第29話 緑衣の買い取り人
買い取り人であるという女性はヴェルデと名乗り、一方的に会話を進めていった。
来人はそんな彼女に不満を隠しきれなかった
ソファ側をヴェルデに勧めてから来人は椅子に座った。
「とりあえず自分は紅茶ラテの冷たいのを一つ。ヴェルデさんは?」
「スペシャルパフェ一つお願いします」
店員を呼び二人は各々注文した。
頼んだ品が来るまで互いに沈黙。
来人は積極的に取引については話せないと感じて無言。
何を考えているのやら、ヴェルデもまた目を瞑り無言。
大きな鞄を自分の横に置き彼女は黙り続けていた。
「紅茶ラテの方」
「オレです」
先に来人の注文が届く。
それでもすぐに紅茶ラテを口にはしなかった。
届いてから一分ほどして。
目を閉じたままヴェルデが来人へと告げる。
「こちらについてはお構いなく。どうぞ召し上がってください」
「いいんですか。ヴェルデさんの分が来るまでオレ待ちますよ」
「お気遣いなく」
「だったら、じゃあ、いただきます」
なんか本当にやりづらいな。
ヴェルデに促されるまま来人は紅茶ラテを飲んだ。
甘く口の中では紅茶の風味が。
喉を通ろうとすればミルクのコクがやってくる。
冷たくても飲みごたえ抜群の一杯だった。
そうして来人が紅茶ラテを味わっているときだった。
ヴェルデの注文が運ばれてきたのだ。
「お待たせしました。スペシャルパフェの方」
「はい」
この店で一番の値段を誇る一品だ。
巨大な器には沢山の具材が盛られている。
カットされたメロンやバナナに加えてイチゴやラズベリーといった様々な果物。
高く渦巻く生クリームに大きなバニラアイスも忘れてはならない。
とても豪華なパフェがヴェルデの前に届いた。
しかし、自分の注文が来たにも関わらず。
むしろ、それが合図と言わんばかりに。
閉じていた目を開き。
彼女はパフェには手も付けず来人に語り始めた。
「あなたの顔を見るだけのつもりでしたが予定が変わりました」
「なんですって」
これには来人の目の色も変わった。
たたでさえ危険な目にも遭っているのに。
取引が白紙にでもなればたまったものではない。
印象が悪くなるのは分かった上で。
来人はヴェルデの発言に噛みついた。
「まさかここに来て買うのを止めますなんて言いませんよね」
「いいえ、商品受け取りの日を先延ばししてもらいたいのです」
取引の延長を提案されて来人の顔が険しくなる。
正反対にヴェルデは冷静に来人に詳細を告げていく。
「この周辺にはまだあなたの持つものと同じ青い石があります」
「なんですって」
表面上驚きつつも来人は彼女の答えが腑に落ちていた。
アズゥはやはり青い石を隠している。
前々からの予想がヴェルデのおかげで大きく固まったのだ。
「なので、まとめて回収する予定に変更したのです」
「アンタあの石がどれだけ危険か分かっているのかよ」
しかしながら、あの石の危険性はとても高い。
小さな声で来人はヴェルデへと怒りを向けた。
彼女はそれには大して関心を示さず更に提案を続ける。
「元々明日引き取る予定でしたが、あと三日だけあの石を保管してくれますか」
「三日も」
「改めて、提示した額の更に三倍を支払いますよ」
こっそりと。
ヴェルデは来人にしか見えない角度で。
持ってきた鞄のファスナーを下ろした。
わずかに開かれたその中身を見て来人は息をのんだ。
鞄には大量の札束が詰め込まれていたからだ。
「アンタどうしたんだ、これ」
「どうでもいいでしょうそんなこと。では、私はこれにて失礼します」
ファスナーを締め直すとヴェルデは鞄を持って立ち上がった。
結局パフェには一口も手をつけていない。
何も味わうこともなく彼女はレジへと向かった。
「おい、パフェまだ残っているぞ」
「こちらからの奢りです。あなたがお楽しみください」
「ちょっと待ちなって」
来人の呼びかけも虚しく。
レジ前でヴェルデは店員とやり取りを進めていた。
「連れの者がこの後一人残っていてもよろしいですか」
「ええ、構いませんが」
「ありがとうございます。では、お会計を」
ヴェルデは店員から来人が一人残ってもいい許可を得た。
それを確認すると今度は会計へ。
彼女が支払った額は来人の注文も含んだ二人分。
「三千五百円になります」
「電子決済できますか」
「大丈夫ですよ」
服のポケットからヴェルデはスマホを取り出す。
手に取ったそれを利用して彼女は会計を終えた。
「さて」
支払いを済ませたヴェルデが来人に近寄って来た。
「またお会いするのを楽しみにしています」
「こちらこそ」
「あと、それ次会うときまで持っていてください」
ヴェルデは自分が座っていた席を指さした。
そこには緑色のサイリウムのようなスティックがあった。
「持っていてくださいって、なに勝手に変な物渡そうとしてくるんですか」
「それが有るのと無いのとでは大違いですよ」
「いや、だから、もうそうじゃなくて」
「では、お願いします」
「……はい」
あまりに一方的で来人は根負けしてしまった。
鞄以外なにからなにまで緑一色。
変人もいいところ。
人間味の感じられない態度も併せて。
ヴェルデの性格や趣向に来人は呆れた。
「緑色が好きなんですね」
「好きっていうかアイデンティティですね」
「アイデンティティですか」
「ええ。では、今度こそさようなら」
無機質な挨拶の後にヴェルデは来人の前から立ち去っていった。
視界から消えた彼女に来人は不満を漏らす。
「言いたい放題言いやがって」
あの石を予定よりも長く持っていなければならない。
一方的な条件の追加。
しかしながら、自分にはそれを覆す術はない。
今回の面会で更なる不安も追加されてしまった。
見せつけられた大金。
一体どこから調達したのだろうか。
自分が取引する相手は何者なのか。
予想以上に危険人物かもしれない。
ネガティブ要素ばかり増えてしまった。
だからこそ、気分転換が必要だ。
「一旦これ食ってから次の事考えよう」
ヴェルデが奢ってくれたパフェを来人は味わった。
瑞々(みずみず)しいフルーツの果汁が来人の口の中に溢れ出す。
紅茶ラテのクドくなりつつある甘さを洗い流すように。
「ああ食った、食った」
時間はかかったものの。
無事に来人はスペシャルパフェを完食した。
「もう帰ろうっと。うっぷ」
食後モール内の他の店舗には寄っていない。
来人は直帰したのだ。
「だいぶ止んできたな」
早く帰りたい。
そう思い来人がバスを待っていたからなのか。
雨足はどんどん弱まっていった。
まだ曇り空には違いない。
それでも雲の隙間からちょっとずつ太陽が顔を出し始めている。
夕方には晴れるだろう。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
喫茶店の名物パフェって頼みはしないけど心惹かれませんか。
それでは、次回の更新は3/8の17:00頃を予定しております。




