第21話 分岐点を探る
朱理は友達の逢を家に連れてきた。
二人の仲を邪魔するわけにもいかず来人は自室に篭る。
そこで自身の交友関係について振り返り始めた。
野球部の少年達に来人が絡まれた夜から数日後。
昼間でも来人は自室に籠りスマホで新しいネタを探していた。
「今日も収穫なしか」
慣れた手つきだが情報収集までには至っていない。
ちょっと休もう。
スマホを机に置き来人は休憩をとりだす。
台所に向かっていると来人は外から妹の声を耳にした。
「兄ちゃんただいま」
「お帰り朱理。あれ、キミって確か……」
来人は首を傾げて妹の隣の少女を見た。
その少女に見覚えがあったからだ。
「キミこないだ図書館にいたよね」
緊張しているのだろうか。
長身の女の子は朱理の背に隠れる。
彼女に気を遣って来人は軽く笑ってみせた。
「この子は逢ちゃん。兄ちゃんいつ知り合ったの?」
「こないだちょっとな。朱理の兄の来人です」
「改めまして桜坂逢と申します」
逢はハニカミながら来人に挨拶する。
それに来人が応えると逢は朱理の肩に顔をうずめた。
気まずいなと。
この場を離れようとする来人に朱理が耳打ちする。
「頼むから変なことしないでよ」
来人は首を縦に振る。
改めて冷蔵庫へ飲み物を取りに行った。
「あんまり大声で騒ぐなよ」
麦茶を飲み終えて朱理に聞こえないように。
独り来人は口を尖らせた。
「騒ぐな、つったのに」
朱理と逢の会話がリビングから響く。
可愛らしい賑やかさだ。
来人はというと独りフリマアプリでネタ探し。
ネットの世界をさ迷ってガールズトークを遮断していた。
画面を眺めながら来人は黙々と指を動かす。
そのとき、ふと来人は思った。
「オレって最後家に友達呼んだのいつだっけ」
来人はこれまでの自身について記憶をたどっていく。
「小学生の頃はまだ家で遊んでいたよな」
自分の部屋にまだ残っている棚に置かれた来人の宝物たち。
最新のゲーム機。
三年以上前のアニメのプラモデル。
「こいつらは売れねえよな」
椅子から立ち上がり来人はそれらを手にした。
流行りの作品を遊ぶためにゲーム機本体はとっておきたい。
プラモは出品にするには拙すぎる。
職人の作品と比べれば写真すら撮るのもためらう。
「オレって今までどう生きてきたんだろう」
自分自身を更に掘り返してみる。
感傷に浸りながら。
自身の過去を振り返っていった。
来人は心の中のアルバムのページをめくっていく。
小学生のパートは割と早く済んだ。
思い出がないのでなく。
小学生の卒業式付近で。
回想をやめたからだ。
理由は自分と一緒にいた友達の変化によるものだ。
それが記憶というアルバムの。
前のページへの読みもどしを。
来人から妨げた。
「あいつら元気かな」
中学生になり来人の周囲は一変する。
部活動や塾通い。
もう遊んでばかりもいられない。
既に将来を見据えていたい。
もっとコミュニティを広げたい。
小学生から中学生への変化は来人にとっては大きかった。
「なんだかな」
友人とのすれ違いも増えていく。
クラスも別々になり学校で会う機会も減る。
時間が経つにつれて来人の中学時代は独りが増えた。
来人には妹である朱理と過ごした記憶ばかり。
他にも来人が孤立していった原因はある。
両親の多忙さだ。
これにより来人は親に代わって妹の面倒を見る機会が増えた。
家庭の事情も来人の交友関係を狭めていたのだ。
しかしながら、来人はしだいに友人がいなくても苦でなかった。
それは妹のおかげだ。
「中学入ってから朱理としか話してないな」
兄として。
来人は妹の朱理の世話をしなければならなかった。
一方で朱理は来人の話し相手にもなっていたのだ。
「オレってとんだ構ってちゃんかもな」
内心を話せるのは妹だけ。
情けないな。
ため息をつき来人は朱理に感謝した。
兄を最も理解しているのが妹だと気づいたからだ。
朱理もまた色々言いつつも大体来人の言葉を聞いている。
お互い様の関係かもしれない。
そう思ったからこそ。
自分は妹離れできない。
妙な結論に来人は自分自身に呆れた。
「なんか嫌な兄ちゃんだな、オレ」
妹に依存しているからこそ友達との距離も広がっていった。
まるで妹を言い訳にしているようだ。
孤立した原因を考えていく内に来人は自己嫌悪していた。
「最初からこうだったかな」
もう少しだけ昔を思い出してみよう。
再び来人は自分自身について省みる。
友達と遊びたい。
中学生になってすぐの来人はまだその気持ちがあった。
向こうも暇さえあれば遊んでくれる。
だから、自分一人だけでも色々やっておこう。
一人でトレーディングカードを集めた。
ゲームもやりこんだ。
子供らしい思いを秘めつつ来人は中学生活を二年過ごしていた。
しかし、それらの行いは真逆に作用した。
来人の想いとは裏腹に別の道を示した。
フリマアプリのリリース。
それが来人の友達への執着がなくなった瞬間だ。
「最初は自分のデッキだったな、確か」
友人との思い出が詰まった自分のデッキ。
大事なカードを売却した時のことを来人は思い出す。
そのときの問題についても振り返る。
アプリの年齢制限やスマホなどについてだ。
これも親に相談すればなんとかなった。
自らのアカウントを利用してもいい。
そう両親が来人に許可したからだ。
「けっこう売れたなアレ」
これが来人にとっての大きな転機となった。
最初に売却したカード類は予想以上に高値で売れたからだ。
上手く売り捌けば。
仕入れ値どころかお釣りもくる。
来人は世界の裏技を知った気分で舞い上がった。
「ここからネットにもハマったな」
遊ぶ為から一転して。
売るために来人は物品を買い漁るようになった。
小学生のブームにまで手を出している。
愛着なんて言葉はない。
思い出の否定で今の来人は成り立っている。
「朱理はオレと違うんだよな」
妹の朱理の進む道は兄とは違う。
積極的に交流関係を広げている。
兄離れするのも時間の問題だ。
「高校に入ってもオレこの調子かな」
リビングとは対照的に来人の部屋は静かだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
さて、次回の更新は2/29の17:00頃になります。
ずっと追い続けられている方にとってはもう一か月分近くになるため本当にうれしい限りです。




