試してください」


「ありがとうヴェルデさん」


やった、話が通じて。


最初よりもずっとヴェルデの融通は利いており。


喜んだ来人は彼女の言う通りシールを半分ほど剥した。


少年の右腕は発光とともに実体化し。


ドアの取手を掴めるようになった。


深呼吸をしてから少年は取手を回す。


扉に鍵は――かかっていなかった。


「ヴェルデさん。鍵はかかっていなかったし、いいですよね」


「ええ。ただし、ワタシはこのまま透明でいさせてもらいますからね」


「そこはゆずれないんですね」


「任務でもありますしね。ただ、来人さんお先にいいですよ」


「いいんですか」


「上司なら多分こうするなって、思ったからです」


「なんか、一度会ってみたいですねあなたの上司に」


「ユニークな人ですよ。それと剥したシールはワタシにください」


「あっ、すいません」


本当に何者だよ、この人の上司は。


完全にシールを剥すとヴェルデにそれを渡しながら。


来人は一度も会ったことがない人物に感謝した。


光を放ちながら。


少年の姿は地下室の扉の前で露わになる。


わがままかもしれない。


これ以上の融通は通らないと思いつつも。


二つ目の頼みごとを来人はヴェルデに申し込む。


「ヴェルデさんの持っているライト消してもらえますか」


「それもいつも通りご友人に会うためですか」


「はい」


「しかし、来人さんの明かりはどうするんですか」


「自前のものがあります」


ズボンのポケットから来人はスマホを取り出した。


電源を入れるとディスプレイが光りだし。


暗い地下の底を強烈に手らし出す。


「スマホならこの後のことにも邪魔になりませんよね」


「ええ、水の入った容器でもありませんしね」


「今更ですが、ペガサスやアズゥの変化を妨げるから邪魔なんですよね」


「その通り。ですので、ご自宅に置いてきてもらう必要がありました」


「なるほど。()に落ちました」


ディスプレイの光も弱くなりだし。


来人は急いでスマホのライトアプリを起動した。


端末の起動時よりもずっと(まばゆ)い光が放たれる。


輝きはヴェルデのスティックの光すらかき消すほどだ。


「いいでしょう。その点も許可します」


ヴェルデは来人の要望をのみ。


持っていたスティックの明かりを消した。


蛍光グリーンの光は消え去り。


閃光とまではいかないが。


懐中電灯代わりのスマホのライトの無骨で強い光だけが。


空き家の地下で輝いている。


少年にとっての本当のいつも通りなら。


手にはスマホの明かりでなく懐中電灯を持っていて。


もっと遅い時間にやってくるのだが。


どうやら少年の願いはそこまで叶いそうにはない。


ヴェルデも自身の仕事でここを訪れている。


ここまで彼女が要求に応えてくれただけでも。


とても来人にはありがたかった。


「色々とお願いばかりですいません」


「謝らなくていいですよ。この程度で事が円滑に進むなら構いません」


「だとしても、そちらの都合もあるのに、ありがとうございます」


これで会うのが最後になるからこそ。


いつもと変わらずに。


自分から友達アズゥに声をかけたいと。


やり切れなさを抱えながらも。


涙をこらえて少年は扉を開けた。

ここまでお読みくださってありがとうございます。

読者さんの中で新生活にもう慣れた人はいますか。

それでは、次回の更新は4/18の17:00頃を予定しておりますので、

ぜひご覧頂ければ私としては嬉しい限りです。

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