第15話 探りあい
夜となり来人は再び空き家の中に足を踏み入れる。
今回は妹からの依頼だけでない。
青い石についても彼女に尋ねるためにも。
田舎の外れに寂しく建つ空き家。
来人にとっては本日二度目の来訪だ。
来人が朝に来た時とまったく同じ状態だ。
人気のないこの土地にはカエルの合唱がよく響く。
「早いとこ済ませよう」
自転車を置いて手際よく空き家への侵入を来人は試みる。
「よいしょっと」
コンクリートの壁を飛び越えて来人は敷地へ入った。
手前勝手ながらも来人を気に留める人物はこの場にいない。
「気乗りしないな」
着地後体制も整えた。
懐中電灯のスイッチも点けた。
鬱陶しい雑草も掻き分けた。
あとはドアを開けるだけ。
来人は深く考えずドンドン進んだ。
「開いてるかな」
朝方は閉じていただけに扉を持つ来人の手に力が入る。
それにも関わらず扉はあっけなく開いた。
「バカらしい」
午前中の苦労を思い出し来人はため息をついた。
気持ちも新たに来人は空き家の内部へと足を踏み入れる。
余計な散策はなし。
来人は真っ直ぐアズゥのいる地下室を目指した。
不潔な屋内に悶えつつも来人は地下室へと続く階段をなんなく見つけた。
「寝てるだろうな、あの干物女」
地下室のドアの前で来人は足を止める。
「気を遣うだけ無駄か」
開き直ると来人は深呼吸を始め一人でカウントダウンを取った。
「三、二、一」
扉が開くと同時にタックルの体勢で来人は部屋になだれ込んだ。
先手必勝の来人の行動であるが空回りする。
そこは来人が想像していた暗闇の世界ではなかった。
アズゥも眠ってはいなかった。
彼女は電球の入ったランタンをビリヤード台の上にのせて機械を弄っていた。
「いらっしゃい。また来ると思ってたよ」
照明際で陽気にアズゥは笑う。
大きく張りのある笑い声は地下室によく響く。
敵意や裏のない雰囲気ではあるものの。
それでも来人は警戒を解こうとはしない。
もとをただせば昨夜の出来事の発端は彼女だ。
「機械好きなんですね」
作り笑いをして何げなく来人はアズゥに近づいた。
もちろん一定の距離をとった上で。
ランプの明かりが地下室の壁に二人のシルエットを生み出す。
「機械弄りに限らずこういう一人遊び好きなのよ」
アズゥは軍手のまま自分の鼻をこする。
豪快なアズゥに来人はたじろぐ。
「昨日アズゥが渡してくれたプレゼントについて教えてください」
得体の知れない相手に変わりはない。
来人は慎重に言葉を選ぶ。
情報は引き出せるだけ引き出すに越したことはない。
台の上に並んでいるお手製プラネタリウムを除けてアズゥはそこに腰掛けた。
そして、目を細めてアズゥは含み笑いを浮かべる。
「どうしてそんなこと聞くの」
金儲け兼厄介払いと。
そんな本音を来人が言えるわけがない。
下心を見せては命取りだろう。
昨夜こそアズゥは売りに出しても構わない。
彼女はそう言っていたものの。
あの石は危なすぎる。
彼女がそれを知らないわけがない。
「まさか私を怪しんでいるの」
来人はアズゥの企みをハッキリさせたかった。
とにかく石の素性を突き止めたかったのだ。
一番はアズゥの目的に沿いたい。
これなら情報が得られるのはもちろん。
追加で更にあの石が入手できると来人は踏んだからだ。
あの青い石は上手くコントロールできれば金の卵になる。
そう睨んだ来人にアズゥからの信頼は必要不可欠であった。
「嫌だなアズゥ、オレはあなたと仲良くしたいだけですよ」
にこやかに来人はアズゥに応じた。
アズゥもそれに気を良くする。
「じゃあ、改めてお近づきの握手をしない」
手を差し出し彼女は来人に握手を求める。
もちろん来人はそれに応じた。
「っう。めちゃ力ありますね」
「ごめんごめん。強すぎちゃった」
「いえ、これくらいへっちゃらっす」
万力か、この馬鹿力は。
