第16話 作業
捨ててあったプラネタリウムを直すだけ。
あとはアズゥとの他愛のない会話ばかり。
地下室で来人は彼女とそんな一時を過ごしていた。
「来人は優しいね」
「は、はい」
なにを考えているんだ、この人は。
アズゥがなにを企んでいるのか。
そればかりで来人の頭はいっぱいだった。
「友達呼んできてもいいのよ」
「友達ならアズゥがいるじゃないか」
ぎこちなく笑いながら来人はアズゥの問いに答えた。
また来人は腕を背中に回す。
握り拳はアズゥからは見えない。
「とことんおませさん。でも、本当は単に捻くれてるだけでしょ」
「そんなことない」
「否定するあたり図星かな」
言及されたくない話題だなと。
俯いて来人はアズゥの話を逸らした。
石についてこれ以上聞いても無駄だろう。
話をズラさないと。
身近になにかないかと。
周囲を見渡し来人はネタを探した。
ちょうどよい物をすぐ目にする。
「あのプラネタリウムはもしかして捨ててあったものですか」
「当たり。鋭いね」
勝手にとるのはよくないよな。
来人はアズゥの返答をこれ以上言及しなかった。
彼女の破天荒さはもう逞しいだけで済まされない。
「大丈夫、大丈夫」
「本当に」
「うん。ちゃんとゴミ捨て場に捨ててあったからね」
ここまで常識破りとは。
来人はこれまで会ったことがないタイプの人間に困惑した。
それだけではない。
手間をかけてまでガラクタを直すアズゥについて。
どうしても来人は理解できなかった。
「捨ててあるものを拾うだけ無駄ですよ」
「バカね来人、それを直すから楽しいじゃないの」
雑談をしたら、したらで。
またもや来人はアズゥのペースに飲みこまれていく。
しかしながら、ここは敢えて交流の為にも。
もう少しだけ。
我慢して来人はアズゥとお喋りをした。
「そもそも星が見たいなら外に出ればいいじゃないですか」
「だって、お外に出たくないもん」
ニートか、この人は。
屁理屈理に来人は呆れた。
典型的なぐうたら思考だ。
家事や妹の世話をしていた自分を思い出し。
アズゥの話を聞いて来人は彼女にまたもや呆れた。
「よくそんなので生きていけますね」
「私くらいの根無し草になるとこれくらい当然よ」
「昼間鍵を掛けているのはもしかして」
「もちろん眠りを邪魔されないためよ」
アズゥは来人の思う以上に自堕落な生活をしていた。
ここである矛盾に気づく。
「夜中も鍵を掛けておけばよかったのに」
「なんでなんで」
「昨日オレから踏みつけられずに済んだのに」
「ああね」
それをしないのは。
やはり、アズゥには狙いがあるかもしれない。
危険性を来人は疑った。
「夜くらいは誰か来てほしいじゃん」
アズゥの返答はいい加減だった。
深読みし過ぎか。
余計な勘ぐりを来人は捨てた。
自由に生きているだけか。
アズゥは何事も自分の物差しで好きに生きている。
これ以上彼女のペースに巻き込まれるのも勘弁したい。
それもあってか来人は黙り続けた。
「いい加減帰らないと妹さんも心配するわよ」
アズゥの言葉に従い来人はスマホを確認した。
見れば十一時を越えている。
また帰りが遅くなれば。
きっと朱理も心配するだろう。
来人は家に帰ろうと決めた。
「そうですね。今日はもう帰ります」
もう今日はこれくらいにしておこう。
ビリヤード台の上に来人は手を伸ばす。
そこにはアズゥのお手製のプラネタリウムが並んでいた。
「これ貰っていきますね」
「いいわよ。そうだ良いこと教えてあげる」
「恋のアドバイスとかですか」
またからかうんだろうな。
アズゥの言葉は適当に返そう。
地下室の入り口まで来人はもう来ていた。
無視もできない。
いいように返事して切り抜けよう。
早く帰りたくて来人はしょうがなかった。
「プレゼントを月の光には当てないことね」
衝撃のアドバイスに来人は驚く。
石の変化について。
現象がまさしくアズゥの言う通りだ。
更にアズゥは語りだした。
「もしアレの姿が変わったらすぐに水をかけなさない」
「水を」
「そうすれば元に戻るし、その隙に袋や缶の中に入れるといいわね」
急に青い石の対処法をアズゥは来人に教えていく。
サプライズではあるが。
むしろ、来人はより彼女の正体を知りたくなった。
「アズゥ、あなた何者なんですか」
「見た通りよ」
「……へぇ」
これ以上の詮索は危険だ。
直感的に来人は引き際をわきまえた。
「今日は色々とありがとうございました」
これくらいにしておこう。
アズゥの話を聞くと来人はすぐ地下室を後にした。
彼女の謎には金の匂いがする。
来人はそれを察した。
だが、未知の恐怖も潜んでいる。
ハイリスク・ハイリターン。
しかし、あまりにもリスクが大きすぎる。
だからこそ、もう引き下がれない。
一か八か上等。
やけ気味だからこそ来人は決心した。
「こうなったら行けるところまで行ってやる」
中学生らしい好奇心で恐怖心を拭うも。
来人はまだ子供だ。
空き家から出て来人は空を見上げた。
「雨は降ってないか」
夜空には灰色の雲がいくつか浮かんでいる。
ただ、雨は一滴も降っていない。
銀色の月が雲という灰色のインクで遮られているだけ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
まだまだ中盤の前半ほどですがこの後も続けてお読みいただければ幸いです。
次回の更新は2/24の17:00頃を予定しています。




