第42話 ずっと友達ですか
帰りのエスコート、来人は逢を空き家の外へと無事連れ出す。
しかし、空き家前で二人は談笑してしまい増々夜遅くなってしまった。
そこで逢は来人の家に泊りたいと提案する。
これは嘘をついた少年に対する少女のイジワルな反撃でもあった。
「なんだよ、もうアズゥの奴」
完全に扉が閉ざされる前。
ドアから漏れたランタンの光があった内に。
懐中電灯を付けていたおかげで
来人と逢は明かりには困らなかった。
ここからは帰りのエスコート。
地下室までの道を遡るだけなのに。
全く違う緊張を来人は感じていた。
下りから登りの階段も。
廊下から玄関までの道筋も。
理由について来人は分かり切っていた。
自分と一緒にいてくれる逢の変化だ。
行きはずっと来人の背中に身を預けていた彼女だが。
帰りの道ではずっと来人の空いた手をとっていた。
お互い行きと違って軍手は着けておらず。
先行く少年の温もりを少女は右手で直に感じつつ。
青い女性からの贈り物を左手でその子は大事に抱えていた。
帰りのエスコートは行きよりも厳かで。
懐中電灯が生みだす光のカーペットを行く二人は。
一歩一歩を踏みしめているようだった。
誰も見ていないのに。
まるで記念を祝福されているかのように。
そして、二人はカーペットの端へと辿り着く。
玄関を出た先にある空き家の外壁だ。
「そうだ。逢ちゃん一旦それオレが預かるよ」
壁を飛び越えなければならないため。
両手を使わなければならず。
どうしても逢はアズゥの作品を一旦手放す必要があった。
せっかく貰ったプレゼントをすぐ誰かに渡すなんて。
拒否感がある者もいるだろうが。
逢は来人にならアズゥの手作りプラネタリウムを。
今夜手に入れた宝物を安心して渡すことができた。
「来人さん。お願いします」
「よし、ちゃんと受け取ったからね」
差し出された逢からの品を来人はしまった。
入れたのはスマホとは反対側の上着の内ポケットだ。
頼まれた品はぴったりとポケットに収まり。
多少の衝撃なら飛び出しもしないだろう。
「よっと」
もう来人にとってこの空き家の出入りは難しくなかった。
軍手もつけず素手で壁をよじ登ると。
塀の上で来人は逢へと手を差し伸ばして彼女を待った。
手を差し伸ばされた少女もまた素手。
ちょっとくらいの汚れはご愛敬とも言わんばかりに
お互いに手を取りしっかりと握りあった。
「よっと」
「んしょ」
腕に力を入れると来人は勢いよく逢を引き上げた。
引き上げられた彼女は壁に手をかけると。
そのまま塀の上へとのぼっていった。
まだ来人は壁を飛び越えていない。
ぶつからないように気を付けて逢は塀に腰かけ。
二人並んで同じ景色を見た。
ちょっとだけ高い場所から見る周囲の雑木林やクレーターなど。
自転車や歩いて見る時とは違った味わいだ。
一望という程ではないが。
高い場所から見た空き家周辺の眺めは。
来人と逢にとっては新鮮だった。
そんな感情もあってか。
鬱葱とした雑木林と空き家の荒れ具合を思い出し。
この家の持ち主はどんな人だったんだろう。
昔、この家で何があったんだろう。
二人は空き家の過去についての詮索を始めていた。
考えてもしょうがない。
それに今夜の思い出の余韻を壊したくない。
その思いから来人は逢にさり気なく呼びかけた。
「逢ちゃん」
「なんでしょうか。来人さん」
「もう、行こうか」
晴れやかな笑顔で来人は逢に次のステップへと誘った。
最初は戸惑ったものの。
逢も来人の思いに応じるように元気よく返事をした。
「そうですね」
クッション役なんてもういらない。
迷いがなくなった二人は同時に塀の上から飛び降りた。
空中でぶつかることもなく。
特に大きな怪我を負わず。
二人はそれぞれ着地した。
「ってえ」
「たたた。ちょっと痺れますね」
それでも。
着地の衝撃と痺れで二人はほんの少しの間動けずにいた。
動けない間はひたすら笑い合うだけ。
もう動けるようになっても。
しばらくは互いに談笑していた。
だからこそ、来人は何気なく見たスマホの時刻に寒気がした。
「ヤバい。もう十一時になりそうだ。逢ちゃん」
「えええ。昨日は警察の人とかに見つからなかったけど、今日は大丈夫かな」
更に時間が経っている事実に二人は困惑してしまう。
親がいないとはいえこのまま一人で逢ちゃんを帰していいものか。
途中までは一緒に帰れるけれども。
そもそも朱理から何を言われるか。
どうしたものか、と。
思い悩む来人に逢は少々躊躇いつつも一つの提案をした。
「今晩だけ来人さんの家に泊めてください」
「ええええええ」
今日一番の驚きで来人から奇声じみた叫びが出た。
それをなんとか鎮めようと逢は一生懸命に身振り手振りで。
キャパオーバーな来人に提案の意図を説明した。
「ここから自分の家まで遠いし、昨日と違って指導員の人に見つかるかも」
「逢ちゃんの家詳しくは知らないけど、やっぱり遠いの」
距離的な問題。
昨日も今日も。
見つかると厄介な大人の目にはとまっていないものの。
そのリスクはこの帰り道でも変らない。
逢から理屈を聞くと来人は冷静さを取り戻した。
