3話 3つ目の理由
バスに揺られて2時間、郊外にあるちょっとした森林の近くに旧友はいた。
俺は持ってきたコントリーマアムとフェンタをその場に置き、そいつに声をかけた。
「久しぶり、会うの1年ぶりだな。お前が好きなお菓子持ってきてやったぞ」
旧友は久しぶりに会って恥ずかしいのか全く声を発さない。
俺は気にせず、いきなり本題に入った。
「早速だけどこれ、見てよ。このVtuberの雨衣さくら、どう思う?」
シーン、と辺りに気まずい雰囲気が流れる。
ま、まあ無名のVtuberだし知らなくて当然か。
「実はこいつ、俺の幼馴染なんだけどさ...ぶっちゃけ嫌いなんだよねこいつ!おせっかいでお人好しだし!その癖、頼まれたら断れない性格だから良いように使われてても気付いてないしw」
ここ数ヶ月誰にも打ち明けられなかった反動で俺は一呼吸で沢山喋ってしまう。
「こいつのことクラスのやつらに言いふらそうとしたんだけど俺、友達いないの忘れててwお前が俺と同じ学校だったら俺はこんな悩むことは無かったのに!」
なあ、れいん?と俺は目の前の”旧友”に問いかけた。
しかし返事は返ってこない。
それもそのはず、墓石というのは遺骨が収納されているだけで、そこに生身の人間は存在しないからだ。
「久しぶりだから全部言うぞ。俺はお前なんか嫌いだ。その理由は全部で3つある!1つ目はお節介なところ!2つ目は八方美人なところ!3つ目はなんだと思う?」
誰もいない墓の前で俺は彼女に語りかける。
俺はどうしても彼女に3つ目を告げる必要があった。
「最後まで俺を頼らずに勝手にいなくなったところだよ。この...大馬鹿者が」
1年前の今日櫻井れいんは自殺した。
彼女は自分を慕う人間の悩みを同じように抱え、それに耐えきれなくなってビルの屋上から飛び降りた。
『1日だけ自分じゃない人間になれたらなあ』
『はあ?なんだよそれ、櫻井ほどの人気者がなんでそんなこと言うんだよ』
『...本当の自分が分からないの。だから少しで良いから何も気にせず本当の自分で生きてみたいんだよ』
この会話が彼女との最後の記憶だった。
つまり、雨衣さくらというVtuberはリアルで自分を殺して生きていた櫻井れいんが唯一本当の自分を表現できる居場所だったのだ。
「お前が死んだせいで、俺はまたぼっちに逆戻りだよ...俺はまだお前に何にも返せてないのに...勝手に死にやがって...」
堪えていた涙が溢れ出ていく。
俺がクラスメイト達に知らせたかった理由、それは彼女をただのお人好しのまま死なせたくなかったから。
彼女が本来歩むべきだった雨衣さくらという人生を1人でも良いから誰かに知って欲しかった。
俺はこれから何年かかっても雨衣さくらの存在を他
者に訴えるだろう。
かつて彼女が俺に対してそうしてくれたように。
「さよなら櫻井れいん。喜べ雨衣さくら。俺がお前が押し殺してきた”本当のお前”を皆に知らしめてやる。だから...お前の人生はきっとこれからだよ」
それが俺が大好きだった幼馴染を殺した櫻井れいんに出来る唯一の復讐なのだから。
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