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第32話 買い取り人のお節介

ケルベロスとの戦いの後来人はヴェルデに助けられていた。

しかし、彼女の態度は相変わらず慇懃無礼でそれが来人には耐えられなかった

「あれ、ここってオレの家、だよな」


目を覚ました来人が最初に見たのは自分の家のリビングの天井だった。


ずっとソファの上で寝ていたのだ。


「とっとっと」


起き上がり来人は次に時計を見た。


最後に自分の部屋で確認した時よりも少なくとも二時間は進んでいる。


「良かった。オレ生きている。って、それは大袈裟だな」


「兄ちゃあああああん」


朱理が大声を出してキッチンからリビングに駆け寄って来た。


兄の無事を知った妹の勢いは凄まじい。


嬉しそうに朱理は来人へと飛びついた。


「良かった。心配したんだよ」


「分かったから、離れろって」


 結局朱理を心配させてしまった。


兄として妹を気遣わせた責任を来人は感じてしまう。


「ごめんな。心配ばかりかけて」


「ううん。いいって」


健気な朱理に謝りつつ来人は起き上がった。


その際に自分の右腕が目に入る。


赤い血が傷口から痛々しく流れていた記憶があったのに。


そこには包帯が巻かれていた。


「朱理がやってくれたのか」


「ううん、ヴェルデさんが手当てしてくれたの」


聞き覚えのある名前に来人の気分が悪くなった。


同時に部屋の隅にいるヴェルデを見つけた。


助けてもらった礼もある。


そのため来人は彼女に声を掛けた。


「手当てありがとうございます。しかし、なぜここに」


「あなたに持たせた道具の信号を辿たどっただけですよ、来人さん」


すぐにはピンとこなかった。


しかし、来人はヴェルデの言う道具に心当たりがあった。


ショッピングモールで手に入れたサイリウムのようなスティックだ。


「家まで来るのはやりすぎじゃないですか」


「対象の安全確保の為ですよ」


喫茶店の時同様ヴェルデは無機質に来人に応じた。


そのやり取りを知らない者がここに一人いる。


朱理だ。


無邪気に妹は兄に緑衣の女性との関係を尋ねた。


「すごいキレイな人だね、どこで知り合ったの」


声を弾ませて朱理は質問するが来人はこれを無視した。


ヴェルデもまた朱理へ少々冷たく接する。


「朱理さん、少し席を外してくれませんか」


「ヴェルデさんがそう言うならいいよ」


率直に聞けば雑に扱われるかもれしないところを。


ヴェルデの言葉を朱理はポジティブに受け取った。


その上で朱理は来人にささやいた。


「邪魔するのも野暮だもんね」


そう言い残して朱理はスキップで自分の部屋に行った。


妹がいなくるのを確認すると来人はヴェルデに椅子に座るよう勧めた。


普段は朱理が座る場所だ。


「お気遣いどうも、来人さん」


「これくらい当然ですヴェルデさん」


「なにか勘違いしていないか朱理」


目の前の女性は取引相手だ。


来人にとってそれ以上でもなければそれ以下でもない。


「改めてお礼を言わせてください。ありがとうございます」


「何度も言いますが、これくらい当然です」


やや嫌味気味に来人の謝意をヴェルデは受け止めた。


大事なのはそこじゃない。


そう言わんばかりに彼女は本音を語り出す。


「あなたの身の安全が他の石の回収につながるので助けただけです」


「ちょっと、もう少し言い方ってのを考えてくださいよ」


ヴェルデは慇懃無礼(いんぎんぶれい)極まりない言動だ。


これには来人の口調も少々荒くなってきていた。


「助けてくれたのはありがたいけどさ、もう帰ってくれよ」


「もちろん。用件を終えれば帰ります」


「なんだか機械と話しているみたいだ」


「ワタシは機械ではありませんよ。生物です」


「……それはすいませんでした」


ヴェルデのズレた発言や横柄な態度に来人はもう我慢できなかった。


しかし、彼女は来人の憤りをものともしていなかった。


「大変でしょうが、あと三日石を所持してください」


「アンタとことん勝手だな」


「クレームはけっこうですが元々あれは私のものです」


淡々と自己主張するヴェルデを来人は激しく睨みつけた。


「言っている意味が分からない。ちゃんと説明してくれ」


「言葉の通りです。これ以上はあなたに喋る義務はありません」


目の前の緑一色の美女が来人には怪しくてたまらなかった。


青い石について詳しいのならば石の怖さも理解しているはず。


それにも関わらずなぜヴェルデは石を欲しているのか。


謎に包まれたヴェルデの素性や目的が来人には不気味だった。


しかし、来人は可能な限り彼女と会話を試みた。


まるで人間以外のナニカと接する様に。


それは恐ろしさが勝ってもおかしくはない体験なのに。


会話できるからこそ恐怖以上に相手の無礼さが気になる。


来人はヴェルデへの怒りをモチベーションにずっと質問を続けていた。


一方で冷徹に彼女は来人に言葉をかける。


「あなたと私はただの商売相手、深く詮索するのはナンセンスじゃありませんか」


「アンタ何様のつもりだ」


「この国の(ことわざ)ではお客様は神様と言いますが」


「調子に乗るな」


不満を来人が吐き捨てるもヴェルデの表情は変わらない。


「それでは約束の日を楽しみにしています」


来人に背を向けるとヴェルデはそのまま錆山家を去っていった。


彼女を見送る者は誰もいない。


リビングで独り来人はじっと顔を俯けていただけ。


ヴェルデが出ていってからもずっと、ずっと。


彼女が帰って、三十分以上経ってからのこと。


何も知らない朱理が笑顔でリビングにやってきた。


「あれ、ヴェルデさん。もう帰っちゃったの」


無邪気な朱理はうずくまる兄に質問した。


「どうしたの。まだ具合悪いの」


心配そうに朱理は来人に近づくと兄のその背中をさすってあげた。


なにかあったのだろうか。


悩まし気な兄を見て朱理にある疑問が浮かんだ。


「まさかヴェルデさんとケンカしたの」


「さあな」


「せっかく来てくれた友達なんだからもっと仲良くしないとダメじゃない」


「知らねえよあんな女」


「ちょっと兄ちゃんの友達でしょ」


「あんな奴友達でもなんでもねぇよ。嫌味かよ朱理」


「はあ、なにそれ」


せっかく心配したのに。


横暴な来人の態度に朱理は我慢ならず地団太を踏んだ。


「もう兄ちゃんなんて知らない」


ため息と悪態をついて朱理は再び自室にもどっていった。


「なんだよ。みんな。みんな」


自分の惨めさが嫌なくらい感じてしまう。


妹に八つ当たりしてしまった来人は自己嫌悪で泣いていた。


その涙を誰も見ていないのは。


救いかどうか分からない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

学業や転勤で引っ越しされる方が片手間にお読みくださっているのならば本当にお忙しいところ時間を割いていただき嬉しい限りです。

次回の更新は3/11の17:00頃を予定しております。

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