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第41話 真空の地下室

天体ショーが終わると逢はこの空き家の今後の扱いについてアズゥへと教えた。

それに対し彼女は危機感なく耳を傾けていた。

むしろアズゥは時刻の心配を来人と逢へと伝えた。

三人は解散するのだが地下室には忘れ物が一つ残っていた。

天体ショーの終了は地下室のランタンが知らせてくれた。


ランタンの電球の光でこの部屋から夜空が消えていく。


顔を上げたとしても。


年季の経った天井しかもう目には入ってこない。


ショーが終わったため三人は立ち上がる。


体を伸ばしつつ感想を互いに語り合いながら。


「本当に来てよかった。ありがとう、アズゥ」


「はい。貴重な体験をありがとうございます、アズゥさん」


「どういたしまして。二人とも気に入ってなによりよ」


作り物で小さかったとはいえ。


三人は星空をとても堪能した。


アズゥがプラネタリウムの電源をオフにする際には。


どこか名残惜しそうなほどに。


地下の天体ショーは大盛況で幕を閉じた。


「楽しかった。うん、本当に楽しかったよ」


来人は余韻に浸ったまま未だに上を見上げている。


逢はそんな先輩の無邪気な顔を微笑ましく眺めていた。


しかし、それもつかの間。


先に余韻から覚めた逢は大事な用件を思い出してしまった。


勢いのあまり大声で彼女はアズゥに呼びかける。


「大変アズゥさん。この空き家がとり壊されるかもしれないのを知っていましたか」


「逢ちゃん、その話もう少し詳しく聞かせて」


この空き家を取り巻く大人たちの都合などについて。


慌てて逢は来人と同様にアズゥへと伝えた。


自分の居場所を失うのに。


まったく危機感なく逢の話にアズゥは耳を傾けていた。


彼女のこの態度に来人は呆れてしまう。


「いいのかよ、アズゥ。住む所なくなっちゃうんだぜ」


「探せばいいじゃんまた次の所を。でも、しばらくは一人旅か」


特に焦る様子もなくアズゥは普段通りだ。


心配するのも失礼かもな。


あまりアズゥの今後について来人は深く考えないようにした。


実際に次の居場所を探せばそれでいいと言う彼女を見ると。


謎の説得力があったからだ。


生きていればどこかでまた会えるだろう。


別れの日がきたとしても。


いつかアズゥとなら再会できるだろうと来人は信じていた。


「でもさ、ここがなくなるのもまだ先でしょ」


「ええ。お母さんから聞いた限りまだうわさの段階ですね」


逢は不安げに話すもアズゥは余裕たっぷりでそれを聞いていた。


むしろ、二人を心配してあげるほどに。


「だいぶ夜も遅くなっちゃったし。二人は時間大丈夫かな」


「あっ」


大急ぎで来人は上着の内ポケットからスマホを取り出した。


待ち受けの画面が示す時刻は十時五分。


中学生が出歩くには遅い時間帯だ。


いくら今夜も親不在とはいえ逢も帰宅したほうがいいただろう。


自分の都合に巻き込んでしまった彼女へと来人は謝った。


「ごめん。こんな遅くまでつき合わせちゃって」


「自分は構いませんけど。来人さんは朱理さんが心配してませんかね」


「昨日も遅くなったしな」


またしかられるわけにもいかない。


楽しい時間を過ごしたからこそ。


遅くなってしまった帰りに来人は頭を悩ませた。


そんな少年の肩をアズゥはポンと叩く。


「今日はもう帰んなって。逢ちゃんと一緒にね」


アズゥに促され来人も逢も帰宅を決めた。


三人一緒なのは地下室の入り口まで。


扉をまたいだ来人と逢は扉の外に。


アズゥは扉の内に。


開けっ放しの地下室へのドア。


それを境界線にして三人は別れの挨拶を交わす。


「楽しい夜をありがとう、またなアズゥ」


「同感です。何度でも言います。今夜は本当にありがとうございます」


「またね。二人とも。あっ、そうだ来人」


顔だけ境界線を越えて、アズゥは来人に耳打ちした。


「帰りも逢ちゃんを頼んだよ」


「えっ、あっ、えっ」


言いたいことだけ言うとアズゥは顔を引っ込めた。


バランスを崩しながらも来人はそんな彼女を見返す。


完全に地下室の闇の中へとその身を置いたアズゥはとてもにやけていた。


「なにすんだよ、アズゥ」


「さあね、とにかく頑張れ来人。男の子だろ」


不器用なエールを来人に送りながら。


アズゥは地下室の扉を内から閉めていく。


ゆっくりと扉は閉ざされていき。


ゴウン、という古く鈍い金属の音が鳴れば。


来人と逢の住む世界とアズゥの住む世界は別たれる。


この際、青い彼女が忘れものに気づくのは。


扉が閉ざされて何分も何十分も経ってから。


「いけない。これ来人に渡してなかった」


暗闇の地下室で。


約束を果たした来人へのプレゼントを。


壁に寄りかかりながら。


アズゥは大事に抱きかかえていた。


「次会うときでいいや」


ランタンもプラネタリウムの光もない。


真っ暗闇。


一寸の光もない現在が天体ショーのときよりも。


宇宙に近いかもしれない。


もし、音が伝わらない真空という点ならば。


独りきりのアズゥの声が。


誰にも届いていないのは当然かもしれない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

引っ越しや新生活などで次の住いを見つける時ってなんだかワクワクしませんか。

次回更新は3/20の17:00頃を予定しております。

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