第38話 不器用なりのエスコート
逢を友達ということにして来人はアズゥとの取引であり約束を果たそうと試みる。
だからこそ、来人は逢にその抱えている多くの不安を彼女に見せないように心掛けた。
空き家を舞台に頼りがいのある先輩として少年は少女を慣れないなりにエスコートする。
星空の下、今日はスマホ持参で来人は空き家を訪れていた。
前日同様、出発の際には妹からは適当な対応で済んだものの。
『あのさあ、もう日付変わりそうなんだけど。どこ行ってたの』
『ええと。あの空き家にプラネタリウムを、個人的に取りに』
昨晩、遅い帰宅に妹から指摘を受けてしまい。
時間が確認できるように。
ジャケットのファスナー付きポケットにスマホを入れて。
ここで待ち合わせの約束をした逢よりも二十分も早く。
来人は彼女を待っていた。
端末の待ち受け画面が示す時刻は七時五分。
昨夜、逢と過ごした空き家の塀の前で来人は彼女を待つ。
待っている間昨日の逢と同じように。
スマホのライトで来人はクレーターを照らしていた。
ここも無くなってしまうのか。
子供の肝試しの場所としてうってつけだったのに。
大人の都合で取り壊されてしまう。
取り壊しの噂を思い出し来人は世の中の移ろいやすさを感じた。
同時に思う。
アズゥはどうするんだろう、と。
この後彼女に会うときにそれを伝えようと来人は決めた。
ただ、今は考えすぎても無駄なだけ。
「ゲームでもすっか」
アプリの光も調整はしているが少々明るすぎる。
厄介な大人に気づかれるのも嫌なので。
強すぎる光を消して来人はゲームアプリを起動した。
一人分の顔にしか当たらない程度の。
端末から放たれる淡い光に包まれながら。
この空き家の今後を深く考えないようにするためにも。
アプリのアクションゲームに来人は遊び始めた。
ゲームのステージを丁度一つクリアしたときだ。
遊んでいた来人は自転車のベルの音を耳にする。
「逢ちゃん」
顔を上げると自転車に乗ってこちらへ向かう逢を来人は見つけた。
「遅くなってごめんなさい来人さん」
「大丈夫、朱理だったらもっと遅いよ」
「なにそれ、でもこないだは三分くらい遅刻してたっけ」
「やっぱり」
冗談を言い合い来人と逢は笑い合う。
楽しく待ち合わせを済ませると今度は装備の確認だ。
今夜の逢は動きやすいシャツと上着にジーンズだ。
更に二人とも壁を登るために軍手まで持ってきていた。
お互い服のポケットに入れておいたそれを両手にはめると。
来人を先にして二人は空き家の壁に手をかけた。
「逢ちゃん、オレの手をとれる」
「はい」
「よいしょ」
先に壁の上に来人は登って僅かなスペースに足を着けると。
ここを逢が越えやすいようにと。
引き上げるように下にいる彼女の手をとった。
「ありがとうございます、来人さん」
「なあに、これくらい平気さ」
持ち上がった逢は壁の上部を掴んだ。
次に彼女は腕に力を込めて自分の体を持ち上げる。
上半身が壁を越えたところで。
今度はどうすれば、と。
彼女が前を向いた時にはもう来人は壁から飛び降りていた。
「ヤバくなったらオレがクッションになるから大丈夫」
「ありがとうございます。でも、そうならないよう頑張ります」
勢いに任せて逢は壁を登りきる。
誤って落ちないよう。
一旦自身もまた先輩同様に壁の上の僅かなスペースに足をつけた。
「じゃあ、行きますね」
「どんとこい」
一、二の三。
逢は心の中でカウントすると。
ジャンプして壁から飛び降りた。
着地は。
成功し、来人がクッションになる必要もなかった。
しかし、着地の衝撃と脚の痺れで逢はすぐには動けなかった。
「ケガとかない。大丈夫」
「大丈夫です。ただ、ちょっと痺れていて。ちょっと待ってくれます」
しばしの休憩を挟み。
逢の回復が済んだところで。
二人一緒にどんどん前へ。
長く生い茂る雑草も慣れた手つきで来人はかき分けて。
古びた玄関の扉も物怖じせずに。
丁寧かつ大きな音も出さず来人は開けた。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
いよいよ二人一緒に空き家の中へ。
慣れない逢は来人の背中を頼りに。
彼の上着を後ろから掴んで少女はその身を預けた。
手と手を取り合ってこそいないが。
まるでエスコート。
持参した懐中電灯を左手に持ち、それで来人が前を照らせば。
暗闇に光のカーペットが敷かれる。
独りのときよりもずっと機敏かつ慎重な素振りで。
光に照らされた埃や汚れが彼女に触れないように。
空いている自身の手で振り払いながら。
逢が困らないように注意しつつも。
彼女が不安にならないように。
笑顔は忘れず。
嫌な部分が現れたら積極的に取り除いていく。
今夜だけは頼りがいのある先輩でいたい。
少年の、意地というよりも見栄だ。
このおかげで来人は逢を目的地まで難なく導いた。
二人が地下室の前まで辿り着くのにも。
さほど時間はかかっていない。
逢は来人の背後から隣へと並ぶために。
階段を下った先、狭い空間の中で一歩踏み出した。
隣に逢が並んだからこそ。
来人は彼女に心の準備が出来たか確かめる。
「この先に目当ての物があるよ。準備はいい」
「もうちょっと待ってくれますか、来人さん」
両手を合わせて逢は地下室前のドアに立つ。
望んではいたものの。
もしかしたら、何か怖いものが待ち構えているかもしれない。
彼女はこの扉を前にして少し怯えていた。
合わさった両手の指は握られてゆき。
怯えを示すようにプルプルと震えていた。
「大丈夫。心配しないで」
「来人さん」
「オレがいるから」
本当に逢をアズゥと会わせるべきか。
直前になって来人は彼女達を会わせるか迷っていた。
ただ、その迷いはすぐに少年は捨てた。
再び来人は決めたのだ。
今夜だけはこの子の前で頼りがいのある先輩でいたい、と。
まだ心の準備ができていないのは自分が原因だろう。
少年は自分を責めた。
義務感として。
震える逢の手をわざわざ見る必要はない。
来人はそっと自分の右手を。
握られた逢の両手の上に添えた。
「できた。準備は」
「……はい」
この人に勇気を分けてもらったから。
逢は来人と一緒に扉の先に行こうと決心する。
少年の掌から少女の両手が解かれていく。
花開くように。
「開けるよ」
「はい、来人さん」
二人一緒に手をかけて。
来人と逢は地下室への扉を開いた。
ここまでは少年にとってエスコート。
ここからがメイン。
ショータイムも間もなくだ。
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
皆さんはエスコートを命じられた記憶はございますか、やっぱり緊張しましたか。
それでは、次回の更新は3/17の17:00頃を予定していますのでお読みいただけると幸いです。




