第22話 妹と弟
顔を洗いに行く途中に来人は逢とばったり出くわす。
彼女は朱理より前々から聞いていた来人について興味深々だった。
スマホをオフにすると顔を洗いに来人は洗面台へと向かっていた。
曇り気味の顔で下を見ている。
そのためか。
前から人が来ていても来人はそれに気づかなかった。
「きゃあ」
「ごめん」
案の定だが。
来人は前から来ていた逢とぶつかってしまった。
水滴が辺りに散ってしまう。
ボーっとしていた来人の意識もこのショックには目が覚めた。
お互い気を遣いすぎるか慌てて取り乱すか。
しかし、逢は落ち着いて来人に微笑んだ。
「大丈夫ですか」
「そっちこそ平気かい」
「はい。なんともありませんよ」
来人の心配にも逢はにこやかに答える。
「よかった。逢ちゃんに何もなくて。ホっとしたよ」
逢の様子も無事で来人は安心した。
妹から釘も刺されている。
滅多なことはできない。
ぶつかって怪我でもさせたら大問題だ。
「さすが朱理ちゃん自慢のお兄さん」
「そう言われるとなんだか照れるな」
社交辞令だろうな。
そう思いつつも来人は逢からの好印象が嬉しかった。
むず痒さはある。
仮にお世辞でも来人は逢から褒められて喜んだ。
「朱理がよく逢ちゃんのこと話していたよ」
名前を来人から呼ばれて嬉しかったのか。
逢は大きくニヤけた。
口元が緩んだまま逢は来人に聞き返す。
「朱理ちゃんはどんなことを話してますか」
「逢ちゃんと一緒に遊んだ時の事とかかな」
嘘だけど、喜んでくれているし、いいかな。
適当な来人の答えだがそれでも逢は嬉しんだ。
「朱理ちゃんも来人さんについてよく話していますよ」
なに喋っているんだろうアイツ。
これには来人も気になってしょうがない。
妹から陰で悪く言われていたらどうしよう。
心当たりしか来人にはない。
「例えば、どんなこと」
恐る恐る来人は尋ねた。
逢は唇に指をあてて朱理との会話を思い出す。
来人は固唾をのんで逢の言葉を待った。
「不器用だけどいい人。でも、せこくて金に目がない」
苦笑いしかない。
もっと優しくておけばよかった。
妹との接し方を改めようと来人は後悔した。
「朱理ちゃんのお兄さんだからもっと体育会系の人かと思ってました」
「ごめんね、なんか期待に応えられなくて」
来人は自分のか細い腕に目を見た。
活発的な朱理に対してやや陰気な来人。
兄妹と言われないと分からない者もいるほどだ。
「来人さんみたいなお兄さんがほしかったな」
後ろで手を組んで逢は語る。
嬉しいけど本気かな。
気持ちはありがたいものの来人は自分の耳を疑った。
「キミも立派なお姉ちゃんじゃないか」
「だって、来人さん優しいし好きな時に甘えられそうだもん」
上目づかいで逢は来人を見つめた。
ほんの少しイジワルそうに。
でも、笑顔は本物ですと言わんばかりに。
「ありがとう」
なんかクラっとする。
ほんの一瞬にも関わらず。
逢の眼差しに来人は見惚れ(みとれ)てしまった。
彼女は目線を来人と同じ高さに合わせると話を続ける。
「私には下に弟が二人いるんです」
「もう一人いるんだ。どんな子だい」
実は二人とも会っているんだけどな。
逢の弟どちらとも面識があるものの。
再び来人は彼女に嘘をついた。
「もう一人がすごくワンパクなんです」
ショッピングモールであった子だな。
この子が原因で来人は妹から怒鳴られてしまった。
悪い意味で印象深い。
「いつもあやすのに苦労します」
「元気な妹がいるからその気持ち分かるよ。」
自分より年下なのに。
姉としてしっかりしている逢に来人は感激した。
「こないだはどうして図書館に来てたんだい」
「本が好きな下の弟に頼まれたんです」
「オレが会ったときはUFOの本を持ってたけど宇宙が好きなのかい」
「そうなんです。漫画やアニメの影響で慎太は星や宇宙船に興味があるんです」
「勉強熱心だね」
「ええ、将来は大勢が乗れるような宇宙船を作りたいって言っていました」
「へえ、すごいな」
逢との会話は来人にとって新鮮だった。
お互い妹や弟がいるからその大変さが分かち合える。
そんな人物に来人は中学生になって初めて出会えたからだ。
久しぶりだな、こんな話をするのは。
来人は小学生以来の感覚を懐かしんだ。
中学生になる前は。
友達と当たり前にしていた他愛のない会話を。
「いけない、朱理ちゃんが待っている。もう行きますね」
朱理を案じて逢はリビングへと戻っていった。
「話せて楽しかったよ」
「ハイ、こちらこそ楽しかったです」
逢がリビングに行くと再び家に活気が湧いてきた。
妹達の仲に混じりはしない。
それでも「もう少しだけこの賑やかさが続いたらな」と来人は思った。
「顔洗わなくてもイイかな」
洗面台には行かずに来人は自分の部屋へと引き返した。
妹の友達付き合いを乱すつもりはない。
ただ、逢にまたどこかで会えたらな、と。
女々しいからこそ。
独りでいてばかりだからこそ。
来人は彼女ともう少し二人で過ごしたかった。
「オレ、なんかストーカーみたいで嫌だな」
楽しかった。うん、楽しかった。
でも、次は期待しないようにしよう。
自虐気味に来人は自分の部屋で一人スマホのゲームで遊んだ。
部屋からはゲームのBGMと効果音しか鳴っていない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
もう2月も終わります。今年はうるう年でしたので一日お得な気分ですね。
次回の更新は3/1の17:00頃を予定しています。
3月になってもよろしくお願いします