来人はアズゥから握られていた右手をいたわるように撫でた。
あまりにも彼女の力は強かったのだ。
父親や体育教師と握手を交わしたときですら。
これほどの圧力はなかった。
未だかつて味わった憶えのない剛腕。
握手の後も来人はしばらく小さく悶えていた。
「嬉しいわ、じゃあこれ直すの手伝ってくれる」
満面の笑顔でアズゥは壊れた機械を来人に見せびらかした。
抱きかかえていた内部が剥き出しのプラネタリウムを。
その直し方など正直分からない。
しかしながら、来人のとる行動は一つしかない。
「喜んでお手伝いしますよ」
この作業、来人には文句なんて言えない。
全ては安全と金の為だ。
ただ、強かさは忘れてはいない。
「実はすごく言いにくいんですけど……」
作業に入る前、来人は妹の頼みをアズゥに話すのも忘れなかった。
「ごめんなさい。せっかく貰ったのに」
「いいって、いいって。キミが無事なだけでもお姉さん嬉しいからさ」
ドラゴンに襲われたとは言わず。
暗い夜道で転んで自転車で潰してしまった。
理由は真実ではない。
それでも来人の謝罪にアズゥは納得してくれたのだ。
「にしても来人はよくこんな所に一人で来るよね」
「一人が好きなんです」
「そういうませたところお姉さん好きよ」
電飾をボロ布で磨く来人の頭をアズゥが撫でる。
中学生になり来人は人からあまり好意を向けられた憶えが無かった。
だからこそ、彼女のスキンシップがこそばゆかった。
「止めてください、アズゥ」
「残念。でもね、好きでもない人に私はこんなことしないわ」
こうして二人は黙々と互いの作業に戻った。
ただ、内部を調べていくと足りない部品が多く判明してしまう。
今日の作業を中止しようと来人はアズゥに提案した。
「じゃあまた今度にしようか」
「そうですね」
これで無事に家に帰れると思うと来人は内心ホッとした。
「お疲れ、体には気を付けてね」
「平気ですって、アズゥこそ体を大事にしないといけませんよ」
「そうだね、私もお婆ちゃんだしね」
見た目二十代近くのアズゥの冗談を来人は聞き流した。
本題に踏み入ろう。
話題を変えてより深い質問を彼女にする。
「ところで、あの青く光る石はいつ手に入れましたか」
この問いにアズゥは来人の顔を見ようとしない。
ドライバーを指先で回しがら彼女は答えた。
「ずっと昔」
「具体的にいつ」
「忘れるくらい昔って言ったら」
「もしかして四十年以上昔とか」
「来人ったら」
おほほとアズゥはにこやかに笑う。
曖昧で大雑把すぎる答え。
来人は笑いつつも不服をグッと堪えた。
小学生でもっとマシな答えができるのに。
内心を隠しながら来人は次の質問をした。
「それじゃどこで手に入れました」
「気づいたら持ってた、かな」
アズゥの質問への回答は話の腰を折るものばかり。
聞く側の来人としては苛立つばかりであった。
話しているだけで疲れてしまう。
なぜか来人はアズゥと妹を重ねていた。
「もしかして石が勝手に歩いてきたりして」
半ばやけっぱちの冗談。
しかし、アズゥはこれにパチンと指を鳴らした。
よほどこのジョークを気に入ったのだろうか。
「いいね、今度聞かれたら私そう言うよ」
「ありがとうアズゥ」
少しはこっちの気持ちも考えてくれよ。
ずっと呆れてばかりも辛抱ならない。
自分だってそんなに大人じゃない。
いつでもアズゥを殴れるようにと。
彼女に見えないようにと。
背中の後ろで来人は静かに拳に力を込めた。
もっともそんなタイミングは訪れない。
いつまでもアズゥは笑顔で来人の頭を撫でるだけ。
こんな調子がずっと続いた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この後謎の女性アズゥは来人にどう接していくのでしょうか。
ぜひ次回もご覧になってください。
次の更新は2/23の17:00頃を予定しています。




