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ただ、オーパーツを落としただけなのに

作者: 田池 多季

無意味だと分かっていても、つい何かにすがりたくなること、ありますよね。


本作は、「第3回『下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ』大賞」応募作品です。


どうも、神様です。


今日は、私が落としてしまったほんの些細なものがオーパーツになってしまった、というお話をいたしましょう。オーパーツとは、その時代の科学技術では作れないはずの加工品、と説明すればよろしいでしょうか。


そこは、一万人ほどの人々が住む諸島の国でした。島々の中に一番大きな火山島があり、そこに国のほとんどの人が住んでいます。周囲には大海原が広がっており、漁船や商船など様々な船が行き来していました。


ある時、漁師が、海に漂う布状のものを引き上げます。それは正確な正方形に裁ち切られており、大きさは、顔のひとまわり広い程度でした。そして、その生地は、どの国の布にもないほどに滑らかでした。


その布が火山島に持ち込まれるやいなや、布の正体について議論が巻き起こります。


海に没した古代都市から流れ着いたものだとか、天上の神の世界から落ちてきたものだとか。


二つ目は合っていましたが、ここからが大変です。


布に触れると、様々な御利益があると言い出した者が現れたのです。いわく、無病息災・家内安全・千客万来・夫婦円満・子宝成就・悪霊退散などなど、至れり尽くせりでした。しかも、眺めるだけでも御利益があると言い出す者まで現れるではありませんか。


結局、布は島一番の金持ちが所有し、彼はますます儲かることになります。もちろんこれは彼の運と努力の賜物で、布は関係ありません。しかし島の人々は、これが布の御利益だという想いをますます募らせました。


金持ちが亡くなると、布は国の宝なのだから広く公開すべきという気運が高まりました。彼らは莫大な金を使い、布を祭る寺院を建立します。人々は、毎日のように寺院に参り、祈りを捧げました。


これは、近年増えてきた地震に不安を感じていたためでもありましょう。火山が噴火すれば、島がどうなるかわからない。そういう心配が、人々を祈りへと駆り立てました。


ただ、祈ったところで効果はありません。結局、火山は噴火し、火砕流で押し出された海水が津波となって押し寄せ、島にあったものは皆、焼かれるか流されるかしてしまいました。布はまた、海へと戻ったのです。


祈るための金と時間があれば、島から避難するなど、被害を抑える対策はいくつも取れたことでしょう。


すべては、布に期待をしすぎたせいでした。


私はただ、ハンカチを落としただけなのですから。

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