第20話 友達と思い出の証拠
夜になり来人は空き家へ行くが先客がいた。
来人の通う学校の野球部の少年達だ。
今夜は空き家には入れなかったと彼らは告げる。
食事を終えた来人はすぐにアズゥのいる空き家に行く準備をした。
今回は家のガレージにあった工作用の配線やケーブルも少々拝借している。
ここ数日で来人は夜道にもすっかり慣れていた。
暗い道を愛車で走るのにも随分余裕ができた。
「もう少しだな」
空き家までの道のりも覚えた。
来人は早々に空き家まであっさりと辿り着いた。
「なんだありゃ」
廃屋に差し掛かかる窪みの手前にて。
数台の自転車が停まっているのを来人は目にした。
「肝試しの奴らか」
妹の同級生が懲りずに侵入しているのだろう。
来人が推測しながら壁の手前まで来たとき。
「帰ろうぜ」
「ったく、何が幽霊だよ」
「つまんねえな」
塀の向こうから活きのいい少年達の声が響く。
直後、坊主頭の少年らが空き家側の壁から姿を出してきた。
そのまま彼らは来人にぶつからない位置に着地した。
驚いた来人は後ろに下がって彼らから距離を置く。
ケンカになるかもしれない。
来人は更に後ずさりし身構えた。
それに対し彼らの内の一人が来人に馴れ馴れしく近寄る。
グループのリーダー格であろうか。
「お前も肝試しか。残念だけど開いてなかったよ」
「そうなんだ。ガッカリだな」
ニヤニヤ笑う目の前の少年に来人は曖昧な返事をした。
敵意もなく嘘をついている様子もない。
夜は開けていると言っていたのに。
アズゥの矛盾に来人の中に疑問が生まれた。
もうここに用事はないな。
目的も無くなった。
帰ろうとする来人をリーダー格の少年が呼び止める。
「待ちなって。アンタも同じ学校だろ」
無視してもよかった。
しかし、少年のしつこさにしかたなく来人は返答した。
下手をすればいざこざになってしまうかもしれない。
余計なトラブルを回避するためだ。
「そうだよ」
この回答に気を良くしたのか少年は饒舌になる。
嫌々ながらも来人はそれに付き合った。
少年たちの話はこうだ。
彼らは野球部の一年生の集まり。
メンバーの恋の成就の為に空き家へと赴いた。
しかしながら、扉が閉まっており中に入れずじまい。
諦めて帰ろうとした際に来人と出くわしたという。
「ところで名前はなんていうの」
名前を答えるかどうか来人は迷った。
答えないと放してもらえそうにない。
しぶしぶ来人は自分の名前を野球少年たちに告げた。
「来人だ。錆山来人だ。これでも中三でお前らより年上だぞ」
それを聞いた少年たちの間に動揺が生まれた。
更には来人への口調を改め始めた。
しばらく場が揺らいだ。
原因はきっと自分の名前だろう。
なんとなくそれを来人は察した。
「おま、ちょ、これチャンスだぞ」
「押すなって、おい」
動揺が一段落したと思いきや。
少年達の中から眼鏡を掛けた一人が出てきた。
彼は来人へと近づき話しかける。
「もしかして朱理さんのお兄さんですか」
「そうだけど」
とまどう来人とは対照的に眼鏡の少年は意気揚々だ。
この子が発端か。
眉をひそめて来人は眼鏡の少年の話の続きを待った。
自分の妹である朱理を彼は好き。
ショッキングな事実に来人は軽く頭痛がした。
「お兄さん、ぜひ朱理さんのタイプを教えてください」
「がっつきすぎだぞ。お兄さんも困ってるだろ」
仲間からからかわれていることにも構わずに。
眼鏡の少年はぐいぐい来人に詰め寄る。
「ちょっと待て。近いって」
耐えきれず来人は眼鏡の少年に向かって叫んだ。
「朱理をお前なんかに渡すかよ」
「お兄さん、そんなこと言わないで」
もはや少年は暴走していた。
それを見かねたのか。
グループのリーダーがなし崩し的に眼鏡の男の子を来人から離した。
「落ち着けってお前も。それにずっとここにいると狙われるぜ」
リーダーの少年の発言に来人は引っ掛かった。
もう少し聞いておこう。
呼吸が整ったところで来人はその少年に尋ねた。
「狙われるって誰に」
「凶悪犯ですよ」
リーダーの少年は口を横へ伸ばして地面にできた窪みを指さす。
「もしかしたら極悪人があそこに潜伏しているかもしれませんよ」
「まさか」
アズゥの顔が思い浮かび来人は冗談半分で受け止めた。
なおも少年は話を続ける。
「女の幽霊がそうだって言われているんです」
「幽霊の正体が凶悪犯だなんて漫画やゲームじゃあるまいし」
「まあそう言わずに。それにここも取り壊しになるかもしれませんよ」
言い終えて気が済んだのかリーダーは仲間たちに声を掛ける。
「もう帰ろうぜ。お兄さんもここにはもう近寄らない方がいいよ」
そうして野球少年たちは来人の前から姿を消した。
残された来人は苦い表情でそれを見送り続けた。
「なんだったんだよアイツら」
来人は後輩たちのノリや雰囲気が苦手で堪らなかったのだ。
他人の思い出作りに自分が利用された。
そんな気がして来人は嫌気がさしていた。
気を取り直し来人は地面に空いた窪みへと近づく。
ライトを当て確かめるとその凄まじさが分かる。
すり鉢状となった窪みの側面の砂利が中央の底へと静かに落ちていく。
「確かにこんなものが突然できたら不安にもなるな」
原因を知る来人はクレーター自体には興味はない。
来人の興味はアズゥと彼女から贈られた青い鉱石だ。
もう帰ろう。
そう思ったはずなのに。
少年たちの話を聞いたからなのか。
尚更アズゥに来人は会いたくなった。
「取り壊される前に情報を聞きださないとな」
アズゥへの配慮ではない。
金の為だ。
大金を失うかもしれない。
焦りはビジネスの不安からくるもの。
分かっているはずなのに。
彼女の心配もしてしまう。
来人は自分の気持ちが割り切れずにいた。
「やっぱりアズゥに会いに行こう」
配線の入ったリュックを来人は背負いなおした。
そして、壁を越えて空き家の敷地内へ。
もはや雑草など気にもとめない。
速やかに玄関に来人は辿り着いた。
「あいつらを疑うわけじゃねえけどさ」
玄関の扉に来人は手をかけた。
しかし、結果は虚しいだけ。
日中に訪れた時と同じく。
ドアが開く気配はない。
「なんで今日に限って閉めてんだよ」
思わず来人は扉を蹴ってしまった。
「にゃっ」
「なんだ猫かよ」
偶然それを耳にした野良猫が驚いて逃げ出していく。
ここには寂しげな来人しかいない。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
やんちゃな少年達が目立つ回でしたね。
それでは次回更新は2/28の17:00頃を予定しています。
ぜひご覧ください。




