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第27話 兄と妹と雨音と

逢も無事帰宅し食事を始めた錆山兄妹。

来人は逢との会話もあり朱理に自分の妹への接し方を尋ねてみた。

滝のように空から雨が降り注でいる。


夏の大泣きをコーラスに来人と朱理はリビングで夕食をとっていた。


「通知来たけど、逢ちゃん雨降る前に家に着いたらしいよ」


「そいつはよかった」


どしゃぶりで心配だった。


朱理からの報告に来人も穏やかに食事がとれていた。


食卓に並んでいるのはというと。


白米とみそ汁、肉じゃがにサラダとキノコのソテーだ。


「雨ひどいね」


「だな。うるせえな」


雨音以外で二人が耳にしているものはテレビに映る人々の声。


内容は大家族のドキュメンタリーだ。


三人の男の子がゲームの順番で揉める場面が映し出される。


「他にいい番組ないかな」


気ままに朱理がリモコンでチャンネルを変えていく。


そんな妹に来人は問いかけた。


「朱理は弟や妹が欲しいと思ったことあるか」


「別に。今のままでいいよ。兄ちゃん一人で充分だし」


特になんともなく。


夕飯の肉じゃがを味わいつつ朱理は答えた。


「どうしたの、兄ちゃん」


「いや、まあ」


質問したにも関わらず来人自身その理由が分からなかった。


テレビは世界の名画をおごそかに映しだしている。


相変わらず雨粒が激しく鳴っている。


夏の風物詩である蝉の鳴き声もない。


兄と妹の団欒(だんらん)もない。


ぎこちなさ漂う食卓だ。


それが嫌だったのか。


場の空気を強引にでも変えたい、と。


妹側にあったテレビのリモコンに来人は手を伸ばした。


「テレビ変えてもいいか」


「いいよ、見てないし」


リモコンを使いテレビを別のチャンネルに来人は変えた。


画面は再び大家族のドキュメンタリーに。


高校生の次男と次女の二人がアルバイトをしている。


大学には進学しない代わりに今からでも働いていたい。


将来お金が必要になるから。


健気に二人が職場に行く姿がテレビに映されている。


朱理はそんな立派なテレビの中の人物と兄を見比べた。


真顔の妹からの視線に来人はドキっとする。


胸の痛みを感じながら。


辛辣(しんらつ)に言われてもしょうがないと予想もしながら。


自分のこれまでの行いとテレビに映る人物とを。


来人もまた内心比較していた。


なんて言われるんだろうな。


酷評されるだろうと来人は肩を落とす。


しかしながら、朱理の来人への対応は違った。


「逢ちゃんとなに話していたの」


「えっ」


「トイレからもどる時に兄ちゃんと出くわしたって聞いたよ」


「ああうん。そうだけど」


「で、なに話していたの」


「お互い下に兄弟というか、妹や弟がいるから大変だなって」


「ふうん」


「逆にどうしたんだ朱理」


なに考えているんだこいつは。


妹が何を考えているか分からず来人は困った。


正反対にうんうんと朱理は一人でうなずいている。


自分の考えがまとまったのか彼女は一旦箸を置いた。


「さっきのさ、弟か妹が欲しいかって話に戻るけどいい」


「いいけど」


話題が巻き戻ったぞ。


妹が話の主導権を握り出し来人は怖くなった。


一人で納得したからこそ。


更にクリティカルに。


朱理からの批評が飛んできそうだったからだ。


怯えている来人に対し朱理は普段通りに話し出す。


「小学生の頃は特に弟が欲しいと思ったよ」


「やっぱりお前にもあるのか」


「うん。お父さんとお母さんが忙しくなりだした時からね」


あの頃か。


きっと父さん母さんにもっと甘えていたかったろうな、と。


無理もないな、と。


来人もまた妹同様に一人でうなずきだす。


この辺りは兄と妹だろうか。


納得した際には似た者同士。


ひとまず自分の批判じゃない。


それでも油断できない。


情けないと分かりつつも。


さっきよりも緊張を解いて来人は朱理の言葉を待った。


「だって、家族は大勢いた方が賑やかじゃん」


「弟や妹にいばったり、偉そうにしたいとは思わなかったのか?」