「やっぱりここまで時間かかるんだ」
「はい。自宅から一時間くらいはかかりますね」
「じゃあ、昨日オレと別れてからも結構一人で帰っていたんだ」
これはまずい。
昨夜の逢の帰宅の実情を知り来人は呆然とした。
下手をすれば帰宅中の彼女が危険な目に遭うかもしれない。
単純に昨夜は運が良かっただけ。
そう思うと来人は彼女のアイディアに納得せざるを得なかった。
絶対に監視の目を掻い潜れるわけではないが。
少しでもリスクを減らすにこしたことはない。
しつこさは自覚しつつも来人は逢へと提案の再確認をする。
「ただ、オレの家もここからちょっと距離あるよ」
「自分の家ほどではないし、それに朱理ちゃんもいますよね」
「いるけど。親御さんにはなんて言うの」
「家の電気点けっぱなしで来たんで、逆に友達を泊めていたって言います」
「信じてもらえるかな」
「大丈夫ですって。お母さん達が帰ってくるのも明日の夜遅くですし」
食い入るように話を進めていく逢を。
もう来人は止められなかった。
元々彼女の意見をのむつもりでいた。
だったら、疑問という名前の否定をしていた自分はダサいだけ。
脚の痺れもとっくに消えていて。
二人はいつでもここを発てられる。
出発の一声は来人から。
「じゃあ、オレの家まで一緒に行こうか。逢ちゃん」
「はい、来人さん」
事故や監視で巡回している大人と。
気を付けなければならない要素ばかりのため。
集中して二人は運転しなければならない。
だが、目的地に辿り着けば話は別。
「到着っと。お疲れさん、逢ちゃん」
「面倒くさい人たちに見つからなくてラッキーでしたね。本当に」
錆山宅、来人の家の敷地に二人が辿り着くと。
大きな息継ぎの後に。
来人も逢も声を出し解放感を味わった。
このまま家に入りたいものの。
自転車を停めなければならない。
駐輪場である暗いガレージで照明も点けずに。
二人がそれぞれの愛車を停め終えたときだ。
ティン。
逢が横から来人の自転車のベルをイタズラ気味に鳴らした。
ベルの音が暗く狭いガレージ内によく響く。
しかしながら、それを耳にしたのは。
来人と逢の二人っきり。
「えっと。どうしたの逢ちゃん」
「来人さんは本当にずるい人」
戸惑っている来人をからかうように。
イジワルそうに逢は微笑んでいる。
両手を背中の後ろに組んで。
少し体を屈めて。
上目遣いで。
狭いガレージの中で。
正面から逢は来人の顔をじっと見つめていた。
最初からベルを鳴らした理由なんて。
答える気はなく。
小悪魔になった少女は少年が今夜ついた嘘をイジり出す。
「来人さんと私は友達……ですか」
「ごめん。騙してて。このお詫びはちゃんとするから」
「結構ですよ。そういうの」
「やっぱり怒っている、逢ちゃん」
謝罪を拒否されているのを感じ来人は慌てだした。
どうすればこの娘は自分を許してくれるだろうか。
お金、物、時間、家事などの手伝い。
騙したお詫びについて来人の考えが止まらない。
そんな悩み多き少年に。
怒りも叱りもせず。
にやけながら少女は許しのヒントを与えた。
「ずっと来人さんの友達は嫌ですからね」
まだまだイジワルな笑みはそのままに。
逢は来人よりも先にガレージを出た。
「えっ、ちょっと待って逢ちゃん」
「待ちませーん。先に朱理ちゃんに顔出してきまーす」
「ていうか、アズゥのプラネタリウムは」
「明日渡してくれませんか。今夜は来人さんが預かっていてください」
「そりゃいいけど。てか、足速」
「ふふふ、置いてきますよ。来人さん」
楽しそうに逢は走り出す。
すぐさま来人は彼女の後を追うが。
走る彼女は速く。
来人が逢に追いついたのは。
彼女がチャイムを押し玄関の扉を開けて。
朱理に今晩の挨拶をした時だった。
「ごめんください」
「逢ちゃん。どうしたの、こんな時間に」
突然の珍客に朱理は目を丸くした。
もうすぐ寝ようとしていたのか。
パジャマ姿で朱理は元気よく訪れた逢を出迎えた。
「ごめん朱理ちゃん。今夜泊めてくれる」
「いいけど。親とか大丈夫なん?」
「その辺りは問題ないから、ね」
「だったらいいけど。後ろの兄ちゃんはなに」
逢の宿泊は許可するも。
朱理は彼女の後ろで息切れしている兄が謎でたまらなかった。
「オレからも頼む。逢ちゃんを今夜泊めちゃくれないか」
「いや、そこはさっき本人に大丈夫って伝えたから」
「なら、いいんだが」
「それよりも兄ちゃん。逢ちゃんに変なことしてないよね」
「ええええ。んな訳ないだろう」
もう少しオレを信じてくれよ、と。
妹に叱られながら。
日頃の自分の行いの悪さを来人は悔いた。
「ふふふ、本当に面白いな。来人さんって」
アズゥからの後押しもある。
少年が今晩ついた嘘について。
目の前にいる少女から許しを得るのも。
もうすぐのはず。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
夜遅くに帰ってしまい家族から心配され怒られた思い出は皆さんにはありますか。
それでは次回の更新は3/21の17:00頃を予定しております。
ぜひ、ご覧ください。




