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第26話 忘れられた誤魔化し

誤って石を家の花壇に落とした朱理は急いでそれを探しに行く。

しかし、ちょうどそのタイミングで来人が帰ってきてしまった。

調子に乗りすぎていたかもしれない。


友達の逢も巻き込んでしまっている。


兄の私物である石を失くしてしまい朱里は大慌てだった。


「どこどこ」


石が落ちた先は花壇。


土がクッションにもなったのだろう。


あまり音も立てずに落ちてしまった。


そのため朱理は対象を見失ってしまう。


「アタシちょっと石拾いに行く」


窓を閉めると朱理は大急ぎで外の花壇へと走っていった。


「私も手伝う」


「逢ちゃんは新聞紙とかここの片づけをお願い」


急いでアレを探さないと。


半泣きになりながら朱理は来人のサンダルを履いて目的地に向かった。


「ヤバっ。どこあるの」


花壇に到着し慌てて朱理はその周辺を見渡した。


紫の桔梗(ききょう)が鮮やかに夏の空の下で咲き誇っている。


来人の手入れのおかげだ。


しかし、今の朱理に見惚みとれている暇なんてない。


「マジどこにあるの」


桔梗の咲く赤いレンガでできた花壇。


そこには朱理の探し物によく似た石ばかり。


また美しい花々だが。


その葉や茎は朱理の手を阻んでいた。


「なんでアタシがこんな目に」


泣き言を垂れながらも朱理は石を探した。


とにもかくにも早く見つけないと。


血眼になって朱理が花壇の中を探っている最中だった。


「こんなところでなにやってるんだ朱理」


「おかえり……兄ちゃん」


最も会いたくない人物、兄の来人が帰って来てしまったのだ。


兄の声に朱理は青ざめる。


来人は汗をぬぐいつつその場に自転車を停めた。


「逢ちゃんと遊んでたんじゃないのか」


買い物袋を両手にさげて来人は朱理に詰め寄った。


「兄ちゃん、別になにもないよ」


ぎこちなく笑う朱理に来人の不信感が高まっていく。


来人は持っていた買い物袋を自転車の籠に入れ直した。


「なにを隠している」


「なにも隠してないよ」


誤魔化す朱理を来人は怪しんだ。


嘘が嫌いなのではない。


隠し事が来人は嫌いなのだ。


もうダメかも。


朱理の喉もとにまで真実が昇っていく。


「ちょっとちょっと朱理ちゃん」


ピンチ真っただ中の朱理を呼ぶ声がする。


声の主は二人から離れた所にいた逢だ。


来人は逢に気づくと後ろを振り向いた。


「朱理ちゃん。自転車の鍵見つかったよ」


逢は息を切らしながら大きな声で叫んだ。


来人の注目も今やそちら。


この隙に朱理は兄から少々遠ざかった。


「廊下に落ちてたの。ごめんね探すの手伝ってもらって」


「朱理、そうなのか」


「うん。そうだよ」


「なんだ」


疑って損だったな。


駐輪のために倉庫に来人は向かった。


この場に残されたのは朱理と逢だけ。


「ふう」


二人だけになりようやく朱理は胸を撫で下ろした。


ホっとした朱理に逢は優しく(ささや)く。


「窓の外に来人さんが見えたから来ちゃった」


「サンキュー逢ちゃん」


なんとかなった。


まったりと朱理と逢は家の中へともどっていく。


しかし、二人は来人に言い訳をしただけ。


安心のあまり大事な目的を忘れてしまっていた。


石を拾い忘れていたのだ。


「逢ちゃんあとでジュース(おご)るよ」


「私オレンジジュースがいい」


「……」


いいな、ああいうの。


自転車を停めた来人は朱理と逢の会話を遠巻きに見ていた。


来人が家に入ったのは二人が先に行って何分も経ってから。


「ただいま」


完全に帰宅してからはいつも通り。


自分の部屋で来人はくつろいだ。


朱理と逢の痕跡にも気づかずに。


そのまま一人と二人はそれぞれの時間を楽しんだ。


別れの時間まで皆ずっとそうしていた。


「ごめん朱理ちゃん。そろそろ帰らなきゃ」


「もうこんな時間か」


時刻は五時に差し掛かろうとしている。


「ねえ、朱理ちゃん。お兄さんも呼んできてくれない」


「兄ちゃんを?」


「お願い」


「一応呼んでみるよ」


朱理は逢の見送りのために来人の部屋まで呼びに行った。


「兄ちゃん。逢ちゃんもう帰るから見送りに来て」


「マジで。すぐ行く」


「やけに素直だね」


てっきり断るかと。


予想が外れるも朱理としては手間もかからず都合が良かった。


来人は部屋から出るとすぐに朱理と一緒に玄関まで赴く。


客人である逢の帰りを兄と妹で一緒にお見送り。


「次のバスを逃すと遅くなっちゃうのでここで失礼します」


「んもう、それなら家に泊っちゃう。いいよね兄ちゃん」


「バカ、逢ちゃんの家族が心配するだろう」


「そこは電話なりなんなりで」


「色々ありがとう朱理ちゃん。でも、弟のお世話もあるからね」


最後まで錆山兄妹の微笑ましさを逢は楽しんだ。


後はお別れと再会の挨拶を残すだけ。


「また遊びに来てもいいですか」


「もちろんいつでも大歓迎さ。ほら、なんか兄ちゃんもいいなよ」


「オレも楽しかったよ。また今度お話ししようね」


「さようなら。またお会いしましょう」


他愛もない別れのやり取り。


それでも逢にはとても満足だった。


田舎道を彼女は一人歩いていく。


便には間に合うもののバス停までは家から少々離れている。


天気は夕方過ぎから曇り出すという。


朱理は逢の無事な帰りを願う。


逢の無事な帰宅は朱理が自身のスマホで確かめた。


しかし、空模様の不安は的中する。


晩になると雨雲が夜空を覆って天気はよどんでいた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

自分は小さい頃よくお菓子のつまみ食いの誤魔化しをしたものです。

次回の更新は3/5の17:00頃を予定しています。

ぜひ、お見逃しなく。

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