「なにそれ。なんで家族にそうする必要あるの」


「オレは朱理に対して仕方ないとはいえ多少そんな態度をとっていたぞ」


「まさか、兄ちゃん、そういうの気にしてたの」


「なんだ悪いか」


「いや、意外。だって、兄ちゃんすぐ忘れてそうだもん」


「いいじゃないか。それで今はどうなんだ」


妹の予想外の答えに驚くも来人は会話を本筋に戻す。


「今はそんなことないよ。だって友達いるし」


「友達は家族じゃないぞ」


「分かってるよ。でも、友達ができたおかげで寂しさも消えたかな」


「なるほどな」


悪いが友達なんて今はいない。


来人は朱理の気持ちを全ては把握しきれなかった。


空き家の前であった野球少年達の話を思い出してみても。


クラスで朱理は人気者だろう。


なんとなく来人にもそれはイメージできた。


「家族に相談したり、甘えたりしたくないのか」


「逆に友達に相談したり甘えるほうが最近のアタシは好きだな」


「そんなものなのか」


「そうだよ。それよりアタシからもいいかい」


「なんだ」


自分の意見を伝えきれたのか。


次は朱理が来人に問う番。


リモコンが兄の手から妹に渡る。


質問の為に朱理はテレビの音量を下げてから来人の顔を見た。


場の空気が重くなっていく。


「兄ちゃんは困ったとき誰に相談するの」


「そりゃ父さん母さんに決まっているだろ。余計なお世話だ」


「ああ、そう。それでもいいけどね。兄ちゃんこそ友達作ればいいのに」


大きなため息をついて朱理はテレビに目を移した。


大家族のドキュメンタリーも終盤。


画面にはスタッフロールが流れている。


アルバイトをしている次男の場面のカットも出てきた。


「この人みたいにもっと別のやり方でお金稼ぎなよ」


「いいだろ、今の内は」


「兄ちゃんを思って言っているのに」


大家族の番組も終了した。


次の楽しみを探すため。


朱理はチャンネルをコロコロと変えていく。


まだ朱理の皿には料理が残っている。


この後も朱理はゆっくり食事を楽しんだ。


対照的に妹との会話を終えた来人は食事をさっさと済ませた。


「ごちそうさまでした。今日の皿洗いは朱理だからな」


「はあい。兄ちゃん」


「あんまりダラダラ食べるなよ」


流し台に自分の皿を運ぶと来人は自室に篭った。


もう小さかった頃の妹じゃない。


部屋で独り来人はまだ幼かった朱理を懐かしんだ。


「かっこ悪いな、オレ」


ますます惨めだ。


もう自分を変えられないかも。


妹からの批評は来人にとって想像以上に重たかった。


「オレどうなるんだろ」


将来、先の不安は自分の進路だけではない。


アズゥや青い石についても。


妹の朱理からの目線についても。


来人の周りには問題ばかり。


直近の課題はアズゥと青い石絡み。


それだけに終わらない。


また別の問題として。


徐々に変わりつつある自分を取り巻く環境もある。


「オレってこのまま独りなのかな」


友人を作らない、作れない、作る必要がない。


妹のおかげで来人は孤独を感じなかった。


しかし、それは甘え。


そのツケが知らず知らずの内にたまっていたのだ。


もう中学生でいられる時間は少ない。


友人を作るほどの余裕も来人にはあまりない。


「変わらないのはオレだけか」


これまで周囲に合わせようとしなかった自分を来人は後悔した。


「そう言えば明日が面会の日だったな」


来人は本棚の上に置いてある缶を見た。


明日、取引の品を持っていくかどうか。


それを決めかねていたからだ。


買い手は石については持参しなくてもいいとしてきた。


「明日も雨らしいし荷物は少ない方がいいな」


悩んでもしょうがない、と。


来人は缶には触れずに一晩過ごした。


未だに缶の中が空だと知らずに。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

雨が強い日の夕飯ってどこか厳かなムードがありませんか。

では、次回の更新は3/6の17:00頃を予定しております。

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